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MNP純増など眼中にない!?キャリア決算発表で見せた本音(石川温氏寄稿)

2014年02月13日 22時00分更新

 1月末から2月中旬にかけて、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの決算会見が行なわれた。会見では、各社長の“発言”が注目されるが、今回は特に、ソフトバンクが1月24日に発表した“VoLTE時代を先取りした音声定額プラン”に関するコメントが興味深かった。

決算発表まとめ

↑“VoLTE時代を先取りした音声定額プラン”について話す、ソフトバンク社長孫正義氏。

 VoLTE時代を先取りした音声定額プランとはSパック(月額5980円)で2GB・1回3分50回、Mパック(月額6980円)で7GB・1回5分1000回、Lパック(月額9980円)で15GB・1回5分1000回までの通話が無料になるが、設定時間を超えると30秒30円で課金される。
 これを受けてネット上では「高すぎる」、「消費税増税に合わせた値上げだ」という声があがった。
 そんななか、KDDI田中孝司社長が世論に歩調を合わせるように「あれ、高いんじゃないの?」と一蹴。消費者目線で「ソフトバンクの料金プランは高い」と明言した。
 一方、NTTドコモ加藤薫社長は「よく考えられている」と、キャリア目線で分析。二人の社長のコメントが違った視線で分析されていたのが面白かった。ただ、いずれの社長も「すぐに後追いする気はない」といい、ソフトバンクの動向に注視するスタンスをとった。 
 ネット上、さらには田中社長から“高い”と指摘された孫社長は「5分以内なら月1000回までなら無料。ウィルコムのだれとでも定額でも5分以上話す人は少ない。ほとんどの人にとって話し放題だ」と反論。5分以上で課金されるのがいやならば「5分で一回切ってもいい」とした。
 世間から高いと指摘されているだけに、今後、料金の改定はあり得るかという質問に対しては「ホワイトプランなども発表した当初は批判されていたが、いまでは他社も真似をしてきている。いずれ、他社も追随するでのはないか」(孫社長)として、他社が追ってくるのを待っている感もあった。

決算発表まとめ

 今のソフトバンクは、昨年、買収したアメリカのスプリントをV字回復させるのが至上命題とされている。アメリカ第4位のTーモバイルも買収し、上位2社(ベライゾン、AT&T)と互角の規模で戦う気でいるが、アメリカの通信行政関係者がスプリントによるT-モバイル買収に難色を示している。
 T-モバイル買収作戦が進まない中、ソフトバンクとしては「日本で稼いで、アメリカをてこ入れする」というスタンスをしばらく続ける必要がある。そのためにも、日本ではしっかりと収益を確保していくには、他社に料金で攻められると非常につらい立場に陥ってしまう。
 そのため、日本市場で安定して儲けるため、あえて他社に先駆けてVoLTE時代の料金を発表。他社にこの料金プランに横並びにさせることで、ソフトバンクが欲しい利益をしっかりと確保したいという狙いがあるようだ。
 実際、ソフトバンクがこの料金プランが始まる4月21日から、VoLTEをやる予定は今のところない。孫社長は「いずれVoLTEをやるが、時期はお話しできない」と語っているが、VoLTE自体を始めないのに先に高めの料金プランを発表するのには、こうした利益を確保したいという下心があるのだろう。

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↑ドコモの加藤薫社長。

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 料金だけでなく、端末ラインアップの考え方にも各社に変化が出てきた。NTTドコモは、iPhoneにおけるサポート体制などを強化。MNPでも改善が見られているとした。春商戦への意気込みを聞かれた加藤社長は「やっぱり、iPhoneがあるところ。いままでのAndroidで強いところも持っている。ラインアップは強いと思う」と語るなど、まずはiPhoneを主力に考えている点がアピールされた。
 KDDIの田中孝司社長もLG G FlexやXperia Z Ultraといった春モデルを投入しているものの、どちらかと言えばキャッシュバックの多いiPhoneを中心とした販売戦略を展開する。

決算発表まとめ

 一方、大きな転換期を迎えつつあるのがソフトバンクモバイルだ。iPhoneの販売シェアは「他社よりも高い」(孫社長)としつつ、今回の会見では「Androidの販売台数シェアでも他社よりも高い」と言い切ったのだ。当然、ソフトバンクだけでなく、イー・モバイル『Nexus5』やウィルコムのAndoridスマホを合算したものだが、これまで“ソフトバンク=iPhone”というイメージが強かっただけに、この発言には驚かされた。
 しかし、取材を進めていくと1ヵ月前頃から「孫社長がAndroidシフトを進めているようだ」と語るKDDI関係者もいるなど、他キャリアではすでにソフトバンクがAndroid中心にラインアップを考えているという点は伝わっていたようだ。
 実際、国内メーカー幹部に話を聞いても「NTTドコモからiPhoneが出たことがやはり大きい。さらにスプリントを手に入れ、端末卸のブライトスターを買収したことで、世界的にAndroidを強化しようと孫社長は考えを改めたようだ」という。
 まさに、AndroidからiPhoneにシフトしているNTTドコモ、KDDIとは逆行する動きをソフトバンクは見せ始めているようだ。

決算発表まとめ

↑KDDI田中孝司社長。

 春商戦に向けた取り組みとしては、やはり各社で熾烈なMNP争奪戦が繰り広げられている点が特長と言える。店頭で5万円、6万円といった高額なキャッシュバックが、そこら中でばらまかれている。春商戦は学生の新規契約が多いため、家族を巻き込み、3人で20万円近いキャッシュバックをもらえるところも出始めてきている。
 このキャッシュバック戦争に対して、KDDIの田中社長は「適切なキャッシュバック」と言い切った。
 「適切とはどれくらいか」という質問には「わりと今が気持ちいい」と回答し、この路線をしばらく継続していくことを明らかにした。確かにキャッシュバックによって、MNPの成績も順調とあっては「超気持ちいい」と北島康介ばりのコメントが出ても無理もない。
 一方で、この“適切なキャッシュバックにやられた”と白旗をあげたのがNTTドコモ加藤社長。1月のMNPもマイナス8万1000件と先月(マイナス5万1000件)に比べて悪化している。1月の結果を受けて、NTTドコモではすぐにドコモオンラインショップでもiPhone5sに対して5万円のキャッシュバックを展開。KDDIに対して適切に対抗した。
 そんななか、ソフトバンク孫社長は、決算会見で「1ヵ月で5万、10万というのは(スプリントとの合算である)1億と比べたら誤差みたいな」と吐き捨てた。もはや、MNPでの増減など眼中にナシといった感じだった。すでに孫社長は世界制服を目指しており、「噂話にはコメントできない」としながらも、アメリカ第4位のT-モバイル買収に向けて策を練っているようだった。

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