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ルールを疑ってみる――サウンドプロデューサー 松隈ケンタ

2013年11月05日 11時25分更新

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 柴咲コウ、中川翔子、Kis-My-Ft2などに楽曲提供をなさっている、サウンドプロデューサーの松隈ケンタさんに「大切にしている自分ルール」や「ルールについての考え方」をお聞きしました。

ルールを疑ってみる――サウンドプロデューサー 松隈ケンタ

 音楽制作は、料理とスゴく似ていると思います。いろいろな具材(音色)を調理し、組み合わせ方によって、いろんな料理、いろんなサウンドが生まれます。共通している事は、「レシピ」どおりに作れば、そこそこおいしいものが作れるけれど、頼りすぎるとオリジナリティは生まれないということです。

 例えば外食チェーン店では、全国どの店も同じ味で、安定したクオリティを保つための「レシピ」があります。バイト君が作っても、店長が作ってもだいたい同じ味になります。しかし家で自分の料理を作る場合、料理が上手な人ほど、レシピに頼りません。参考にはしますが、すべての具材、調味料をグラム単位で計って完璧に再現する事はあまりないと思います。冷蔵庫にある具材をいい感じに調理して、フィーリングで調味料をかけ、ささっとまとめ上げます。時には2つの料理を掛け合わせて、オリジナル料理を生み出す事もありますよね。

 音楽にもいろいろな「レシピ」があります。多くは専門学校や先輩に教えてもらったり、教則本から学ぶ事が多いようです。

 例えば、「このジャンルにはこの楽器を使いましょう」とか、「このコード進行にはこの音階を使いましょう」とか。機材関係では、「この楽器はこのマイクで録音しましょう」「マライヤキャリーが使ったマイクなのでいいマイクです」「銀パネルのビンテージ機材だから高いですよ~」など。

 音楽制作における「レシピ」=「ルール」です。もちろん、基礎を学ぶうちは重要な部分でもあるし、先人が努力して見つけた素晴らしい法則ではありますが、それを疑いもなく信じ込んで、ほかのやり方を試しもしないミュージシャンが結構多いことに、いつからか不自然さを感じていました。プロの作曲/編曲家を目指すうえで、レシピどおりに皆と同じものを作っても意味がないと思うのです。料理のチェーン店は好きですが、音楽は人と同じじゃつまらないですからね。

 そこで僕は、音楽界の「ルール」や「常識」をとにかく疑ってみる事にしました。それらのほとんどは、安定的なクオリティを保つ為に作られた「レシピ」だからです。

 例えばレコーディングの教科書に、「ドラムにはこのメーカーのこのマイクがオススメ」と書いてあったとします。僕の場合、もちろんその機材を試しつつも、そのスタジオにあるありったけのマイクを試し、立てる位置を変えてみて、自分の耳で本当にカッコいい音だと思えるものを探します。たとえそのセレクトが常識はずれで邪道な感じでも全然OK! いろんな情報は参考にはしますが、信用はしません。時代がどんどん変わり、年々機材も進化して、リスナーの音楽の聞き方も多種多様になっているのに、使い古された「レシピ」に頼る事のほうが、僕には恐ろしいのです。
 ちなみに僕はギタリストですが、ベース用と書いてあったケーブルを買って、愛用しています(笑)。ピックも「エレキは固めのものがいい!」という常識を無視して柔らかいものを愛用しています。

 「レシピ」に従わない事により、失敗もたくさんあります。しかし試していくうちに、「小さな成功」が生まれる事があります。「ここをこうすればこの音になるんだ!」と気づいたり、「あのギターの音が松隈さんらしさだよね」と誉められたり。そういったものをひとつひとつ蓄積していく事によって、自分のスタイルが確立され、個性的なサウンド、革新的な新しい音楽が生まれると考えています。

 よく思うのですが、人間は何度も同じ失敗をしてしまうくせに、うまくいった時の事はすぐ忘れて、やめて新しい事をしてしまう傾向にあるんです。なので僕は、うまくいった時こそ『パターン化』して、それに従うようにしています。実はそれが「こだわり」と呼ばれるものではないでしょうか。

 僕もよく周りから、変なところにこだわっているように見られますが、「成功体験」から生まれた意味のあるこだわりはスゴく大事だと思っています。逆に自分の好みや、プライドから生まれる、意味のないこだわりはなるべく捨てるように心がけています。

 そもそも、「ルール」に反する天邪鬼な事をするのが、ロックの原点です。音楽に正解はないとよくいわれますが、その通りだと思います。

 先人が作った偉大な「ルール」に敬意を評しつつ、それを崩して新しいものを追求していけたらと、毎日考えています。 ROCK!!

 

松隈ケンタ(まつくまけんた)

2005年にavextraxよりメジャーデビューし、現在はアイドルグループ『BiS』(Brand-new idol Society:新生アイドル研究会)のサウンドプロデューサーを務めるとともに、柴咲コウや中川翔子、Kis-My-Ft2などに楽曲提供をしている。さらには、8人のクリエーターによる音楽制作チーム『SCRAMBLES』を発足。2013年4月にはインディーレーベル『SCRAMBLE RECORDS』を設立した。

■関連サイト

SCRAMBLES

SCRAMBLE RECORDS

BiS official website

Twitter@kenta_matsukuma

角川EPUB選書 創刊記念 ルールを変えよう!キャンペーン 特設サイト

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