速度計測だけではわからない、各社が実施するLTEネットワークの工夫や今後の方針などを担当者に直接インタビュー。最終回はソフトバンクの水口氏とWireless City Planningの北原氏にお話をうかがいました。
■ソフトバンクが行なう4つの電波改善
──まず、ネットワークの整備全体でもっとも重視している点はどこでしょうか?
水口 ソフトバンクとしては、電波品質の改善として、現在4つの大きな取り組みをしています。
まずは、電波の届かないところをフォローする『プラチナバンド』。そして、高速通信の『LTE』。そのうち、FD-LTEはイー・アクセスと連携し、年々増加しているユーザーに対して、ダブルLTEという形で、ソフトバンクだけではつながりにくくなってしまう部分をイー・アクセスが補完しています。
そして、小セル化。基地局の近くでは通信速度は高速かつ安定しますが、基地局と離れたり、基地局と基地局の間にいると、通信速度が下がってしまいます。そこで、基地局を増やす“小セル化”という形で基地局を埋めて対策をしています。
さらに、月10億件を超える“ビッグデータ”を利用しています。これは、スマホの『防災アプリ』や『ラーメンチェッカー』といったアプリを経由して、ユーザーがどんな通信のエラーが生じているかをデータ化しています。たとえばコンビニとか大学、駅、ショッピングモール、ゴルフ場など、どういった場所が非常につながりやすくなっているか、つながりにくい場所があればどう改善するか、といったことを調査しています。
↑ソフトバンクモバイル モバイルネットワーク企画本部 無線規格統括部 エリア設計部部長の水口徹也氏。
──LTEネットワークについてはいかがでしょうか。
水口 LTEの基地局はいま3万件ほどで、急速に広がっています。
かつ、イー・モバイルのLTE網と合わせて使うことで、たとえばiPhoneのユーザーが、ソフトバンクとイー・アクセス両方のLTEエリアにいた場合、今まではソフトバンクの2.1GHzの周波数だけで接続していましたが、エリアにユーザーが増えると通信速度が落ちたり混雑してくるところを、イー・モバイルの1.7GHzの帯域を使うことで混雑を避けられるようになりました。
イー・モバイルの回線も利用可能
具体的に数字で見ると、つながりやすさが94〜95%だったところが、イー・モバイルと両方を使うことによって97〜98%まで上がりました。当然、通信速度も合わせて向上しています。さらに、37.5Mbpsから75Mbpsの倍速LTEになり、通信速度も上がってきています。
■大切なのは最高速度ではなく体感の速度
──時間帯や場所など、どのような場合にトラフィックが多くなるんでしょうか?
水口 音声中心の携帯電話からスマホにかわってきたことで、データ量がこの5年で60倍まで増えました。
トラフィックは局所的に集中していまして、たとえば、東京や大阪、名古屋、札幌、博多といった中心部では非常にトラフィックが高いです。そのほか、新しいベッドタウンや駅などにも基地局の密度を増やしています。
──時間によってユーザー数も変わりますよね。
水口 人が一部のエリアに大きく集まるのは、夕方から夜にかけてが大きいです。たとえば、渋谷のスクランブル交差点などを想像していただくとわかりやすいですが、1kmもないところに人が密集しています。都内なら、新宿や池袋、東京駅、銀座など。オフィス街は日中は多いですが、逆に夜間はベッドタウンに流れていきます。
──どのような対策をしているのでしょうか。
水口 たとえば季節のイベントなどで、過去にネットワークが苦しんで通信速度が落ち込んだエリアについては、来年は落ち込まないように対策をしています。
単純に人のいるところだけでなく、ひとりひとりがどのぐらいのデータ量を使用しているかを先読みし、データ分析を行なっています。我々は、ネットワークを1000日ちかくも落ちないよう、重大事故を起こさないように取り組んでいまして、そのためにはネットワークの分析をすることが非常に重要です。
どこかで最高速度が出てればいいというわけではなく、ユーザーの実際の体感で通信速度が上げられるということを、重視しています。
──最高速度ではなく、実行速度ということですね。
水口 そうです、平均実行速度が重要です。そのため、どんな時間でも場所でも使えるように、小セル化をして基地局を増やしています。
北原 TD-LTEでも同様に、地域によってバラバラにならないように。平均的に高速のスループットが出るように注意しています。
↑Wireless City Planning 技術本部 技術統括部 技術企画部部長の北原秀文氏。
──TD-LTEは、サービス名だと『SoftBank 4G』ということで、現状はAndroidに向けたサービスですね。
北原 現在は、AndroidとポケットWiFiですね。TD-LTEの利点は、2.5GHzという非常に高い周波数のため、エリアを広げたり、山間部などのカバー率は非常に弱いです。というわけで、2.5GHzというのは都市部に特化したインフラになっています。
