MSX第一号機発売から30周年! MSXマガジンも今月(10月)創刊だから30周年だ! というわけで突然思い出したように再開する記念企画、第11弾。
↑MSXマガジン創刊号は1983年10月8日発売でした。ということでMマガも「祝! 創刊30周年」なのです。それにしてもMSXアソシエーション所蔵のMマガはいろいろと酷使されてもうボロボロです。 |
普通、ファミコンだって他のPCだって、本体の店頭販売開始日を〇周年の誕生日や記念日にするでしょ?
というわけで10月21日はMSX第一号機、三菱『ML-8000』の発売日、そして10月25日は第二号機、三洋『MPC-10』の発売日なのだ。改めて「祝!MSX誕生30周年!」お誕生日おめでとう、なのである。
↑三菱『ML-8000』。一番乗りをはたしたのは、松下でもソニーでも東芝でもヤマハでもなく、三菱なのでした。ってあたりに当時の各社の混乱ぶりが垣間見えます。本体第一号発売にこぎ着けるのに、さまざまな大人の事情と野望と希望があったんでしょうな。ってことが想像できる年齢にみんななっちゃいましたね……。(写真はMSXマガジン'83年11月号より) |
なぜかMSXだけが、本体の発売日ではなく規格の発表日を“誕生日”にする風習になっているわけなのだけれど、MSXはたくさんの種類が出ているからってだけでは理由にはならない。一応他のPCとかだって数種類は出ているわけで、それでも規格の発表日を誕生日にするなんていう慣例は無いでしょう? でも、よく解からないけどそこがMSXらしさなのかもしれない。だってそれだけ“規格”というものを、メーカーもユーザーも大切に考えているってことなんだから。さて、今回はそんな大事な“MSX規格”に賛同して集まったメーカーのこぼれ話をお伝えするとしましょう。
■MSX誕生に立ち会った全17社はこちら!
MSX規格発表の記者会見が1983年6月16日に開催されたことは以前の記事にも書きましたが、ここで改めてどんな企業が出席したのか一気に並べてみましょう。
日本企業(50音順) | アスキー | |
キヤノン | ||
京セラ | ||
三洋電機 | ※パナソニックに吸収 | |
ゼネラル | ※現富士通ゼネラル | |
ソニー | ||
東芝 | ||
日本楽器製造 | ※現ヤマハ | |
日本電気(NEC) | ||
パイオニア | ||
ビクター | ※現JVCケンウッド | |
日立 | ||
富士通 | ||
松下電器 | ※現パナソニック | |
三菱電機 | ||
アメリカ企業 | スペクトラビデオ | |
マイクロソフト |
・記者会見に参加すれども、本体は出さなかったNEC
PC-9801から6001にわたる自社ラインアップを揃えているためMSX参入のメリットは少なかったはずのNECですが、実は松下電器とソニーの次にMSXの構想に加わっていた、かなり先発とも言えるメーカーだったのです。NECは当時自社PCを企画する際にアスキーやマイクロソフトとかなり深く広く相談しあっていましたから、逆にMSXの構想についても影響を与えていたわけなのです。
しかし、MSX本体をNECが出すということとなると、やはりというか社内の意見は割れ、当時の副社長であった大内淳義氏は当初記者会見を欠席するつもりだったとのこと。しかし、西さんの説得により出席した大内氏は「MSX構想には賛同するが、今回は参加しない」という異例の発言を行なったのでした。当然ながら、記者会見に出席しておきつつMSX本体を出さなかったメーカーはNECだけなのです。
※大内氏はその後NECの副会長、会長、相談役を務め、1996年に亡くなった。
ちなみにその後、アスキーから刊行された書籍『みんながコレで燃えた! PC-8001・PC-6001』において、NEC社内でPC-6001とMSXの合体機が計画されていたことが明かされています。これが実現していたら、パソコン業界はどうなっていたんでしょうね…?
