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総務省の『SIMロック解除のガイドライン』で何が変わるのか(石川温氏寄稿)

2014年11月02日 08時00分更新

SIMロック解除のガイドライン

 10月31日、総務省は『SIMロック解除に関するガイドライン』改正案を発表。これにより2015年度より、SIMロック解除が義務化される方針となった。

 これまでもドコモが主にAndroidスマホにおいて、SIMロック解除に対応してきたが、義務化により、auやソフトバンク、さらにドコモでもiPhoneがSIMロック解除対応になる見込みだ。

 現状、ドコモでは3000円の手数料が必要だが、改正案では原則無料でSIMロック解除に応じるようにとも言及しており、ユーザーは気軽にSIMロックを解除できるようになる。

 ただし、現在、販売されている端末は対応できず、義務化となる2015年5月以降に発売されるモデルが対応になると思われる。現実的には来年の夏モデル、さらに毎年9月に発売されるiPhoneの新製品からSIMロック解除対応になりそうだ。

 SIMロック解除については2011年からドコモが対応してきたが、auやソフトバンクは「方式が異なるので難しい」や「販売価格が高くなるので現実的ではない」、「SIMロック解除対応機種を販売してみたが人気がなく、需要がないと判断した」など、のらりくらりと言い訳を続け、本腰を入れてこなかった経緯がある。

 義務化により、SIMロック解除が促進されると期待されるが、ドコモの加藤薫社長は「ドコモの端末がほかで動くか心配。3Gだと違うキャリアもある。端末も、割賦、分割払いがあるので、SIMロック解除するときにどうするかもある。詳細な検討を進めていく」と、慎重な構えも見せる。

 確かに、auは音声通話においては3G回線を利用しているため、SIMロック解除をしても、他キャリアで使えない状態にあった(当然、ドコモやソフトバンクの端末もau回線では使えない)。端末に内蔵されるキャリア独自のサービスや機能も、他キャリアでは継続して使えないなどの課題もあった。

 しかし、ここ数年、端末やネットワークにおける環境は一変した。先頃、auは端末から3G回線を廃し、LTEのみで接続する『au VoLTE』を開始すると発表。CDMA2000ベースの音声通話サービスを辞める方向に舵を切った。現状、auが提供するVoLTEと他社のVoLTEがどこまで互換性があるのかは不明だが、技術的には従来に比べて他社に移行しやすくなったことは事実だ。

 また、3キャリアで販売されているiPhone6/6 Plusは、ベースはすべて同じモデルとされている。SIMフリーのiPhoneでauのSIMカードを差せば、CDMA2000で音声通話ができ、キャリアアグリゲーションやWiMAX2+が使える。もちろん、同じ端末にソフトバンクのSIMカードを挿せば、同社の音声通話やWCPが使えるし、ドコモのSIMカードでも問題なく利用できる。

 チップセットが進化し、どんなネットワークにも対応できるようになったことで、SIMロック解除の環境が整備されてきたと言える。

 総務省としても、“iPhoneのSIMロック解除”を促進させることで、3キャリアの競争を過熱させ、料金競争につなげたいようだし、まさに昨今、人気のMVNO市場への盛り上げにつなげようとしているようだ。

SIMロック解除のガイドライン

 2015年5月にSIMロック解除が義務化されると、その年の9月に発売されるiPhoneからSIMロック解除対応となるだろう。そこで、狙われるのがソフトバンクのiPhoneユーザーだ。

 3キャリアでiPhoneが取り扱われているが、なかでもソフトバンクのiPhoneユーザー率は突出して高いと言える。家電量販店でのiPhoneの売り上げを見ると、ソフトバンクが常にトップシェアとなっている。これはソフトバンクのiPhone新規ユーザーが増えているというわけではなく、機種変更需要で新製品が売れているという状況にある。

 昨年、ドコモがiPhoneを取り扱い始めたものの、思っていたよりも売れていないという指摘がある。ドコモが、過去にiPhoneが欲しくて、ドコモからソフトバンクに逃げてしまったユーザーを取り戻したくて、総務省にけしかけて今回のSIMロック解除を義務化させたとしてもおかしくない。

 ドコモの思い通りになれば、SIMロック解除義務化によって、iPhoneユーザーの争奪戦がさらに過熱する可能性がありそうだ。ただし、iPhoneがすぐにSIMロック解除に対応になるかというのは総務省の意向だけで決められるものではないようだ。

 auの田中孝司社長は「iPhoneは我々以外のところで、決まらないところもある。可能性もなきにしもあらず。なんかよくわからん。ハッキリ言って、何ともコメントのしようがないというのが本音だね」と語る。田中社長はハッキリと言及しないが、ようは“アップルの意向次第”というところが大きいと言うわけだ。

 日本は、世界と比べてもダントツにiPhoneの人気が高い国と言われている。その背景にあるのは、キャリアがiPhoneに対して、キャッシュバックや下取りと言った大がかりなキャンペーンを展開していることも影響している。キャリアがこうした大盤振る舞いな施策を展開できるのもSIMロックがあり、ユーザーを囲い込めるからこそだと言えるだろう。

 SIMロック解除が前提となれば、キャリアとしても、このようなキャンペーンは打ちにくくなる。となると、iPhoneがこれまでよりも売れなくなる可能性もあるはずだ。そこで、困るのは間違いなくアップルだろう。アップルとしては、「SIMフリー端末への需要はアップルストアで対応している。キャリアモデルは引き続き、SIMロックをかけ続けるべき」という考えになれば、キャリアに対して、SIMロックを強要するといったこともできるはずだ。

 このあたりは、これから総務省、キャリア、アップルとの駆け引きが見られるのかもしれない。

SIMロック解除のガイドライン

 ただ、一方で、SIMロック解除の動きによって、逆にiPhone人気がさらに高まるという見方もできそうだ。iPhoneで、どのキャリアでも問題なく稼働するのであれば、キャリアの独自機能や仕様が入ったAndroidよりも「iPhoneを買っておいたほうが、のちのち、キャリア移行がしやすくて安心」という評判になるだろう。

 現在でも、iPhoneであれば機種変更でもMNPでも下取りしてくれるし、買い取り業者に持って行っても高値で買い取ってくれる。「iPhoneを買っておけば、新製品に乗り換えやすいし、長く使っていても買い取ってもらいやすい」という状況になっていることを考えると、SIMロック解除義務化になってもiPhone人気が高まることも予想される。

 そこで困るのが、MVNO市場の盛り上がりで、SIMフリー市場への参入が相次いでいる中国、台湾、韓国メーカーだろう。SIMロック解除が義務化されれば、ユーザーはわざわざ安価なスマホを買わなくても、今使っている端末をそのまま使い続けながら、他キャリアや格安スマホ会社と契約できるようになる。

 現状は、SIMロックがかかり自分の端末がそのまま使えないから、格安の中国、台湾、韓国メーカーの端末を買うのである。自分の端末がそのまま使えるのであれば、何も2万円前後を支払って格安スマホを買う必要はないはずだ。

 SIMロック解除になり、MVNO事業者は盛り上がりを見せるだろうが、一方で、格安スマホを提供してきた中国、台湾、韓国メーカーは泣きを見ることになる恐れもありそうだ。

●関連サイト
SIMロック解除に対するガイドライン

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