クアッドコアCPUや10.1インチの大きなディスプレイを搭載しながら、キャンペーン価格で実売9975円という破格のプライスを打ち出したタブレット端末「dtab」が、本日(3月27日)発売された。
dtabは、ドコモが続々と開始している「dマーケット」の各種コンテンツやサービスの立役者として開発されたタブレットだ。通信事業を本業とするドコモが、3G/LTEに対応しないWi-Fiタブレットを出すことも、話題を呼んだ。
ドコモは、このdtabに加え、テレビのHDMI端子に接続する「dstick」や、フルHDに対応したDLNAアプリの「Twonky Beam」を用意し、「ドコモ スマートホーム」という構想を打ち出している。dマーケットで用意したコンテンツやサービスを、家庭でも楽しんでもらおうという意図がそこにある。こうした端末の開発コンセプトやスマートホーム構想の狙いを、ドコモのネットサービス企画担当 那須寛氏とプロダクト戦略担当 片岡寛氏に伺った。
マルチデバイス、マルチユースだけでなくマルチキャリアも標榜していきます
――まず、dtabやdstickを出す狙いや背景を、改めて教えてください。
那須氏 ドコモは、総合サービス企業を目指すことを標榜しています。音声通話やパケット通信だけではなく、新たなサービスの提供を充実させることが大切だと考えています。
その新たなサービスの形としてスマートフォンで「dメニュー」と「dマーケット」を現在提供しています。dメニューはプラットフォームサービスという位置づけで、課金やポータルをドコモが提供し、(コンテンツプロバイダーから)9%の手数料をいただいています。一方のdマーケットは、ドコモがサービサー(サービス提供者)、コンテンツプロバイダーとして、実際に仕入れをしてお客様に売っていくビジネスモデルです。今後、大きく広げていくのはこのdマーケットです。
dマーケットは当初デジタルコンテンツが中心で、ブック、ビデオ、アニメを始め、昨年12月にはゲームやリアルなショッピングにも着手しました。携帯電話を通じてメリットを得られサービスに広げたいという思いがあるからです。
dメニューやdマーケットといったサービスを簡単に享受できる環境を整えていこうというのが「スマートホーム構想」です。今までの携帯電話は「モバイル」と言われるだけに、持ち歩いて外で使うデバイスでしたが、自宅の中でも使われています。
自宅ではテレビやタブレット、パソコンなどが情報端末として使われています。今後、タブレット端末の利用ががPCよりも多くなるという傾向もあり、その中でドコモが提案するタブレットとして開発したのが「dtab」です。
また、自宅のテレビで使っていただく端末として「dstick」も同時に発表しました。今後、ドコモのサービス事業はマルチデバイス、マルチユースだけでなく、マルチキャリアも標榜していきます。
――このタイミングで、あえてドコモブランドをさらに強化した「dtab」を開発したのはなぜでしょう。3GやLTEの通信機能を持たないタブレットをキャリアが販売するという点でも「dtab」は異色です。
那須氏 確かに、回線つきのタブレットも出させていただいてます。今回は、ドコモのサービスを利用する際に利用者がどのような環境で使われるのかを調査しました。
その中で、EC(イーコマース)やブラウジングは、まだまだ80%以上がPCで行われている状況が見えています。こういった部分をタブレットに取り込んでいく必要があります。ですが、我々はPCを販売していませんし、PCは我々の範疇でもありません。タブレットをお使いいたき、PCに立ち向かっていきたいというのもあります。
国内のタブレット市場を見ると、WiFi端末がシェアの80%を占めています。2台目として使うタブレットとして、コストを抑えた端末も出さなければと考えました。
片岡氏 ドコモのタブレット端末は初代「GALAXY Tab」発売から2年経っています。その間、高速通信のXi対応タブレットを業界に先がけて発売したほか、防水モデルなど多彩なモデルをラインアップし、3G/LTE通信機能搭載タブレットとしてのシェアは半分以上です。特に、スマホとの2台持ち料金プラン(今年度は月額2980円)を提供したあとからタブレットの販売数が伸びました。
タブレットはスマートフォンとも相性がいい端末だと思っています。タブレットチームとしては、低コストな「dtab」をスマートフォン一緒に使ってもらえるとうれしいですね。
――キャリアの発想だと、タブレットでもう1回線契約を増やすという方向になりがちですが、dtabはそれとは根本的に違うということですね。
那須氏 企画は2012年1月から始めていました。当初から低価格での提供を考えていました。タブレットユーザーを増したいという目的があるため、WiFi端末を出したいと。初めての取り組みであるがゆえに本当にこのビジネスモデルが成り立つのか、丁寧に議論を重ね進めてきました。
――最近、キャリアフリーに対して積極的になっているのも印象的です。
那須氏 外の方々に対してドコモのサービスをどう提供するかを考えると、やはり認証や課金は整備しなければなりません。既存のドコモIDは回線にひもづけていますが、これをオープンにすることで他社のユーザーがドコモで買い物をするといった世界もあると思っています。
