2月4日、米マイクロソフトの取締役会は新CEOにサティア・ナデラ氏を任命したことを発表しました(関連記事)。
↑2013年12月のLeWeb'13で講演を行ったサティア・ナデラ氏。この時点ではCEOについて「ノーコメント」だった。 |
CEOに任命される以前のナデラ氏は、同社のクラウド&エンタープライズ部門を率いてきました。その人物像は本田雅一氏の記事(関連記事)の通り、エンジニアでありながらMBAを取得するなど、さまざまな面を持っているのが特徴です。ほかの候補者のように、大企業におけるCEO職の経験はないものの、マイクロソフトの顔となるにふさわしい人物といえるのではないでしょうか。
一方、PC業界ではソニーがVAIO事業の売却を決断したことが話題となっています。果たして新CEOナデラ氏が指揮する今後のマイクロソフトは、PCを始めとするデバイスにどのように取り組むべきなのか。改めて考察してみたいと思います。
■年末商戦で大きく売れたSurface
米マイクロソフトが1月に発表した2014会計年度第2四半期の決算では、Surfaceシリーズが8億9300万ドルの売上を記録するという好調ぶりが話題となりました。この四半期は2013年10~12月期に相当し、第2世代Surfaceの登場や、2013年の年末商戦が含まれる期間です。マイクロソフトによれば、前四半期に比べ、売上と販売台数が2倍以上に拡大したとのことです。
↑米マイクロソフトの第2四半期決算は過去最高となる売上高を記録。 |
逆に、いま問題となっているのは“売れすぎ”による在庫不足です。日本ではSurface 2やSurface Pro 2がほぼ完全に在庫切れとなっており、量販店のSurfaceコーナーでは第1世代モデルしか購入できない状態が続いています。今後の入荷見通しについても不透明な状況で、「PCメーカーとして製品をお届けできず、心苦しい限り」(By日本マイクロソフト広報)との回答にとどまっています。日本だけでなく、米国でも多くのモデルが入手困難となっていることから、世界的に在庫が不足しているようです。
かつて第1世代のSurfaceでは、需要を見誤って大量生産した結果、値下げなどに伴う”在庫調整費”として9億ドルを計上するという結果に終わりました。この損失は、8億9300万ドルというSurfaceシリーズの最新の売上金額と比べて、いかに膨大なものであったかが分かります。第2世代ではこれを警戒するあまり、生産量を絞り込みすぎたといったところでしょう。
↑米国のMicrosoft Storeで売られているSurface Pro 2。現在では海外でも入手困難になっている。 |
■Windowsタブレットの中で大きな比重を占めるSurface
このように絶好調なSurfaceですが、あくまで“Surfaceとしてはよく売れた”というレベルの話に過ぎません。アップルが発表した同期間におけるiPadの売上は114億6800万ドル、販売台数は2604万台であり、Surfaceとは数字の桁が違うことが分かります。
Surfaceの売上から販売台数を算出することは難しいものの、仮にSurface 1台あたりの販売価格を800ドルとすると、販売台数は111万台となり、台数の規模はiPadのおよそ20分の1程度であることがわかります。一方、Strategy Analyticsによる2013年10~12月期のWindowsタブレットの出荷台数は330万台。単純比較は難しいものの、Surfaceのシェアは過半数とはいわないまでも、Windowsタブレットの25~30%程度のシェアを占めていることが推測できます。
また、Strategy Analyticsによる統計値には、Windowsタブレットの伸び率の高さも現れています。たしかに2013年全体でWindowsタブレットの出荷台数は1100万台と、iPadの7420万台に対して大きく差を付けられています。しかしWindowsタブレットのシェアは前年比で1.5%から4.8%に増加。シェアの伸び率に注目すれば、5.7%ポイント低下したiOSや3%ポイントの伸びにとどまったAndroidに比べ、強い勢いが感じられます。
さらに気になるのは、単純なタブレット型ではない“2-in-1”型PCの増加です。Strategy Analyticsはタブレットの定義について“コンバーチブルPCは除く”としていることから、今後の2-in-1の普及次第では、Windowsタブレットの実質的なシェアはさらに大きくなるものと期待できます。
■SurfaceがなければPCメーカーの製品はもっと売れていた?
さて、マイクロソフトが次に直面する問題は、このままSurfaceを拡大していくべきかどうかという点です。さまざまな統計からも分かる通り、SurfaceシリーズはWindowsタブレットの市場をたしかに牽引しているように見えます。その反面、もしSurfaceがなければ、PCメーカー各社のWindowsタブレットがもっと売れていたのではないか、とも感じられます。
↑ソニーのCoreタブレット『VAIO Tap 11』。本当はもっと売れていたはず……? |
マイクロソフトは、それまで手がけてこなかったPCハードウエア事業に参入するにあたって、Windows 8の魅力を最大限引き出すデバイスが必要であること、そしてPCメーカーとともにWindows 8に対応したPC市場を拡大することなど、いくつか理由を挙げてきました。
その結果、PC市場の拡大という点ではまだまだ成功しているとは言いがたいのが現状です。Windows 8のシェアは、Windows 8.1を含めても全体の10%強にとどまっているとみられており、Windows XPからの置き換え需要で盛り上がる法人市場も、移行先のOSはWindows 7が中心です。この点では、Surfaceシリーズは目的を達成したとはいえません。
その一方で、Windows 8の魅力を十分に引き出せるタブレットや2-in-1型PCは、メーカー各社から出揃いつつあります。その中にはソニーや富士通によるCoreプロセッサ搭載のタブレットなど、Surface Pro 2と競合する製品も登場しています。この点では、Surfaceシリーズはその役割を終えたとも考えられます。
■Surfaceファミリーを拡大する“プランB”はある?
Windowsの歴史を振り返れば、さまざまなメーカーによるバリエーション豊かなPCこそが、その魅力であり強みとなってきたと、筆者は考えています。このことからマイクロソフトにとっての“プランA”とは、PCメーカーとの良好な関係維持を重視し、Surfaceシリーズの展開は控えめにする、といった方向性が無難でしょう。このところ、Surfaceと競合するメーカーの担当者からは、「Surfaceのソフトウエアは実質的に無料ではないか」との批判や、「在庫切れで買えないくらいが、むしろありがたい」といった声を耳にすることが増えてきました。
しかし重要なのは、今後のPC市場そのものです。2014年のPC業界は、Windows XPからの置き換えに伴う“特需”によって好調が予想されるものの、その反動として2015年以降は横ばいか、ゆるやかに縮小していくものとみられ、少なくとも右肩上がりの成長は期待できません。PCメーカーは生き残りをかけて、買収や合併により規模を拡大し、スケールメリットを追求していくといった方向に進むでしょう。
同時に、新しいデバイスへの投資は、高い成長が見込まれるAndroidタブレットやChromebookに集まりつつあります。対照的に、モバイルPCやUltrabookなど、開発コストの割に儲けが薄いといわれる分野への投資は、控えめになっていく可能性があります。こうした最悪のケースを想定すれば、マイクロソフト自身がSurfaceシリーズを拡大することで、その領域をカバーしていく必要性が出てきます。タブレットだけでなく、PC市場全体を牽引していくための“プランB”を、ナデラ氏率いるマイクロソフトは、検討する時期に来ているのかもしれません。
山口健太さんのオフィシャルサイト
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