一方で、どのユーザーにも高速のスループットをあたえるという意味では、小セル化を行なっています。もともとウィルコムのPHSをベースにした基地局の展開を行なっていたので、銀座や新宿など、もっとも混んでいるエリアでは20メートル間隔ぐらいで基地局が設置されています。局が多ければ多いほど、ひとりあたりのユーザーに割り当てられる速度がより多くなります。徹底的に超密度で都市部では展開している点が特徴です。
そのおかげもありまして、iPhoneと同様Androidもほぼ速度ナンバーワンを、ほぼどのエリアでも維持しています。
──AndroidのハイブリットLTE端末では、4Gネットワークも4G LTEも対応していますが、端末内で切り替えているのでしょうか。
水口 ここは企業のノウハウなので、あまり詳しくは話せないのですが、端末側から制御する方法と、ネットワーク側から端末にオーダーを出す方法とふたつあります。
2013年冬&2014年春モデルは両LTEに対応
■100Mbpsエリアでは最高95Mbpsを記録
──重視しているポイントが体感できる平均速度であると思いますが、最速のエリアというのもユーザーは気になる点かと思います。実際、どの程度展開されているでしょうか?
水口 iPhoneについては100Mbpsまで理論値では出ますが、まだ部分的にしかできていないのが現状です。75Mbpsという今までの最高速度のエリアは、都市部を面でカバーするようになっています。
100Mbpsを体感できるエリアとしては、たとえば神奈川県相模原市や千葉県の八千代市など。去年の10月から100Mbpsエリアをサービス開始し、現地でスピードテストを行なったところ、最高だと95Mbpsを記録しました。これはトラフィックの少ない時間帯で計測したので、混んでいる時間帯では20Mbps前後の時もありました。
──相模原市や八千代市を選んだ理由は?
水口 まずはW-CDMAの3Gの2GHz帯は、20MHz幅のバンドがあるんですが、その一部をW-CDMAからLTEに変更して使っています。iPhoneの場合、昨年発売されたiPhone 5からLTE対応になったので、全部をLTEにしてしまうと、それ以前のiPhoneユーザーが使えなくなってしまいます。そのバランスを見ながら場所を決めています。
100Mbpsのエリアについては、今後もユーザーの動向を見つつ、徐々に増やしていく予定です。
対象エリアは順次公開中(外部サイト)
──“パケづまり”の対策として小セル化がありまかが、小セル化することによって、干渉の影響もあるんでしょうか。
水口 その点は干渉にならないように、品質を保ちながら設計しています。設計ツールというシミュレーションツールがありまして、地形データ情報のある地図のなかに基地局の配置を決めてパラメーターを入れると、ウェザーマップのように電波がパーッと広がるというシミュレーションができるんですね。木が生えているので電波が通りにくいとか、電波の強さがや基地局の干渉がどのぐらいか、品質を保てるか。そういったものをシミュレーションでチェックし、フィールドで実測を測り、ビッグデータやトラフィックを見ながら品質を保っています。
■ユーザーの声はアプリ経由で収集
──ユーザーからのフィードバックは、各アプリで認識されている部分もありますが、「ここはつながらなかった」など、個々の報告はどのような受け皿をつくっているのでしょうか。
水口 従来から電話での受け付けのほか、ホームページでもユーザーからの問い合わせや要望の窓口を設けています。
ユーザーの声は非常に貴重と感じていまして、実はビッグデータを始めたきっかけは、そうした声を聞きたかったからなんです。こちら側からは、たとえば「家の中の電波が悪い」といった具体的な場所はわからないので、声を聞く窓口を作りました。が、住所を入れたりするのが非常に面倒くさいし、外出先では入力しづらい。そこで、アプリの中に窓口を作り、出先でも入力しやすいようにしてみました。それでもやっぱり手間がかかるし、端末の不具合や場所の誤入力もあり、行くと違っていたことも多々ありました。
なんとかならないかと考えていたところに、Agoopのビッグデータができて、ユーザーの手をわずらわさなくてもデータを収集でき、ネットワークを改善できるという仕組みを作ることができました。
ビッグデータで混雑状況を分析
──TD-LTEではどんな工夫をしているのでしょうか。
北原 FD-LTEは、1波から4波まであるんですが、TD-LTEは20MHz幅の1波だけなので干渉には弱い。そこで、クラウドという技術を使って、ベースバンド(結束)といわれる基地局の処理部分を全部センター側に置き、サイトには無線機の小さな箱だけにして協調制御しています。すべての無線機の信号がひとつのボックスに集まるので、そのボックスのなかで、“この局はこれだけ干渉している”とか“あちらの局が干渉になっているから出力を下げる”などをリアルタイムに計算し、干渉をカットするという方法をとっています。
──それもウィルコムの技術を改良して使っているんですか?