インターネットでは回線認証の方がある種異質です。環境を整えていくのはありだと思っています。12月に開始したサービスだと、dゲームもすでにキャリアフリーです。
1万円以下でもタブレットとしての魅力がなければ意味がないですから
――キャンペーンですが、1万円を切るという価格には驚きました。
那須氏 そこは非常にこだわりをもっているところです。お求めやすいというのには、買う時の障壁が低いことと、ランニングコストの両面がありますからね。
やはり1万円を切らないと「おー!」という反応は得られません。スペックは必要最小限のもので中身を構築しました。ファーウェイさんのグローバルモデルを若干だけカスタマイズする形だったからこそできたことです。
さらに、dマーケットをすでにお使いで、2台目として持つ方に提供するということで、多少は身銭も切り、9975円で提供するところまで持っていけました。数を出せれば、お客様にも還元できると思います。
――ドコモのサービスへの誘導を目的にしていると聞いて、当初はもっとUIがカスタマイズされたものになっていると思っていました。でも、実際はAndroidのホーム画面を少しカスタマイズした程度ですね。Google Playも使えるので、通常のAndroidタブレットとしても役立ちそうです。
那須氏 タブレットとして、魅力がなければ意味がないですからね。我々のサービスを売りたいというのはもちろんありますが、だからといって端末の価値をそれだけで引き出すことはできません。現状を見れば、eコマースをドコモのものしか使わないという人はいないでしょう。楽天市場やAmazonなど色々あります。そのときにブラウジングがきちんとできるというのが大切です。もちろん「dマーケット」を利用していただきたいのですが、そのほかのサービスが使えないと端末を持つことに躊躇されてしまいます。
ちゃんとブラウジングができ、メールができ、なおかつ我々の主張もさせていただくというのがコンセプトです。ですからブラウザーも、ちゃんとホーム画面に用意しています。Google Playから何もダウンロードできないというのも魅力にかけるので、そこはそこで楽しんでいただきつつ、我々のコンテンツをお選びいただけるよう、努力はしていきます。
タブレットは1人で何台も持つものではありません。お選びいただき、ずっとお使いいただけるものを目指しました。
――価格は安いですが、クアッドコアCPUなど、必要なスペックはきちんと押さえています。
那須氏 動画がスムーズに再生できないと魅力的ではないですからね。スペックについて、メモリー(ROM)は8GBですが、これはSDカードでカバーできます。16GBや32GBだと値段が一気に上がってしまうため、ここは8GBにしました。
――dtab以外で、Wi-Fi版を出すことは考えているのでしょうか。
片岡氏 我々としては回線つきのタブレットが、ドコモのベストエクスペリエンスという考えです。一方でdtabのようなWi-Fiタブレットがあれば、Xiタブレットではもっとチャレンジングなことができます。たとえば薄くて軽い「Xperia Tablet Z」もありますが、こういった提案ができると、タブレット市場もおもしろくなってくると思います。
ライター・石野純也の目
家ではタブレットというのが一般的に
ドコモのサービス拡充に注目したい
3GやLTEに対応しないタブレットを、キャリアが自社のブランドを冠して売るのは異例のこと。9975円というキャンペーン価格からも、ドコモの意気込みが伝わってくる。
発表会でdtabの名前を聞いたときは、ドコモのコンテンツやサービスしか利用できない、囲い込まれたタブレットなのではないかという心配もあったが、ふたを開けてみると、安くて使い勝手のいいAndroidタブレットに仕上がっていた。自社サービスへの誘導と、自由度の高さのバランスを上手く取った端末とも言えるだろう。
dtabというデバイスがあることで、スマートホーム構想も絵に描いたもちではないような印象を受けた。こうした取り組みが進んでいけば、家ではタブレット、外ではスマートフォンという使い分けが、今より一般的になりそうだ。
dtabやdstickの登場に伴い、ドコモがキャリアフリーを掲げるようになったのも興味深い動きと言える。dビデオやdアニメストアのように、魅力あるコンテンツやサービスは、キャリアを問わず使ってみたいというのがユーザーの本音だ。ドコモにとっては、日本の人口の半分以上に市場を広げることができ、サービスから得る収益を増やしやすくなる。
コンテンツやサービスという点ではライバルの事業者も多いが、dtabのようなタブレットを直接販売できるのは、ドコモにとってのアドバンテージだ。このdtabがどのように受け入れられるのか、発売開始後の動向にも注目が集まる。
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NTTドコモ
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