日本テレビのデジタル革命児・安藤氏と、アスキー総研の遠藤所長が、スマートテレビをテーマに、テレビの可能性、そして将来のテレビデバイスについて熱く語る。ラストは、HTML5の話題から、テレビのビジネスモデルまで。ソーシャルをいちはやく番組に取り入れてきた安藤氏の次なる目標は?
安藤聖泰
日本テレビ放送網株式会社 編成局メディアデザインセンター所属。2010年より、IT情報番組『iCon』のプロデューサーを務める。さらに、ソーシャルを活用したテレビ視聴サービス『JoinTV』を立ち上げ、日本テレビにおけるデジタル戦略を担っている。
遠藤諭
アスキー総合研究所所長。デジタル・IT関連のコメンテーターとしてテレビや雑誌等でも活躍。ブログ『遠藤諭の東京カレー日記ii』を週アスPLUSで連載中。
■「スマートテレビの仕様はハードルが高すぎる」
安藤 僕らはハイブリッドキャストになる前に、既存のBMLベースで先行投資して、技術者を抱えて、ノウハウのある人も連れてきて、どんどん構築していくつもりでいる。ハイブリッドキャストもHTML5ベースのものが出たらすぐやりますよ。
でも、HTML5だったらビジネスが成功するのかと言ったら、そうじゃない。スマートテレビがいつ出ても、BMLとHTML5のテレビっていうのは20年くらいは存在し得る、国内に。だけど、サービスがHTML5に依存しすぎている。
遠藤 むしろクラウド側のほうが重要でしょ。
安藤 そう。クラウド側が重要で、HTML5は最後の操作感とか、表示の仕方とか、入力出力などの部分でしか。
遠藤 デザインというか。
安藤 そうです。そう考えると、僕らはもう、それがBMLだろうが、HTML5だろうが、手元のスマホだろうがタブレットだろうが、横断的にできるプラットサービスを確立させておいて、新しいものが出たら、1リッチな端末としてやればいいし。Windows8が出たら、Windows8でなにかをやればいい。それだけのことだと思ってて。デバイスの性能や機能を極端に上げすぎて、メーカーが出せなくなっちゃうなんて。
遠藤 というか、HTML5の仕様そのものが、まだすべてきちんと決まったわけでもないわけですよね。
安藤 そうですね、フルHTML5ブラウザーは世の中に存在しないし。だから、そういう意味でスマートテレビを見ると、ま、そのくらいで見といたほうがいいのかなっていう思いもある。
遠藤 意外に、全然こない可能性もある。
安藤 もうちょっとスリムな仕様にしておかないと、たぶんテレビメーカーがつくってくれないんじゃないですか。僕もメーカーの人と話してますけどね。
遠藤 僕は聞いたんですよ。でも、答えてくれないのですよ。
安藤 「日テレさん、ほんとやります?」って(笑)。やるかやらないかって言ったら、なんかやるでしょうけど、フル機能を使うかは……もっと違うところでがんばれますよね。
遠藤 しかも放送局以外の会社がそういうサーバーの事業者になったときに、メタデータをやっぱりどっかから買ってくるなり、自分でつくるなりするわけじゃないですか。経済的に成り立たせるものにならないといけない。
安藤 そう思いますよ。だから、テレビでやるの相当大変だと思いますよ。
遠藤 それだったら、ソーシャルがデリバリー手段にもなりマーケティング手段にもなるなら、そっちに重心をもっていったほうがいい。
■「家庭の一番いい場所に一番大きく置いてあるのがテレビ」
安藤 だから、テレビデバイスの進化は期待したいし、可能性とか手段が増えていくのは必須なんですが、パソコンが進化してもネットビジネスが成り立たないのと同じで、僕らがシフトしていかないと。「テレビの機能をどうしよう」という議論だけで終始してたら、多分ハイブリッドキャストのテレビが出ても、そのサービスを満足に使わないまま、“その10年後のハイブリッドキャスト2”の議論なんかを始めそう。
遠藤 スーパーハイビジョンはどうなんですか?