北原 いや、それはウィルコムとは別で、新たに導入した技術ですね。
TD-LTEの5万局に対して、95〜96%はダークファイバーが入っていて、無線の信号、たとえばユーザーの動画を見るといったトラフィックだけではなく、GPSの信号や無線信号そのもののアナログ信号までセンター側に送ります。そのためのパイプが必要で、全部の局に“ダークファイバー”を引っ張っています。
──“ダークファイバー”というのは、光ファイバーとはちがうんでしょうか。
北原 まあ、一緒です。ただし、帯域に制限がないんですね。100Mbpsとか200Mbpsといった帯域の制限がない。今TD-LTEで使っているのは、1局あたり10Gbpsというリンクをはっています。
──災害時や故障など、何かしら事故があったときもすぐわかるわけですね。
北原 無線機は壊れにくいですが、ベースバンド側、処理能力部分が壊れやすくなります。サイトに全部置いていると、1個1個全部見てまわらないといけないんですが、センター側にあれば、センターに行けば全部フィックスできるというメリットがあります。
■2015年までには170Mbpsを実現
──今後のLTEのエリア化や高速化のロードマップなど、将来を見越しての予定はいかがでしょうか。
北原 TD-LTEの2.5GHzでは、今は20MHz幅しか使っていないのですが、下の10Mがもうすぐ使えるようになります。そうすると、30MHz幅に増えるので帯域が増えたぶんだけ高速化していき、160〜170Mbpsのスピードになる予定です。
あとは、現在は4本アンテナで“2×2”といわれるMIMO(Multiple Input and Multiple Output)をやっています。今後は“4×4”にして速度を倍にしたりといった取り組みを今年から2015年にかけてやっていきます。
さらに、3〜5年のスパンでみると、LTE-Advanced、キャリアアグリゲーションといった1Gbps超に向けての技術開発や展開を検討しています。
──LTE-Advancedは各社取り組んでいますが、ソフトバンクの方向性としては?
北原 進むべき方向としては、TDとFD両方ですね。それぞれで得意な分野がそれぞれありますし。
水口 FDについては、当然LTE-Advancedに取り組んできますが、LTE-Advancedの機能を全部取り入れればいいというわけではないと思っています。
異なる周波数を束ねて最大速度を出すキャリアアグリゲーションやMIMOのほか、CoMP(コンプ)という協調して基地局間を同調させるという技術などもある。我々が装置を開発するのではないので、装置ベンダーと連携して取り組むことが大事です。
その部分は他社も一緒ですが、ポイントとしてはどこを使いこなすかというところです。これからも平均速度を改善し、ユーザーに常に快適に使っていただくために注力していきたいです。
──VoLTEについての予定は?
水口 まだお話できませんが、メリットは色々あると思います。
接続する時間、基地局から基地局に接続する時間も短くなるし、接続率も良いです。ベンダーとも話を進めながらメリットを確認していきたいと思います。
●関連サイト
ソフトバンク ネットワーク特設ページ
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