のび太 「ドラえも~ん! もっと将棋が強くなりたいよ~」
ドラえもん 「じゃ~ん、セルフ将棋ぃ~!」
ⓒfujiko-pro |
……と2人が言ったかどうかは定かではないが、実際に『ドラえもん』の“ひみつ道具”のひとつ、『セルフ将棋』を21世紀につくってしまった人たちがいる。すでにテレビCMでご存じの方も多いだろう。『ドラえもん』の“ひみつ道具”づくりにチャレンジする、富士ゼロックスのプロジェクト『四次元ポケットPROJECT』だ。
↑『ひみつ道具大図鑑』は私も子供のころもっていましたよ。中身の構造がそれっぽく描かれていてすっげーワクワクしたのを思い出します。 |
ⓒfujiko-pro 出典「ドラえもん最新ひみつ道具大辞典」(小学館) |
第1弾となる『セルフ将棋』づくりは、6つの異なる中小企業が、ITソリューションを通じて連携し、わずか3ヵ月あまりで完成までこぎつけたという。今回参加した企業は以下の6社。それぞれの分野に長けている企業を選んでプロジェクトに加わってもらったという。
●プログラム開発:aircord ●筐体板金製作:島田工作所 ●ロボットアーム部品制作:堀越精機 ●ディスプレー用映像制作:spfdesign Inc. ●筐体・ロボットアーム設計制作:TASKO ●将棋駒作成:中島清吉商店
参加企業間の連携を支援したのは富士ゼロックスのITソリューション『Working Folder』。クラウド上に図面をおいて共有したり、細かな指示をパソコンや複合機で行なうなど、やりとりはすべて電子化している。電話や実際に会って打ち合わせも行なってはいるものの、制作担当者が初めて一堂に会したのは、完成CMの撮影時だったというから驚きだ。
完成した『セルフ将棋』がこちら! じゃじゃ~ん!
↑原作のイメージを損なうことなく再現しようとチャレンジし、完成した『セルフ将棋』。四次元ポケットから取り出してきたかのようだ。 |
↑背面にはトイレットペーパー掛け。原作の本には説明として書かれているそうなのだが、時代背景的にパンチカードか何かだと思ってました。 |
色のついていない原作のシンプルな絵を基に、それぞれの企業がこだわりをもって試行錯誤を繰り返したという。
まず、ロボットアーム。この手のアームは汎用できるため、アリモノを利用してもよいのだが、将棋の駒を掴んだり、回転させたり、さらには原作に準じた取り付け位置にこだわった結果、独自に制作されている。
↑ロボットアームが、実に複雑に、器用に動くため、“コンピューターと指している”感があるのです。 |
ロボットアームは、きちんと、成るときは駒を裏返しにする(あたりまえだけど)。駒を取ったら、自分のテーブルに置く。このときテーブルにターンテーブルがあり、駒の向きを上下反転させてから整列させていた。
↑制作時に、クラウド上でやりとりしていた図面。指示もパソコン上で書き込んだもの。FAXより鮮明だから見やすいだけでなく、外出先でも確認できるのがメリット。 |
つぎに、こだわったのは、上から見下ろす大きな“目”。盤面を認識して考えたりコマを動かしたりするための画像認識装置だが、ロボットアームがあの位置にあることで、カメラの邪魔をしてしまうため、非常に苦労したとのこと。
↑画像認識の“目”となる“やじうまアイ”。LEDライトを周りに配し、画像認識用のカメラレンズを中心に備えている。 |
↑広い範囲を確実に歪みなく捉えられるよう、業務用のエリアセンサーカメラとレンズ(詳細非公開)を利用した。 |
将棋の顔ともいうべき盤面と駒も特注だ。まず、マス目の線をきちっと認識させるために、通常の盤面よりサイズが大きくなっている。これはロボットアームが隣り合った駒に引っかからないためでもある。駒の文字は、手掘りでもトライしてみたのだが、まったく同じ文字に彫るのは難しいということから、あえて機械掘りを選択した。
