週刊アスキー本誌では、角川アスキー総合研究所・遠藤諭による『神は雲の中にあられる』が好評連載中です。この連載の中で、とくに週アスPLUSの読者の皆様にご覧いただきたい記事を不定期に転載いたします。
私の場合、“ギーク”でない人は信用できない主義みたいなところがあって(さすがにこれはもののたとえで、実際はそんなことはまるでないのではありますが)、その意味で元マイクロソフト会長で現在は慶應義塾大学大学院教授の古川享さんは、地球上で最も信頼にたる人物のひとりだ。
その古川さんの還暦を祝う会が開催されたのだが、この日も主賓でありながらニコンD4Sに巨大なカブラみたいなレンズを装着して、集まった人々をパシパシ撮影しながら登場。
その人となりについてはウィキペディアなどで詳しく読めると思うが、米国のSL路線の保存にかなりの出資をしている。あるとき学生を連れて米国の“コンピューター・ヒストリー・ミュージアム”に行って1台ずつ解説していたら、係員に「そんなに詳しいあなたは誰ですか?」と聞かれたので、「Sam Furukawaと申します」と答えたら、「なんだ知っているよ、鉄道写真家だろ」と言われたとか(この日のお土産も、米国で出版された3冊目の鉄道写真集で、ヘリから撮った森の中を走る鉄道の風景がジオラマのように見える)。
↑人と人を繋いで何かが起こる"触媒"として活動していく、という古川さんらしく楽しく刺激される会でした。左は私が『月刊アスキー』に入ったときの先輩で、その後のソニーやSFCでのお仕事なんかでお世話になりっぱなしの石川公子さん。 |
↑鉄道写真家にして鉄道模型家の"Sam Furukawa"とある『Narrow Gauge to the San Juans』(NGPF刊)と"SAM60金太郎飴"同チロルチョコ"。 |
その古川さんは、アスキーの創業誌『月刊アスキー』の初期に米国コンピューター業界のレポートなんかを書いていた。'70年代後半といえば、現マガジンハウスの『ポパイ』もほぼ同時期の創刊で、向こうはやれUCLAだのフリスビーだのとベトナム戦争後の明るい大学カルチャーが中心。対してアスキーはUCSD(パスカル)、BASICとマイコン初期の元祖引きこもり文化。その中にあって、古川さんだけが、余った行に無理やりコラムをつくった感じで“西海岸には水着の美女がいっぱい”とか書いていた。
つまり、ギークの中でも“古川享”という固有のブランドというか、どの組織に属しているときでも独自のメディア性をもって活動されてきた。それで、ギークとは何なのか? ということを考えさせてもらうと、“ピュア”という言葉に行き当たる。ギークに、いちばん近い概念はひょっとしたら“カワイイ”なのだ。対象となるものの魅力を、どう心に響かせているか?
↑「なぜプログラミングが必要なのか?」シンポジウムの様子。 |
それで思い出したのは、昨年12月に、角川アスキー総研で「なぜプログラミングが必要なのか?」というシンポジウムに登壇していただいたときのことだ。プログラミングがなぜ必要なのかといえば、その人自身や企業、あるいは国家の競争力としてますます重要というのがある(オバマもそう言っている)。あるいは、問題分析力や仲間と協力してやりとげる力がつくという教育的な側面もあって、どちらもまったくそのとおりだと思う。私自身は、『月刊アスキー』編集部でプログラミングの連載をスタートしたというような気概もあったのだが(それ以前は“入門”という話じゃなかった)、そこでの古川さんの次の言葉は、あまりにもピュアすぎて聞き逃した人も多いと思うのだが、私は返せなかったのだ。
「昔ビル・ゲイツに、“なんでプログラミングを始めたの?”と聞いたら、彼は“自分の母親の仕事を助けられるようなコンピューターを家庭に置きたかった”と言った。身近にいる人がもうちょっとラクに、もうちょっと幸せに、という気持ち。それは僕らのこの仕事の原点だよね」。
※ "ギーク"(geek) テクノロジー系の深い"オタク"傾向のある人たち。
【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
株式会社角川アスキー総合研究所 取締役主席研究員。元『月刊アスキー』編集長。元“東京おとなクラブ”主宰。コミケから出版社取締役まで経験。現在は、ネット時代のライフスタイルに関しての分析・コンサルティングを企業に提供し、高い評価を得ているほか、デジタルやメディアに関するトレンド解説や執筆・講演などで活動。関連する委員会やイベント等での委員・審査員なども務める。著書に『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書)など多数。『週刊アスキー』巻末で“神は雲の中にあられる”を連載中。
■関連サイト
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