安藤 スーパーハイビジョンは売る気ないでしょ。だって、どこに必要なんですか。Retina壁掛けテレビとか、どうするんですか。
遠藤 2K4Kテレビなら、話はまだわかるけど、
安藤 スーパーハイビジョンは4K8Kですからね。展示会のインパクトはすごいですよ、外国の展示会行くと「ブラボー!」ですけど(笑)。でも、あの大きさでRetinaですからね。なにで放送するんだろう、電波を目指すのかな。
遠藤 そもそも電波なのかって気もしますけどね。
安藤 多分、電波なのか論は10年以内のレンジで話はどんどん出てくるでしょうね。それまでに権利問題とか諸問題は、徐々に解決……ではなく、ある種の麻痺ですね。麻痺していって、いけるようになってくるんでしょうね。
遠藤 家庭のリビングで、ま、個人の部屋でもいいんだけど、一番いいところに置いてある一番大きいディスプレーがテレビで、それにあったコンテンツを出すのがテレビ局だったけれど。だんだんあやふやになってくるんですが、一方で『YOUNG HOLLYWOOD』という、アメリカのウェブの動画サービスがあるんですよ。僕は今後けっこう可能性があるなって思ってる。今あるテレビ局がそれやればいいと思うんです。「テレビってなにか」って言ったときに、やっぱり、メジャーなものが出てるのがテレビなんですよ。で、YOUNG HOLLYWOODは名前でわかる通り、要するにハリウッドのことしか扱わないんですね。ハリウッドのホテルの一室を、年間契約してそのままスタジオセットのように使って、人を呼んできて話を聞いたりする内容なんです。
『YOUNG HOLLYWOOD』
動画サービスなんですけど、要するに、出てるものがメジャーだから、すごくテレビっぽくなるんですよ。だから「テレビとはなにか」って言ったときに、マスだからメジャーなものしか出ないっていう三段論法があると思うんだけど。YOUNG HOLLYWOODみたいなものをお金があるところが日本でも始めてみて、しかるべきタレントが毎回出てきたら……やっぱり見るんじゃないかな。
安藤 ニコニコにしてもネットアイドルとかも出てるけど、メジャーな人たちがだんだん出始めている。
遠藤 出始めているし、利用もされ始めています。
安藤 そうなんです。その流れは我々にとって悪い話でもあり、いい話でもある。メジャーなタレントを使うノウハウがあるのは今は我々だけど、ネットでどうやっていけばいいのかというのもあるし。できるようになれば僕らだっていくらだってやるので。
■「ライフスタイルが“見たい時に見る”に変わってきた」
安藤 日本テレビも“第2日本テレビ”という動画サービスを、業界としてはかなり早い時代にうちの土屋敏男が始めて、赤字をかかえながら「新しいことをやろう」って。
遠藤 テレビ局からデジタル専門のテレビ局が発生する可能性もあるし、重要なのは、タレントを使えるとか、なにが作れるかっていうのが、勝負になりますよ。だってやっぱり、ネットと動画の、ねえ、ネットとテレビの、時間枠制限とか、いろんなものがそこに絡んできて、どうデザインできるかってわけですよね。
安藤 変わってきたのはネットだけじゃなくて、見る人たちのライフスタイルが“見たい時に見る”文化に慣れてきた。見たい時に検索して見るという、今まで当たり前とは思わなかったことが「なんでできないの?」となってきたことに対しては、我々がビジネスモデルとしての答えをつくっていかなくてはならないし。急に進まないかもしれないですけど。
一方で、みんなで同じときに楽しもうっていう面白さが今できるのは、マスだし、テレビ。そういうコンテンツはなくならないじゃないですか。全部が全部そうなるとは思わないですよ。別にドラマとか生で見る必要もまったくない、いずれはそうなる。だけど、スポーツもの、例えばオリンピックなどはその時に見てて、誰かと共有するからおもしろい。
だから、今のビジネスモデルと合うのが、ソーシャルでリアルタイムでなにかやろうってこと。人と人とつながり、まずはその流れがファーストステップ。多分色々変わってきますよ、状況が。その中で次のことをやっていきたい。
アメリカは国内で時差があって、放送時間がずれているんですよ。番組見ながらツイートすると東海岸と西海岸ではぐちゃぐちゃになる、とか。そういうところのおもしろさってのもあるし。wiz tvは、実は、録画や過去番組のときのツイートをとっているんで、その時みんながなにやってるか見れるようにするとか、トライアルをやってはいるんですけど。番組を見ながらのおもしろさとかを盛り上げていけばいいし。遠藤さんもおっしゃっていましたけど、録画できるからテレビを見ている人もいる。ドラマで1、2回目の放送はリアルタイムで見たけれど、3、4回目は録画で見た。次は生で見るかもしれないし、それは自由だと思う。
僕らがVODサービスを止めた瞬間、続きを見てもらえなくなるかもしれない。だから、過去番組を買って見ていただく努力をしていかなきゃいけない。あるいは3、4回目の放送の販売促進と考えて、無料で提供するのか。
遠藤 電子書籍の世界だと、1冊目タダっていうのがはやってますけどね。
安藤 うちもオンデマンドのドラマとかは、だいたい1話目無料をやっています。