同様に、フォントも画像認識しやすいものを選んでいるのが特徴だ。“と金”の“と”のフォントも通常のものだと、1本の線と誤認してしまい、マス目と判断がつきにくくなるため、違うフォントに変え、さらに文字色は成駒に成っても黒色のままだ。通常は光沢にするところをつや消しにし、認識率を高めるよう工夫している。
駒の厚みもアームが斜め上から掴みやすいよう、通常より厚く、傾斜もつけているとのことだが、実際に掴んでみても、そんなに違和感はなかった。
↑と金の“と”の字は、普通は草書体なのだが、1本の線と誤認してしまうので楷書体に。 |
↑駒の厚さも、多少厚めで、コマの大きさはすべて同じだ。 |
そこまで細かい調整を重ね、認識率を上げていったのは、安易に駒にチップを埋め込んだりせず、木の駒を使って原作どおりにしたかったという製作者のこだわりだ。その代わり、駒置きは原作ではおわん型だが、テーブル型に変更した。現状では画像認識とロボットアームの動作精度を調整するためのキャリブレーションにかなり時間がかかるという。
とはいえ、本当に対局ができるのは感動的!『セルフ将棋』は持ち時間それぞれ1時間で、切れ負けというルール。コンピューターは考える時間を変えることで強さを3段階に調整でき、弱いモードであっても、制作者やスタッフなどは負け続けだったという。
ちなみに、この筐体のサイズは原作に描かれているのび太との比較から決定されたもの。原作がモノクロだったため、ひみつ道具らしい色をみんなでワイワイと考えながらつくりあげたものだというが、色使いといい、完璧に近いものではないかと思われる。
↑『セルフ将棋』は、持ち時間1時間での勝負。駒が動いたか自動で認識して次の手番へ行くのではなく、チェスクロックライクなボタンを押すとタイムが止まってコンピューターの手番になるしくみ。 |
↑前方画面には、“王手”や“Your Turn”などメッセージが表示される。 |
↑画面には残りの持ち時間も表示される。人間が負けたときの「ありがとうございました」、人間が勝ったときの「まいりました」なども表示。 |
富士ゼロックスのプロジェクトは、こうして22世紀のひみつ道具を21世紀に実現しようと挑戦したわけだが、いっぽうで現在は人間対コンピューターの戦い『将棋電王戦』も行なわれている。電王戦では、コンピューター側に人間が座り、コンピューターが指示した手を指しており、対局の場面を見る限りでは、コンピューターと戦っている感がない。聞けば、このセルフ将棋、思考部分だけすげ替えることは可能だとのこと。もちろん、現段階では長時間動かすとモーターの発熱問題やら、アーム動作に時間がかかるなど課題はあるものの、将来、将棋電王戦で羽生三冠がこの前に座って対局している姿って、すっごく絵になると思いません? 実現してほしいなぁ。
上は実際に動作している動画。角交換してみた。意外とスムーズに動作するが、駒を上下反転できないので、駒置き上のターンテーブルを使用。そのときは若干時間がかかるようです。
『セルフ将棋』の出来栄えはかなりのもので、このままドラえもん博物館に展示して欲しいほど。また第1弾といっているからには、第2弾が何か気になりますよね。その辺りをこのプロジェクトの担当者である富士ゼロックス株式会社の広報さんに伺ったところ「ひみつです(笑)」と言われてしまった……。次も期待しています!!
↑プロジェクトを進めた富士ゼロックス株式会社の美人広報宣伝部・山崎江津子さん。プロジェクト自体は2013年春ごろから始動した。 |
■関連サイト
富士ゼロックスの『四次元ポケットPROJECT』
富士ゼロックスの『Working Folder』
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3,018円
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DORAEMON THE MOVIE BOX 1980-1988 (...
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