5月28日、米国に遅れること10ヵ月、ついに日本でも『Chromecast』が発売になった。なぜ遅れたのか? Google日本法人・パートナー事業開発本部の林豊統括部長(以下、林氏)は「うれしい悲鳴だったのが、予想以上に販売が好調で生産や供給に課題があったから」とする。他方で、「日本でローンチするには、しっかりと日本のコンテンツへ対応する必要があった」とも語る。林氏の言う「日本のコンテンツ」こそが、ドコモの映像配信サービス“dビデオ”とKDDIの“au ビデオパス”ということになるだろう。
日本の対応サービスを発表する林氏
この点は、同じように見える“スマホからワイヤレスで映像を飛ばす”技術の中で、アップルの“AirPlay2や業界標準のひとつである“Miracast”と、Chromecastの立ち位置の違いを示している。
AirPlayやMiracastは、本質的に“絵や音をミラーリングする”技術である。スマホの映像をテレビで楽しむことにも使えるが、その時、別に特別なコンテンツの準備はいらない。ゲームでもいいし自分で撮影した映像でもいい。だが、Chromecastは“スマホで見ているコンテンツの再生キューを、Chromecastに渡す”機器だ。ネットにあるコンテンツを“テレビに投げて(キャストして)再生してもらう」という様を実現するものである。だから、ネット側に対応コンテンツがなければ価値が出てこない。
GoogleがChromecastを手がけたのは、YouTubeという最大のコンテンツ集積地があり、Google Playというストアがあるためだ。そしてアメリカでは、ディスク販売やレンタルが急激にシュリンクし、“Netflix”や“Hulu”に代表される、サブスクリプション型の映像配信(SVOD)が主流になっている。それらを見る道具としてChromecastが用意された、という側面は大きい。
米国版Chromecastの対応サービス
ただし、日本と海外、とくにアメリカでは、Chromecastの持つ意味合いは大きく異なる。
SVOD向けにChromecastが用意されたとはいえ、アメリカの場合Chromecastの利用率はさほど高くない。Google側は“人気”と言っているが、SVOD利用者の大半(一説には6割以上)がゲーム機を介して利用しており、わざわざChromecastを利用するモチベーションは低い。コンテンツ側の事情より、“低価格でスマホ連携が行なえるガジェット”として人気である、と考えた方が自然だ。
他方、日本の場合には、SVODそのものが“スマホ”を軸に広がろうとしている。なにしろ、最大のSVODがdビデオなのだから。dビデオの会員数は、2014年3月末の段階で441万人。先行サービスでインフラやコンテンツを共有している“BeeTV”と合わせると、531万人に達成している(エイベックス・グループ決算資料より)。
会員数441万人に達したdビデオ
スマホでSVODを利用する場合の欠点は画面の小ささだ。ドコモも、dビデオをChromecastに対応させた理由として「テレビ(大画面)で視聴したい、との声を多く頂戴していたため」(ドコモ広報)という点を挙げている。昨年より『SmartTV dstick』という専用端末も用意しているが、より手軽な手段を求めていたのは事実であるようだ。また、今年2月に日本テレビがHuluを買収した際にも「魅力はテレビなどマルチなデバイスへの対応」(Hulu・バイスチェアマン、元日本テレビ・コンテンツ事業部長の船越雅史氏)との話題があった。時期は未定ながら、日本のHuluも、Chromecastへの対応を前向きに検討中だ。
スマホの弱みをカバーするものとして、日本ではChromecastの価値は、海外以上に高いものになるだろう。ドコモは「あくまでひとつの選択肢であり、他の視聴方法も併存。Googleとの共同マーケティングなどは予定していない」としているが、普及に弾みをつける意味で、強い期待を寄せているのは間違いないようだ。
Chromecastの課題
ただし、Chromecastには大きな問題点もある。それは“わかりにくい”こと。セットアップは決して難しくない(それどころか、本誌読者のみなさんレベルなら拍子抜けするほどカンタンでよくできている)が、自宅にWiFi網があって、スマホとChromecastの位置付けをきちんと理解できるレベル、というハードルは、日本人全体で見ると、低いものではない。とくに、dビデオは“パソコンを持たず、スマホだけが自分の持つIT機器である”というタイプの人々も多く使っているサービスである。そうした人々に、Chromecastは敷居が高い。
日本でのSVOD普及にとって、2014年が大きな節目になる、と予想する映像業界関係者は多い。その中でChromecastは価値ある存在になりそうだが、“Chromecastで大ブレイク”となるかは、ちょっと早計といえそうだ。
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