遠藤 だから、アマゾンの電子書籍ランキングで見ると、一時期は上位は無料が相当多かった。新刊が出るときに、前の本を無料で出すんですね。
安藤 やっぱり本も動画も、最初は立ち見したいですからね。でもこれは、違うビジネスモデルから新しいモデルに向かう時の、過渡期の模索のひとつなので。
遠藤 そうですね。定額制とか、いろんな話がありますからね。
■「期待を裏切るのが、テレビのひとつのおもしろさ」
遠藤 テレビの視聴時間が、テレビ黄金期からずっと伸びていて、80年代なかばでちょっとへこむんですよ。このへこんだ時って、子どもがゲームばかりやっていた時代なんですね。それまでテレビを見ていたら、テレビ番組やコマーシャルに車が出てくるじゃないですか。でもゲームの中だとファンタジーの世界ですよね。これじゃ車とか興味なくなるよねって言ってたら、その十何年後、ほんとに車離れとかそういう話になってきたじゃないですか。
だから、悪く言うと広告の強制的な洗脳効果、よく言うと経済活性化とか、夢をもつとか、そういったことを喚起する。そういう強いメディアがないと、人間も元気にならないし、国の経済も盛り上がっていかないんじゃないかと思うんですよね。
安藤 トレンディドラマ時代は「すごいおしゃれなマンションに住んでみたい」って。振り向くと、現実はテレビと違う世界。だけど、憧れちゃうみたいな、というのはありますからね。
遠藤 だからもっと言うと、バブル絶頂期には「キレイな女は里には歩いていない」みたいな。みんな金のあるところに行っちゃうからみたいなことが起きてたわけじゃないですか(笑)。だけど、ネット民主主義的なもので平坦になっていったら、こういう落差は生じにくくなる。やっぱりなんかこう強いものとそういうものと、せめぎ合っていかないと人類の進化もないんじゃないかなと。だから、「お呼びでない」と思われがちなテレビ広告の担ってきた価値は実はとても大きい。
安藤 この間、ドラマ『三毛猫ホームズの推理』の最終話で、モバイルやPCで、2つのシナリオのどちらを見たいかを放送中に投票で決めて、CMの間にスタッフがVTRを変えて、多かったほうを放送するっていうことをやったんですね。
日本テレビ『三毛猫ホームズの推理』
↑ドラマ最終回に合わせて行なわれたエピローグ投票。
すごくおもしろかったんですけど、すべてのドラマでこんなことをやったらおもしろくないですよね。だって、最後どうなるか投票してそっちになっちゃうより、なんか、視聴者の期待を裏切ることもテレビのおもしろさでもあるし、「え、そここういうどんでん返しなの?」みたいな。僕らのコンテンツって、裏切るところも必要なんです。
遠藤 傲慢さが必要なんだよね。
安藤 視聴者が本当になにを見たいかは、視聴者もわからないのでは。どちらかと聞かれたら答えるけど、でも本当はこっちじゃなかったのかもしれない。だから、そこを見せられるパワーがあるなら。期待を裏切って、でも良かったと思わせることができるなら……。
遠藤 そうじゃないとなにも起きなくなりますよね。
安藤 みんなの投票ばっかりで、それこそ民主主義ですべて決めていたら、なんだかよくわからない、つまらないテレビになるかもしれない。だからこそ、見たい物だけ見る、自分が見たいものを検索で探してみるという範囲以外のものをどう提供できるかが、テレビの編成であったり、テレビの番組であったり。
その中でおもしろいと思った番組や情報をソーシャルなどで広げてほしいし、おもしろくなかったら、別に見なくていい。……と言うと、テレビ局の横暴だと言われちゃうかもしれないけど、でもテレビはそういう中に晒されている、そういうものだと思う。ソーシャルな時代に、人々の選択はたくさんあるから、全部が全部同じ方向じゃおもしろくない。試行錯誤しながら、色んなトライアルを続けていきたいですね。
以上、4回にわたるロング対談をお届けしました。ネットが広がる一方で、テレビはどう変わってくのか。1ユーザーとしても気になるところ。これからも、安藤聖泰氏をはじめテレビに携わる人々のトライアルに注目していきたいと思います。
【第4回】ネット時代のテレビコンテンツとは?
【第3回】ハイブリッドキャストの抱える問題点
【第2回】これからのテレビ設計と、ソーシャルの力
【第1回】JoinTVの反響とテレビが抱える課題とは?
日本テレビでは、2012年10月19日(金)、26日(金)に放送される“金曜ロードSHOW! 20世紀少年 サーガ”でソーシャルテレビ視聴サービス『JoinTV』を利用した新コミュニケーション機能が楽しめます(第1回は10月12日(金)に放送済み)。JoinTVのサービス概要、登録方法については下記サイトをご参照ください。
「JoinTV」ホームページ(外部サイト)
2012年10月16日(火)に、安藤氏と遠藤氏が登場する“日テレJoinTVカンファレンス2012〜ソーシャルとテレビの明日を語る〜”が開催されます。このカンファレンスは関係者向けのクローズドなイベントのため、参加者がすでに定員に達していますが、下記アドレスでライブ配信が予定されているので、ぜひご覧ください。
日テレJoinTVカンファレンス2012〜ソーシャルとテレビの明日を語る〜(外部サイト)
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