日本マイクロソフトは12月3日、アプリ開発者向けパーティー『8nights』を東京 六本木で開催。パーティでは実際にWindows8ストアアプリを開発しているクリエイターによる貴重なプレゼンテーションが聞けるとあり、会場には約300名前後のクリエイターで、ほぼ満員状態となった。
■“niconico死亡のお知らせ”から生まれたニコ動画視聴アプリ
最初のプレゼンターとして登場したのは、ドワンゴ ニコニコ事業統括本部 プラットフォーム事業本部 第一企画開発部 清水 俊博氏。Windows8ストアで公開されているニコニコ動画の視聴アプリの開発裏話を語ってくれた。
開発当初、IE10でFlashが非対応になるといわれていたため、Windows8でニコニコ動画が観られなくなってしまうのではと危惧されていた。そこで急遽、開発を始めたのが専用ビューアーアプリ(ただし、後日IE10がFlash対応になったため、結果的に不要になってしまったが、『Windows Developers Day』にあわせて制作するように指示され、開発を続けたとのこと)。
開発を始めるにあたり、WindowsストアアプリのUXガイドラインに沿ってつくることを目指したが、UXガイドラインがとても細かく決められているため、忠実にやろうとすればするほど、うまく咬み合わないという所があったという。また、従来のニコニコ動画のインターフェースに対して、ユーザーから「ビューアーが見たいのではなく、動画が見たい」という要望が出たので、コンテンツが中心になるデザインになるように開発をしたようだ。さらに既存ユーザーを尊重するため、コメント描画の機能も搭載。アプリならではの機能として、1.5倍再生の機能も搭載した。
清水氏ははじめ、HTML5+JavaScriptベースで開発を行ないたいと希望したが、コメントの描画部分でDirectXを使う必要があったので、開発はC++/CXとXAMLで行なわれた。しかし、XAML側のバグで横長のデザインから縦長のデザインに切り替えたときに、余計な余白が出来てしまい、その対応に苦労したという。
■Webサービスもサクッと8ストアアプリへ移植できる
続いては、ジャムロジック Ext Japan シニアアーキテクト 野村 亮之氏と日本マイクロソフト エバンジェリスト 渡辺 友太氏により、現状のWebサービスを8アプリ化するプレゼン。ここでは、Windows8のアプリは従来のC++やVisual Basic系言語に加え、Webサイトの開発で使われる、“jQuery”や“CreateJS”などのHTML5+JavaScriptをベースにした言語でも可能となっていることをアピールした。
野村氏はiTunesのアートワークを選択して音楽を再生するWebサービス『soundSquare.asia』を8ストアアプリ化するデモを披露。
作り方としてはこうだ。Windows8の開発環境ソフト『VisualStudio2012』にWebサービス用としてJavaScriptベース言語で作成したコードをインポートする。アプリケーション自体の設定を行なったのち、Webアプリのエントリーポイント(index.html)をdefault.html移行するという、大きく3つの工程で完成するという。
こうして作られたアプリは、Windowsストアアプリ用リソースブロックとWebサービス側のインターフェースリソースブロックに分かれる。野村氏によれば、HTML5+JavaScriptをベースの言語では一般的にC++に比べて動作性能が落ちると言われているが、実際に作ってみると性能は悪くないとのこと。
これだけ簡単にWebサービスが8ストアアプリ化できるということは、今までHTML5+JavaScriptしか作ってこなかったプログラマーも8アプリが簡単に作れるということになる。これは8アプリの本数の増加とアプリの多様性を広げる大きなキーポイントとなるだろう。
■さようなら、C++言語!? JavaScriptで8用ゲームをつくろう!
最後のプレゼンターは、ユビキタスエンターテインメント(以下UEI)代表取締役社長兼 CEO 清水 亮氏。UEIではHTML5 + JavaScriptベースのゲームエンジン “enchant.js”を開発しており、Webベースのゲームプログラミング言語として徐々に定着しつつある。また、ゲームプログラミングコンテスト”9leap”も主催しており、2500を超えるゲームやツールが投稿されている。
清水氏のプレゼンはいきなり冒頭で”Good bye C++”、”No more XAML”、”No more CX”と、マイクロソフトの今までのアプリ開発の姿勢を否定するともとりかねない内容で始まった。これは、清水氏自身の経験から由来する言葉で、清水氏は以前C++でDirectXのプログラミングに取り組んだところ、3D処理を初期化するだけで500行もの行数が必要な複雑なプログラミングに疑問を感じたという。
清水氏のプログラミングに対する哲学は、“Code for everyone,Learn once,Code anywhere”という言葉に込められており、誰でも手軽に行数も少なく、汎用性の高いプログラミングができるようになることを目指している。そこで開発されたのが、“enchant.js”だ。“enchant.js”の手軽さや機能性は9leapに投稿されたゲームの多さや質の高さからもうかがえる。
プレゼンでは“enchant.js”の開発者のひとり、近藤 誠氏が、9leapに投稿されたゲームを8ストアアプリへの移植するデモが行なわれた。9leapに投稿されるゲームは、Twitter連携が必須になるため、8ストアアプリとして移植する際はTwitter連携をオフにする必要があるとのこと。
VisualStudioを使い、Web用に作られたリソースのコピーアンドペーストとソースの一部書き換えだけでなんと、8ストアアプリが10分もしないうちに完成。シミュレーター上で動作した。“enchant.js”で開発されたゲームは、Winodws8はもちろん、WindowsRTでも動作するのが魅力だ。
■『8nights』に込められたマイクロソフトの想いと戦略
今回のイベントを企画した日本マイクロソフトの春日井 良隆氏と永野 浩氏にイベントの狙いを伺った。
――今までのマイクロソフトにない異色なイベントですが、このイベントを行うきっかけやコンセプトを教えてください。
春日井氏:Windows8が今後とも生き残るためには、やはりアプリケーションが欠かせません。今までWindowsのアプリを作らずにiOSやアンドロイドのアプリを作成していた開発者たちに、Windows8ストアアプリをアピールしたいと考えたのがきっかけです。そのためには、今までのマイクロソフトのやり方にとらわれないイベントを行なう必要があると思ったのです。
――8ストアアプリの登録数を増やすのが目的ですか?
