週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

Windows情報局ななふぉ出張所

KDDIがFirefox OSスマホを発売する目的とは?

2014年10月08日 17時00分更新

 10月5日にMozilla Japanが開催したイベント“Mozilla Open Web Day in Tokyo”では、KDDIが12月のクリスマスの時期にFirefox OSスマホを発売することが明らかとなり、話題を呼んでいます。

KDDIがFirefox OSスマホを発売する目的とは?
↑KDDIの田中社長がFirefox OSスマホの12月発売を発表、さらに(モザイク付きの)実機を披露するというサプライズとなった。

 日本ではWindows Phoneの後継機が発売されず、NTTドコモもTizen端末の発売を見送ったにも関わらず、なぜKDDIはFirefox OSへの取り組みを続けるのでしょうか。

■低価格端末が先行してきたFirefox OS

 これまでにもKDDIは、Firefox OSへの取り組みについて何度か言及しています。実際に(サムスンの了解を得て)GALAXY S IIにFirefox OSを移植し、スタートアップ向けのイベントで披露したこともあるほどです。

 ただ、いまから新たなOSのスマホを出しても、どのようにAndroidと差別化するのか、アプリやサービスは充実するのか、大きく疑問視されていたことも事実です。端末についても、海外では25ドルクラスの超低価格スマホが登場するなど、急増する新興市場需要の文脈で語られてきました。

KDDIがFirefox OSスマホを発売する目的とは?
↑Mobile Asia Expo 2014に出展した、25ドルクラスという超低価格のFirefox OSスマホ。

 このようにFirefox OSは、一見すると日本市場とは相容れないプラットフォームであるように思われるところです。開発環境や周辺サービスが整っているWindows Phoneのほうが、まだ成功する可能性が高いのではないか、と考える人も少なくないでしょう。

■Firefox OSスマホを「まずは楽しんでほしい」

 これに対してKDDIの田中孝司社長は、イベントにビデオメッセージで登場。その名義は“田中プロ”となっており、社長というよりも、ひとりのガジェットマニアのような口調で参加者に語りかけました。

KDDIがFirefox OSスマホを発売する目的とは?
↑Mozillaのイベントということもあり、社長ではなく“田中プロ”として登場。

“プロ”は、それまで年度内と言ってきたFirefox OSの発売を年内に前倒しすることを発表。動画ではモザイク処理がされたものの、胸ポケットからドヤ顔で実機を取り出し、「販売目標など、はっきりいって考えていない。出すことが重要。まずはいじくって、楽しんでほしい」と語り、会場を沸かせました。

KDDIがFirefox OSスマホを発売する目的とは?
↑発売前のガジェットに触れることを本当に楽しんでいる様子が、会場を沸かせた。

 このイベントを主催しているのはMozilla Japanですが、WebブラウザーのFirefoxやFirefox OSスマホを全面に押し出すことはしていません。むしろ、とがった人材が集まるコミュニティのイベントとなっています。Mozilla Japan代表理事の瀧田佐登子氏も、「Mozillaという枠組みを使って、いろいろなものをマッシュアップしたい」とコメントしています。

KDDIがFirefox OSスマホを発売する目的とは?
↑Mozillaの取り組みについて語る、Mozilla Japan代表理事の瀧田佐登子氏。

 ここで重要なキーワードとして示されたのが、Internet of Things(IoT)にも似た、”Web of Things”(WoT)です。インターネットに接続するデバイスや、そこで動くアプリ、それらをつなげるプロトコルなどを総称するIoTに対し、WoTはWeb標準の技術でさまざまなモノがつながる世界観に立脚しています。

 そしてKDDIのアプローチは、このWebの可能性を追求するというものとなっています。Firefox OSスマホについても、「象徴的な商品がなければ進まないので、通信キャリアとして出すことにした」と位置付けており、KDDIのビジョンの中で中心的な位置にあるとはいえ、それがすべてではないことを示唆しています。

■Firefox OSを可能にしたWeb標準のトレンド

 元をたどれば1990年にティム・バーナーズ=リー氏が発明したHTMLと、それを転送するためのHTTPは、いまで言う”Webアプリ”を想定したものではない、静的なものでした。それを補完していたのが、ActiveXやFlashといった技術です。しかしNetscape Navigatorが搭載したJavaScriptではクライアントサイドでの動的な処理が可能となり、マイクロソフトによる非同期通信の実装(後のAjax)が加わることで、Webページはアプリのフロントエンドとして有望な存在となっていきます。

 その後、Webアプリを実現するためのさまざまなライブラリの登場や、グーグルなどによるJavaScriptエンジンの異常なまでの高速化により、Webアプリは急速に実用性が高まっていきます。そしてHTML5とそれに関連した多くの規格により、Webアプリの基盤技術がいよいよ標準化されることになります。

 かつてActiveXやFlashのようなWebブラウザーの独自機能やプラグインに頼ってきたシステムコールについても、Firefox OSではWeb標準の枠組みでGPSやカメラにアクセスできるとしています。また、いわゆるiOSやAndroidの”ネイティブアプリ”に対して懸念されるパフォーマンスについても、「Webが遅いって誰が言った?というほど、パフォーマンスにもこだわった」(KDDI担当者)と語っており、発売するFirefox OSスマホがかなり高性能なものであることを示唆しています。

 一方でFirefox OSのようなオープンな仕組みは、著作権保護(DRM)や特許といった現実世界における問題と衝突することがあります。Firefox OSのライセンスであるMPL(Mozilla Public License)は特許についてよく考慮しているものの、リスクがないわけではありません。また、WebブラウザーのFirefoxではDRMを組み込むという妥協をしています。今後、Firefox OSがシェアを伸ばしていくにあたって課題となる点といえるでしょう。

■Web系と組み込み系の垣根を取り払う

 KDDIによるFirefox OSへの取り組みでおもしろいのは、センサーやスイッチといった組み込み系の技術を、Webの世界から扱えるようにするという方向性です。ソフトウエア開発の世界は細分化していますが、その中でも”Web系”と”組み込み系”の間には大きな隔たりがあるとKDDIの担当者は指摘します。

 そこでKDDIは、Firefox OSを用いた開発ボードとして『Open Web Board』を制作し。これを各種センサーのゲートウェイとして、クラウドベースの開発ツールも提供します。これによりWeb系と組み込み系の技術を融合し、3Dプリンターが加われば、個人レベルでもちょっとしたデバイスの開発が可能になるというわけです。

KDDIがFirefox OSスマホを発売する目的とは?
↑KDDIが発表したFirefox OSの開発ボード『Open Web Board』。
KDDIがFirefox OSスマホを発売する目的とは?
↑さまざまなセンサーと無線通信するゲートウェイとして機能するという。

 この開発ボードは今後、Firefox OSに関するハッカソンなどで無償配布していくとのこと。そのポータルサイトとして『au Firefox OS Portal』も開設しています。

 このように、単にKDDIがFirefox OSを採用した新しいスマホを発売するという文脈で見てしまうと、その本質を見誤るといえます。すべてのモノをWebにつなげていくという新しいアプローチに注目したいところです。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります