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挿せば健康管理やロボット操作も! スロットの可能性は無限大:MSX30周年

2013年07月30日 15時00分更新

MSX30周年スロット&スプライトロゴ

 MSXと言えばスロット。皆さんはMSXのスロットに何を挿しましたか(ゲーム以外で)?
 今回はMSXをバージョンアップするための、ちょっと変わった周辺機器をご紹介しましょう。

■楽電があれば電話帳いらず?

MSX30周年企画第8回
↑MSXのスロットに挿さった楽電。右側に電話のモジュラージャックを挿して使う。言うまでもなく本体右側にあるのが“黒電話”だ。「ダイヤルを回す」って昔は言いましたよね。(写真は、MSXマガジン'85年9月号より)

 まだ、家庭の電話と言えば黒電話ばっかりで家庭用多機能電話がほぼ皆無だった頃、会社などにあった多機能電話はちょっと憧れでした。この『楽電』は、MSXにあらかじめ登録してある電話帳を使って簡単に友達や親戚のところに電話ができるというものです。「そんだけ?」と思うかもしれませんが、丈夫さだけが取り柄の黒電話にコンピューターの機能を追加できるというのは凄いことだったのです。でも、この頃って電話がリビングのテレビの傍にあるとは限りませんでした。むしろ、サザ〇さん家にみたいに玄関先とかにあったりで、そんなところにMSXとブラウン管テレビを設置するほうが難しそうです。なので実際に使える人は限定的っぽいですね。

■オムロンのMSX血圧計で家族の健康を管理

MSX30周年企画第8回
↑オムロン健康パソコンシステムとその画面。(写真は、MSXマガジン'85年6月号より)

 血圧計といえば、無論オムロン(笑)。オムロンも一時期MSXに積極的に得意の健康器具で参画したメーカーだったのですよ。さてこの『OHPS-I オムロン健康パソコンシステム』ですが、5年間もつバックアップバッテリーを搭載したカートリッジに長期にわたってデータの保存が可能で、血圧と脈拍のデータを表と推移グラフで表示することができました。更に万一にそなえてカセットテープにもデータの避難が可能という念の入り様。しかもカートリッジ部分だけの単品販売を行なっており、家族ひとりづつ個別にデータを採ることもできたのです。

 MSX2登場前の'85年半ばにしてこの先進性です。いよいよ家庭にコンピューターが入り、日常生活の役に立つ一歩前まで来たような気がする一品でした。そのうちパソコンが16ビットとか64ビットとかになって自動的に病気を判断して救急車を呼んでくれたりする未来がくるのかと思ったら、未だに来なかったりしますが。

※写真に一緒に写っているMSXはソニーのMEZZO(『HB-101』、MSX1)。キャリングハンドルの有用性は疑問なれど、MSX史上トップランクの美しいフォルムは「これのMSX2が欲しい」とHITBITファンに言わしめた。カーソルキーまん中の穴に付属の棒を挿し込むと簡易ジョイスティックに。

■MSXでロボットを動かそう

MSX30周年企画第8回
↑デザインが秀逸な『MSX-WIZARD(ELEHOBBY)』、定価9800円。(写真は、MSXマガジン'85年6月号より)

 まずデザインが男の子のハートにストライクですよ。男の子なら“キャタピラ”ですよ。キカイダーのような透明な頭に透けて見える基板ですよ。口(?)に挿しこむカートリッジに動作をプログラミングですよ。実際に指定できる動作はたいしたことなかったけど、右折・左折時にウィンカーが出たりライトを点灯させたり255ステップほど入力可能でした。これは持ってた人いるんじゃないかな? 一万円以下だったし。

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↑三菱の『ML-ROBO』。コアなMSXユーザーなら“ML”でもう三菱ってわかっちゃうかな。送信部の電池が無くなると途端に野良ロボになる。どこ行くんだー!(写真は、MSXマガジン'85年6月号より)

 良いも悪いもリモコン次第。普通のラジコンのオモチャですらとっても高かった時代に一万円ちょっとで、送信機をMSXのプリンター端子に接続して遠隔コントロールができた優れものだ。前進、後退、前右、前左、後右、後左、左旋回、右旋回、ストップと基本動作が一通りできる上、腕が肩を軸に回転し伸び縮みするところに少年少女の夢と妄想が広がる。「さすがは三菱だ、そのうちきっと鉄人だって造るだろう」という期待を子供に持たせる逸品だった。定価1万2800円。


■希望と絶望の『MSX2バージョンアップアダプター』登場!

 '85年秋にMSX2が発表されたとき、そもそもパソコンの初心者が多かったMSXユーザーは、規格がバージョンアップするということがよく理解できませんでした。「上位互換は保たれるらしい」と言われても意味がいまいちわからない…。そんななか、特に奮発して10万円以上もするような高級なMSX1を買ってもらった(あるいは買った)ユーザーはMSX2の登場を期待と不安を持って迎えたのでした。

 実際にはMSX1用のソフトはまだ続々と出ていましたが、市場に現われたMSX2のグラフィックのスペックは気になるもので、隣の芝生は青々と生い茂って見えました。しかし、MSXマガジンに掲載されていたサンプル画像は記事中で「まるで写真みたい!」と言うほどの魅力は感じず、さほどの焦りはまだ感じずにいることができたのです。

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↑MSXマガジンに掲載されたMSX2試作機。MSXよりはキレイな画面かもしれないけど、“写真みたい”ってほどでもないような……。(MSXマガジン'85年8月号より)

 ほどなく、「『レイドック』(T&Eソフト)のデモ展示を見たか? めちゃめちゃ凄いぞ!」というウワサ話を耳にし、Mマガに掲載されたその写真を目の当たりにしたその瞬間、「ゲーセン並みの凄さじゃないか!ファミコンなんて敵じゃねぇ!!」(冷静に見ればホントはそれほどではないのだが)と、驚愕と共に震えが止まらなくなり、喜び泣き叫んだMSXユーザーが全国に突然100万人ほど発生!(MSXアソシエーション調べ、笑)。

 確かにこの縦スクロールシューティングゲームは高精細で美しいグラフィックとスクロールで、まったく新しいMSX2時代の到来を感じさせるものでした。が、しかし手元には愛着のあるMSX1が……。「RAM64KBだし、セパレートだし、カッコいいし、買ったばっかりだし、高かったんだし、親に悪いし、etc.(理由は人それぞれなので適当に足したり引いたりしてください)」。まあ、とにかく捨てられないですよ、愛着のあるMSX1ですから。

 MSX2も各メーカーからぼちぼちと出そろい始めた'85年10月、そんな私たちに希望の星が瞬いたのです。それこそが、通称『バージョンアップアダプター』なのです。NEOS(株式会社日本エレクトロニクス)というブランドが発表したこのカートリッジをMSX1のスロットに挿せば、なんとMSX1がMSX2になってしまうのです。「凄い! なんて凄いんだMSXのスロットは!!」 かなり強引にたとえるなら、ファミコンにバージョンアップアダプターを挿すとスーパーファミコンになっちゃうような、PC-6601がPC-8801になっちゃうような、そんな凄いことなんですよ。もう、無敵じゃないですかMSX。ここまで凄い拡張性がMSXスロットにあるなんて思ってもいませんでした。

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↑バージョンアップアダプター試作機。モニターには名作RPG『ハイドライド』のMSX2版が表示されている。(写真は、MSXマガジン'85年11月号より)

 しかし、待てど暮らせど“発売開始”のアナウンスが出ない。いや、出たらしいというウワサは何度となく流れ、全国の大型パソコンショップに走ったユーザーは数知れず。ショップ側もお客からの問い合わせは多いが、一体どこが出す何なのだろうと思っていたようで、どこに確認したら良いかわからずMマガ編集部に問い合わせてくるケースも少なくありませんでした。

 実はMSXをMSX2相当にバージョンアップさせるアダプターは、複数社が開発していましたが販売予定価格が下がらず6~8万円くらいにならざるを得ない様相でした。いくらMSX2が10万円以上するといってもこれでは高すぎます。また、MSX1は16KB以下のRAMしかない機種もあります。将来的なことまで考えれば、拡張スロットという、まるで電源コンセントを3つ4つに増やすごとくスロットを増やす製品を安価に提供できるよう新規開発する必要がありました。

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↑拡張スロット。これをMSX本体のスロットに挿すことで、ひとつのスロットを4つに増やすことができた。(写真は、MSXマガジン'86年11月号より)