春日井氏:今は数を増やすのが目的ではありません。むしろ、ストアに登録されるアプリに多様性を出したいと考えています。ストアが例えばコンビニエンスストアーのように、なんでも揃っていて、魅力的な新しいお菓子があるとか、新刊の雑誌があるとか、そんな状態にしていきたいと思っています。数も大切ですが、まずは質にコダワリたいと考えています。
――今回はWindows8にフォーカスしていましたが、Windows Phone 8はどうでしょうか?
春日井氏: Windows Phone 8に関しては、いま正式にアナウンスできる状態ではありません。ただ、こうしたイベントはWindows8ファミリーのアプリ開発に対して行っていきたいと考えています。
――認証制のストアアプリの登録で苦労するのが、アプリの認証基準を満たすアプリをつくることですが、そのへんをフォローする仕組みはないでしょうか?
永野氏: 『Windows8 Clinic』を11月末から立ち上げました。日々の開発で悩んだときに、マイクロソフトにご来社頂いて、エンジニアに相談できる場所を提供していきます。アプリの認証基準を満たすためのフォローもそうですが、今までマイクロソフトで蓄積した知識を生かして、より使ってもらえるアプリの作り方や品質改善なんかも手助けできるようにしたいですね。
――今後ともこのようなイベントに参加する機会はありますか?
永野氏: 企画はしていますが、まだちょっと具体的にお話できる段階ではないです。ただ、今回は終わりではなくて、今回が始まりだと思って頂ければと思います。イベントで作る楽しさ・面白さを共感して頂いて、ストアアプリを作る動機に繋げていきたいと思っています。
■PCメーカーのプレゼンもいつもよりグッとユニーク!
8nightsでは、“ライトニングトーク”として、メーカーの製品プレゼンテーションも行なわれた。持ち時間は6分間。パーティー会場だけあって、メーカーのプレゼンテーションも普段の発表会とは違うユニークなものとなった。
中でもユニークだったのは、パナソニック『CF-AX2』を紹介した、パナソニック AVCネットワーク社の小原 好晋氏。物腰は柔らかでていねいだが、見た目は金髪アフロヘアーというギャップ! しかも、「製品持ってきて~」と言ってサッカーボールを持ってきた後輩社員に「これサッカーボールやないかい!」とノリツッコミするシーンもあり、会場を大いに沸かせていた。
富士通の『ARROWS Tab Wi-Fi QH55/J』紹介では、プレゼンターがつまづいてグラスの水を製品にかけるシーンも。実はこれは防水機能のアピールなのだが、突然だったため、会場がアッと息をのんだ。筆者もおどろいてシャッターチャンスを逃してしまったほど。
そんな楽しいライトニングトークでは、日本エイサー、ASUS JAPAN、NECパーソナルコンピューター、東芝、ソニー、日本ヒューレット・パッカード、レノボと、主要メーカーすべてのWindows8PCが紹介された。
会場外のカフェスペースでは、紹介された各社のPCのタッチアンドトライスペースが設けられ、製品の担当者と参加者のが活発な意見交換の場となっていた。
パーティ会場には、Windows8をイメージした“8”のオブジェも会場を彩っていた。8の字をかたどったケーキやフードも用意。会場の雰囲気を盛り上げた(ケーキはフルーツが豪華にのっており、味もすごくおいしかった!)。
最後に行われた抽選会では、日本エイサー、日本ヒューレット・パッカード、パナソニックがそれぞれプレゼンで紹介した製品をプレゼントとして1台ずつ提供。
抽選番号が呼ばれる度に会場は大きく盛り上がった。さらに参加者には、Windows8スタイルUIをイメージしたタオル地のマフラーなどノベルティもプレゼントされるという大盤振る舞い!
なお、Windows8ストアアプリを開発すると宣言した開発者には『8 Knights』の称号が贈られ、特典が用意されるとのこと。
今までの大きな会場で机を並べた講習会という形式から、さまざまな仕掛けでWindows8ストアアプリに開発者たちの目を向けさせようという、マイクロソフトの意気込みが肌で感じられるイベントだった。
このイベントは12月6日に大阪でも開催される予定。参加費は無料なので、気になる人は是非参加してみるべし!
【2012年12月6日修正】タイトル文字ほか8nightsのイベント名を修正いたしました。関係者ならびに読者の皆様にお詫び申し上げます。
■関連サイト
8nights アプリ クリエイターのための Windows 8 パーティ
8 Knights
Windows8 Clinic
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