↑複数の周波数帯を同時使用するCAは、LTE-Advancedの主要技術のひとつ。 |
auは4月21日、LTEの次世代規格となる“LTE-Advanced”の要素技術のひとつである“キャリアアグリゲーション”を、今年夏より、日本で初めて導入すると発表。複数の異なる周波数帯域を束ねることで、下り最大150Mbpsの通信速度を実現するキャリアアグリゲーションを、他社に先駆けていち早く導入したのには、どのような狙いがあるのだろうか。
■キャリアアグリゲーションがもたらす3つのメリット
今回、auが導入を発表したキャリアアグリゲーション(以下CA)とは、現在急速に広まっているモバイル向け高速通信規格であるLTEの上位規格“LTE-Advanced”を構成する要素技術のひとつ。
複数の異なる周波数帯を束ね合わせてひとつの帯域として扱うことにより、高速化を実現するというものだ。
KDDIの執行役員 技術統括本部長の内田義昭氏によると、CAを導入するメリットは3つあるとのこと。ひとつは冒頭でも触れた通り、実質的な帯域幅が広がることで通信速度の高速化が実現できること。
auはサービス開始当初、800MHz帯と2.1GHz帯の2つの帯域を、それぞれ10MHz幅ずつ用いてCAを実施。下り最大150Mbpsの通信速度を実現するとしている。
↑CAに関する技術説明をした技術統括本部長 執行役員常務の内田氏。 |
↑800MHz帯と2.1GHz帯、異なる帯域の電波を束ね合わせることで、下り最大150Mbpsの高速化が実現できる。 |
2つ目は、2つの帯域の電波を用いることで通信の安定化が見込めることだ。CA非対応機種の場合、ひとつの周波数帯域しか利用できないことから、何らかの要因でその帯域の電波が弱くなると通信が不安定になり、急速に通信速度が落ちてしまう。
これに対して、CAは2つの帯域を束ね合わせて利用するため、片方の帯域の電波が弱くなったとしても、もう一方の帯域の電波でカバーして通信速度の急速な悪化を防ぐことができる。
内田氏は「CAは通信速度の高速化に目がいきがちだが、通信を安定化できることが最も大きなメリット」と語り、高速通信の安定化がCA導入の大きな目的となっていることがわかる。
↑複数の周波数帯を同時に使用するため、一方の品質が変化してももう一方でカバーできるのも、CAの大きなメリットとなる。 |
そして3つ目は、複数の帯域を有効活用してネットワーク全体の効率化ができることだ。
CA非対応機種の場合、ひとつの周波数帯域の電波に接続が集中する一方、別の帯域はガラガラに空いている……といったように、局所的な偏りが生まれることもある。しかし、CA対応機種であれば双方の電波を同時に使用し、変化に応じて動的にリソースを割り当てるためムダが生まれにくく、ネットワークの利用効率が上がってスループットの向上も見込めるようになる。
↑無線リソースを動的に割り当てることで、偏りをなくしネットワークの効率を上げることもできる。 |
■auの夏スマホからCA対応に
CAはLTEなどの標準化を進めている団体『3GPP』によってすでに標準化されている技術であり、韓国では昨年より導入されている。一方で、現時点では下り最大150Mbpsを超える通信速度が実現できないことから、ドコモは2015年に導入すると公表するなど、必ずしもすべての事業者が導入を急いでいる訳ではない。
ではなぜ、auはこのタイミングでCAの導入に踏み切ったのだろうか。その理由について内田氏は、LTEのネットワークを他社に先駆け、早期に全国展開してきたことが大きいと語る。
auは離島や山間部などのエリア整備を進めることで、今年3月には800MHz帯のLTEによる実人口カバー率で99%を達成。さらに2.1GHz帯についても、今年3月末時点で85%、来年の3月末には90%を実現するとしている。
LTEのエリアカバーにある程度目途が立ち、次のステップに踏み出しやすくなったことが、CA導入に至る大きな要因となっているようだ。
↑800MHz帯で実人口カバー率99%を実現したのに加え、2.1GHzも来年度末には90%を達成する見込みであるなど、auはLTEエリアを急速に拡大している。 |
800MHz帯と2.1GHz帯による広いエリアカバーが、CAで活きるのが都市部での高速化だ。
現在auは、2.1GHz帯のみを使用して下り最大150Mbpsを実現できるエリアの整備を進めているが、20MHzと広い帯域幅を用いる必要があるため、トラフィックの少ない郊外でしか整備が進んでいない。だがCAを用いれば、広い帯域幅を確保する必要がないことから、広いエリアで下り最大150Mbpsの速度を実現可能になるのだ。
↑従来、幅広い帯域を確保しないと実現できなかった高速化が、CAの導入によって実現しやすくなる。 |
なおCAへの対応は、今後発表される2014年の夏モデルから順次進められるとのこと。当初の対応機種としては複数のスマホが予定されているという。
CAを導入すると消費電力はアップするとのことで、電力面を不安視する声も聞かれたが、通信速度の向上で素早く通信が終了することから、必ずしも消費電力が上がるとは限らないと関係者は説明する。
また、CAの実現には端末だけでなく基地局側の準備も必要となってくる。この点に関してauは、CAを含む下り最大150Mbpsに対応した基地局を、サービス開始時点で2500局、そして2015年3月末には約2万局と、急ピッチで増やす予定としている。
同じく2015年3月末までには、さらに“eICIC(セル間干渉制御)”など小セル化に関するLTE-Advancedの要素技術導入も進めたいとしている。
↑従来、幅広い帯域を確保しないと実現できなかった高速化が、CAの導入によって実現しやすくなる。 |
発表会では具体的な端末数やブランド名など、ネットワーク面以外の詳しい情報は明らかにされなかったが、これによって日本でもLTE-Advancedの導入が進み、モバイル回線の高速化競争が加速することは明らかだ。
それだけに今後、auはCAを用いたサービスをどのような形で提供してくるのか。また、ライバル各社はauに対しどのような対抗策を仕掛けてくるのか。夏商戦に向けたキャリア各社の戦略発表に向けた話題と期待が、またひとつ増えたのは確かだ。
●関連サイト
・au(プレスリリース)
(4月23日17:00更新)写真説明の誤表記を修正しました。
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