 考えてみればMSXは本当にたくさんの種類があります。これに現状挿すことができるカートリッジの数を想像するとその組み合わせは膨大です。できるだけ多くのユーザーにMSX2環境を提供しようと思ったら、互換性のチェックを行なわなくてはなりません。開発メーカーのほとんどが諦めていく中で、NEOSだけは粘り強く製品化を推し進めました。そしてついに2万9800円という低価格での販売に漕ぎ着けたのです。さらに拡張スロットについても、上の写真の『EX-4』を発売、これも2万9800円というこれまでの約半額という低価格を実現しました。

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↑NEOS製MSX2バージョンアップアダプター。試しにMSXturboRに挿すとやっぱりMSX2になる。バージョンダウンアダプターじゃなイカ!?(写真は、MSXマガジン'86年11月号より)

 MSXマガジンでは反響の大きさから5ページフルカラーでこれを特集し、さまざまなMSXの仕様と使い方に応じた詳細な拡張パターンを解説しました。愛着あるMSX1がとうとうMSX2になる日が来たのです。時に'86年11月号でのことでした。……そう、もう'86年の秋なのです。冬にはあの『FS-A1』や『HB-F1』が出るのです。MSX黄金時代を切り開いたニッキュッパMSX2の登場が目前に控えていたのです。

 MSXマガジン'86年12月号では既にFS-A1の広告が掲載されました。翌月ですよ、翌月。一年待たされて大喜びして購入し、翌月にはどん底に。逆に、MSX2が高くて手が出ないと買い控えしていた人は大喜びでした。本当にこの2万9800円というMSX2の登場は衝撃だったのです。しかしユーザー以上に衝撃を受けたのはNEOSだったのではないでしょうか。苦労に苦労を重ねて開発してきたその成果を、MSXチップの高集積化技術はあっさりと過去のものにしてしまったのです。この一年ごとの急速なパソコン(半導体)の進歩は凄まじいもので、製品の開発方向を考えるにしても想像を超えるものでした。そうパソコン&ゲーム機の歴史は半導体開発の歴史なのです。この辺は前回のヤマハ回東芝回もご一読頂ければと思います。

 どこのメーカーも成し遂げる事ができなかった、NEOSの『MSX2バージョンアップカートリッジ』は、まさに栄光無き英雄たちの多大なる努力と創意工夫の軌跡を示す製品だったと言えるでしょう。これぞ、プロジェクト(MS)X!

 さて、こうした過去の拡張カートリッジからさまざまに技術的な刺激を受けることで、ユーザー主体によるMSX拡張実験はまだまだこれからも続いていくわけですが、最新情報をひとつ。
 次の土日(8月3日、4日)に石川県・金沢市で行なわれる“NT金沢”(ニコテック金沢=ニコニコ技術部)というイベントにて、金沢大学の大野浩之教授が、ちょっと面白いMSXカートリッジを展示するそうですよ。もちろんMSXアソシエーションも技術協力していますので、この試作カートリッジで何が出来るのかこうご期待。

NT金沢2013(関連サイト)
開催日 8月3日(土)、4日(日)
時間 10時~17時
場所 金沢市民芸術村パフォーミングスクエア
価格 入場無料
※7/30 16:20修正。初出時日付が間違っていました。申し訳ありませんでした。

この模様は可能であれば次週のスロット&スプライトでもちょっと紹介しちゃいます。
「作ってみた」は正義。確かにその通りですね。では、また来週のこの時間にテレビの前でお会いしましょう。

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おたよりコーナーでございます。

@kinginsunagoさん
同級生が持ってたなぁヤマハMSX用FMシンセユニット。付属マニュアルだけじゃよく判らず昼休み時間に校内のピンク電話からヤマハへ電話して聞いてたっけ(苦笑

──おお、それはなかなか貴重な体験&証言ですね。その同級生は今でも初音ミクとかでDTMを続けていらっしゃるのでしょうか。(んで、よくわからず、クリプトンに電話して……)

@flame_tiggerさん
MSX音楽といえば、ジョイスティックポートとMIDI端子をつなぐアダプタの自作とかやったなー。

──当時は、ハードもソフトも「なければ自分で作る」という人が多かったですよね。その精神は、今回の記事にも出てきた「ニコニコ技術部」の人たちに受け継がれていると思います。

@ees_913さん
MSXがゲーム機寄りに舵を切っていたらSEGAハードっぽくなったって結局デッドエンドじゃん!!

──しーっ! 気付いても言っちゃダメ!

それでは、またTwitterで、ご意見ご感想つっこみなどお待ちしております。このコーナーで採用させていただくかも!

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