↑「パピコン」という愛称だったPC-6001。1981年に8万9800円で発売。スプライトこそなかったものの、カートリッジをさすスロットがあったり、当時のPCとしては安い価格などMSXとの共通点も多いマシンでした。(写真は『みんながコレで燃えた! PC-8001・PC-6001』より) |
・記者会見にはいなかったが、実は本体を出したシャープ
当時“パソコン御三家”と呼ばれていたNEC、富士通、シャープのうち、唯一記者会見に出席しなかったのがシャープでした。結局シャープは日本国内ではMSX本体を出さなかったのですが、ブラジルではMSXを製造しており、南米市場でMSXが普及するきっかけを作りました。
その証拠に、MSXに参入したメーカーにはそれぞれメーカーコードと呼ばれるIDが割り振られていたのですが、その23番にはシャープ・ド・ブラジル(Sharp Do Brasil)の名前が登録されています。この会社はシャープが協力した現地資本の合弁会社でした。
・記者会見に間に合わなかったカシオ
後に超低価格戦略で旋風を巻き起こすカシオですが、この記者会見には出席していません。実はすでにMSXには賛同しており、規格策定の会議にも出席していたのですが、いろいろあって正式な参加表明には至らなかったようです。MSX(1)規格のRAMの最低容量は8KBですが、この容量を主張したのもカシオでした。
その後、1983年7月9日付の日経産業新聞に掲載された西さんのインタビューでカシオが参加を希望しているとの発言が掲載されましたが、正式にMSXに参入したのはだいぶ遅れて翌84年10月になってからのことでした。
↑1984年、カシオ『PV-7』は2万9800円という革命的な価格で発売。しかしRAMはMSX規格の最低容量である8KBしかなく、そのおかげで動かないゲームやアプリもありました。(写真はMSXマガジン'84年12月号より) |
・謎のメーカー(?)スペクトラビデオとは
おそらくほとんどの人が知らないと思われる会社ですが、実はMSXの誕生に重要な役割を果たしている会社です。スペクトラビデオは、もともとアメリカでゲームソフトを開発・販売していた会社ですが、自社でホームコンピューターを開発するという計画が持ち上がり、そこにアスキーが協力することとなります。
1983年1月に発表された『SV-318』は、CPUにZ80、VDPにTMS9918A、音源にPSG(AY-3-8910)、そしてMicrosoft BASICを搭載するというMSXとほぼ同じスペックを持っていました。すなわち、この機種こそがMSX(1)規格のプロトタイプと言える存在なのです。
※Microsoft BASICと言っても、実際に開発していたのはアスキー。当時はアスキーマイクロソフトという両者の合弁会社が存在し、マイクロソフトの日本における代理店を務めていた。日本製のパソコンに搭載されているMicrosoft BASICも同様にアスキーが各機種のスペックにあわせたカスタマイズを行なっていた。前述のNECの機種なども同様でした。
SV-318、およびその後継機であるSV-328はMSXとの互換性はありませんでしたが、1984年に発売されたSV-728によって、スペクトラビデオは正式にMSX参入メーカーとなりました。
参考:Roger's Spectravideo page(関連サイト)
・MSX参入がささやかれていた意外な会社
最後はちょっとしたこぼれ話。1984年2月10日付の日経新聞に、意外な企業がMSXに参入するという記事が掲載されていました。それはサンリオです。なんとも、自社キャラクターを冠した機種を発売し、価格は2万円を切る超低価格に設定するとかなんとか…。
もっとも、バンダイ『RX-78ガンダム』、タカラ『M5(ソード社製)』、トミー『ぴゅう太』といった玩具メーカーが続々とホビーパソコン市場に参入していた時代ですから、当時としてはさほど驚きではないニュースだったのかもしれません。結局サンリオからMSXは発売されませんでした。いまでは「仕事を選ばない」とまで言われているキティちゃんも、当時はまだ慎重な姿勢だったのかも?
↑もしもサンリオが2万円を切るMSXを出していたら、こんなゲーム機ふうなMSXでカシオに対抗していたかもしれないですぞ(想像図)。ほら、1チップMSXをピンクにしただけでドリキャスの限定モデルに印象がそっくりに。同じくピンク色のキーボードとジョイパットを1個付けて1万9800円とかだったら欲しいかも。 |
このように家電メーカーや玩具メーカーなどさまざまな会社の思惑が入り乱れてる中で、発展してきたのがMSXでありWindows以前のパソコンだったと言えるでしょう。そうした競争によって組込み系マイコンやインテリジェントな家電、家庭用ゲーム機などさままな製品に技術やノウハウがフィードバックされ高度に高速にどんどん発達、進化していったのです。改めて振り返るとそれはもう異常とも言える速度での進化でした。たった一年で性能がガラリと変わってしまうほどに。そのフットワークで80年代からバブル崩壊の日まで日本は“モノづくり大国”として世界のトップランクに踊りでたのでした。それを考えると、現在家電業界でもゲーム業界でも、世界の中で日本メーカーが苦戦しているのは本当に惜しまれます。倒れたままで良いのか? これからニッポンのモノづくりを復活させるのは、かつてMSXで育った、そしていまこの記事を読んでいるキミたちだ! 思い出そう、パソコンの広告をドキドキしながら1ページ1ページじっくりと見たあの日々の情熱を! とカラ元気をまき散らしつつ、ノスタル爺記事はまた次回(来週)へと続きます。
さて、前回に引き続きツイッター他でのメッセージをお待ちしております。もしかしたらこちらで取り上げさせて頂くかもしれませんよ。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります