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スマートテレビ大激論 (第1回)

JoinTVの反響とテレビが抱える課題とは?

2012年10月12日 15時00分更新

 多機能テレビとして注目を集めている“スマートテレビ”。近年のソーシャルネットワークの普及にともないテレビはどう変わっていくのか? 日本テレビで『JoinTV』を立ち上げた現役の“テレビ屋”安藤聖泰氏と、遠藤諭がテレビからFacebook、そしてHTML5までを本音で語り尽くす!

安藤聖泰

スマートテレビ大激論

日本テレビ放送網株式会社 編成局メディアデザインセンター所属。2010年より、IT情報番組『iCon』のプロデューサーを務める。さらに、ソーシャルを活用したテレビ視聴サービス『JoinTV』を立ち上げ、日本テレビにおけるデジタル戦略を担っている。

遠藤諭

スマートテレビ大激論

アスキー総合研究所所長。デジタル・IT関連のコメンテーターとしてテレビや雑誌等でも活躍。ブログ『遠藤諭の東京カレー日記ii』を週アスPLUSで連載中。

■「JoinTVの試みは、新しいと好評。その一方で……」

遠藤 僕はGoogleテレビ以降、テレビ系を追っているんですけど、よくよく考えると、JoinTVとかwiz tvとかのほうがよっぽどスマートテレビに近いんじゃないの? と思って安藤さんに話を聞きに来ました。

安藤 テレビで見るコンテンツは、本当にPCやタブレットで見るコンテンツと同じものかといったら、やっぱり違うんですよね。ディスプレーとの距離感もあるでしょうし。今は、テレビを家族で一緒に見ようというときに、いろんな見方があると思います。でも、テレビというものが唯一のエンタメだという視聴者もいまだにいます。新しいもの好きから、まったくついていけないっていう人までがいるなかで、分布があるとしたら、テレビはそのうしろの層にいまは分布しているんですよ。“ついていけない”という人たちは今後もテレビを見続けてくれるかもしれません。でも、“新しいもの好き”の人たちは「やばい」(笑)。そういう人たちにどうやっていけばいいのか考えています。

 テレビのコンテンツで、ゴールデンは家族団欒で見ようという発想はどうしてもあります。そこが崩れたときにテレビっていったいなんだろう? じゃあYouTubeでひとりで見ればいいじゃん、とも。やっぱり、同じときに同じものを見るという面白さを追求するサービスがテレビだと思うし。ソーシャルな『JoinTV』という仕組みを入れたのは、そういった友達団欒みたいな形も作っていきたかったからなんです。

 先日、“金曜ロードSHOW!”で映画『サマーウォーズ』を放送し、JoinTVを活用しました。すでに、あの映画のストーリーをわかっている人は多い。それでもみんな見るわけじゃないですか。そういう人たち向けにJoinTVならなにかできるかというものを提供しなきゃいけないと思って、色々とやってみました。同じように視聴しているFacebookの友達が一覧で出てきてポイント数を競うとか、いろんな施策を打ったら、「すごくこれおもしろいし、新しい」という評価をいただきました。

遠藤 JoinTV、なんと言っても、地デジであまり使われていなかったリモコンの“D”ボタンをちゃっかり使っちゃったのが痛快でしたよ。

安藤 本音として、ちょっと驚かしてやろうみたいなのはありましたね。

遠藤 まんまとそれにハマったんだけど。

安藤 “D”ボタンって天気予報とかが出るんでしょ? みたいなところに、なんで友達の顔が出るの!? って。

遠藤 そういうのって楽しいじゃないですか。

JoinTV

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↑日本テレビのソーシャルテレビ視聴サービス。Facebookと連動し、友達の視聴状況などがリアルタイムでわかる。

安藤 今回我々がすごく勉強になったのは、そういった高評価もある一方で、テレビで見る映画はもっとおとなしく見たいという声もやっぱりあったりするわけですよね。そういうニーズにもこたえていかなくては、と。

遠藤 え、おとなしくってどういう?

安藤 たとえば「クイズなんかやりたくない」などですね。つまり映画館に行っても、しゃべらないで映画に専念して見ていたいという方たちですね。それは映画というコンテンツだからかもしれないですが。

 テレビというデバイスは、そういった映画のようにじっくり静かに見るコンテンツから、たとえば見ず知らずの人とも一緒に盛り上がれる“リアルソーシャル”なサッカーなどまで、幅広いコンテンツを放送しています。テレビを中心に、どれだけ人と人をつなげていけるか、そういう仕掛けを考えてやっていますが、それぞれの見方に合わせたコンテンツを作っていかなきゃいけない。

遠藤 なるほど。

■「僕らが一番危惧すべきは、ユーザーがテレビの前にいないこと」

安藤 ……と考えると、スマートテレビになって、いろんなことはやりたいけれど、どんなコンテンツでフル機能を使えるか……と。

遠藤 テレビの価値を上げるスマートテレビには2種類あって、テレビの器を広げるものと、テレビの満足度を上げるもの。2方向あると思うんだけど、ネットとつなげば広がるだろうというパターンが多い。やっぱり、価値を上げるようにしないといけないと思います。

安藤 そうなんですね。だから、“やりたいこと”と“やれること”っていうのは、また違う。やれることをとにかく入れてる感がある気はするんですね。HTML5になってウェブの世界のあれもやりたいこれもやりたいと。それでいいのかと。

遠藤 でも、やってみないとわからないよね。だから、「とりあえず色々やっている」ような気がしたんですよね。要するに、テレビ局としては利益を上げるとかいろんな目標があるわけであって、なんか新しいことやらないとその先が見えないわけじゃないですか。

 宝が埋まっているかもしれないけど、途中までいかないと宝も出ない。で、そこで見えてくるのは、ひょっとしたらもうテレビとは全然違うコンテンツ商売になっていく可能性がある。ある意味、JoinTVそのものが、もう新しいコンテンツなんですよ。それはテレビというコンテンツのメタコンテンツなんだけど、単なるメタじゃなくて自体がすでにコンテンツみたいな。

安藤 ああ、そうですね。

遠藤 そういうものに価値がある。今年すごい驚いたのは、「日本には全部録画できるテレビがある」とか言って、アメリカ在住のインド人を驚かせようとしたんですよ。「全録のテレビで全部録っている、日本人って変態だよ」って言おうと思ったら、米国のレコーダー『TiVo』は4チューナーモデルがあって、TiVoの場合は少し複雑なんだけど原理的には全録できたりするわけですよね。

『TiVo』

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 もう、別に日本人だけが変態というわけじゃない。しかも居間に4チューナーのTiVOがあって、寝室でNetGEARなどのメディアプレーヤーで見ていると言うんですよ。話を戻すと、そういう新しいこととか、仕組みを広げていくことで初めて次が見えるというのはありますよね。変なスマートテレビより、全録とかがその代表的なパターンだと思うけど、テレビをもっと便利にするためにやることがいっぱいあると思うんです。テレビ局的には全部録画というのはちょっとあるかもしれないんだけど。

安藤 すぐには……なかなかシフトは難しいですね。

遠藤 なんだけど、そのほうが客の満足が上がるんですよ。だから、録画できるからまだテレビを見ているって人もいるわけですよね。テレビが録画できなかったら、もう見てないという人たちがいると思います。

安藤 テレビ画面の取り合い論ってよくありますね、昔から。テレビでなにかできるようになったら、テレビで番組以外のコンテンツを見られちゃってまずいんじゃないか、とか色々話が出てきました。

遠藤 レンタルビデオとかもそうですね。

安藤 テレビ局がテレビでVODを提供することが本当にいいのかとか、さんざんそういう議論があったんですけれど、よくよく考えたら、僕らが一番危惧すべきは、テレビの前にいないことのほうが問題で、テレビの前にいてくれれば、テレビというデバイスでいま一番トップのコンテンツを出せるのがテレビ局だと思うので。だとしたら、テレビの前にいてもらうということに対して、小さいパイの取り合いじゃなくて、僕らはそのパイを広げることにエネルギーを割くべきかと。

 たとえば、グーグルは競合もいるのに無料でいろんなことをやっている。インターネットの利用者を増やせば、必然的にライバルも儲かるけど、結局トップのグーグルが儲かる。テレビ局がテレビのなかで王者なんだから、もっとそこは堂々と推進していかないと。

遠藤 ちょっと考えると、やれることがすごくある。たとえば、番組宣伝が流れているときにワンボタンでその番組の録画ができないとおかしいでしょ。番宣で「来週放送します」と言ったときに、デジタルなんだからできないとおかしいわけなんじゃない。

 やっぱり、“いいね!”ボタンみたいにワンボタンだけで、来週のその時間を録ってほしい。それこそ広告を早送りするんだったら、上に早送り画面が出て、下半分に広告出していればいいんですよ。やれることがいっぱいデジタルだとあるのに踏み出してない。なんかそれって、すごくつまらない。

安藤 確かに、おっしゃることはごもっともで、そのとおりですよね。でも、この先テレビ局がそこを肯定できる状況にはとてもならないと思うんです。

遠藤 そうなんだ。そんなに遠いの?

安藤 いや、それはテレビ局だけの話じゃないからですよね。今のビジネスモデルに対してお金を出してくれる方々が、録画であってもオーケーという方向にシフトしていかないことには……。でも価値はあると思っているんです。極端なことを言うと、YouTubeとかテレビの違法アップロードのものを見ている人がいたり、録画視聴で見ているということは、結果的にはテレビ番組をなんらかの形で見ているわけです。その見ているものもスポンサーが提供についているし、CMももしかしたら見ているかもしれない。そしたら、僕らは逆に機会損失しているんですよ。見られたぶんだけ。

遠藤 見られているのに。

安藤 また繰り返すと、もっとも危惧することは、YouTubeでもなんでもテレビ番組を見られなくなってしまったらもう終わりだと思う。

遠藤 そうですね、テレビ番組に存在価値があるということが大切ですね。

安藤 でも全然そうじゃない。みんなが見たいというところには、人は来るっていうことなんで。工夫していかなきゃと思っています。

スマートテレビ大激論

遠藤 今だったら『wiz tv』で番組に出てきた商品情報とかね。そういう話になっているんですね。ある種PP(プロダクトプレースメント)の受け皿みたいな、そういうことをやられようとしています?

安藤 いや、“やろうとしている”雰囲気がかもし出ているかもしれないですね。

遠藤 なにしろ、放送と通信の融合っていうけれど、この壁はけっこうすごい。放送は公共性とかいろんな制約とか業界の慣習とかあるけれど、ネットにはほぼない。放送がこの壁を乗り越えることってのは大変だけど、でももうやらない手はないと思う。ほんと、普通に商売として考えたら。

安藤 そのとおりなんですよね。

遠藤 ネット業界から考えたら、なんでそんなこう……踏み出さないんだろうと。

安藤 だから、さっきの話になるんですけど、それがテレビデバイスでの話をしているか、PCとかタブレット、スマホっていう場で見ている話なのかで、やっぱり若干違ってくる気はしていて。

遠藤 でもね、たとえば楽天がテレビを出す可能性だってあるわけじゃないですか。だって、1000円で1インチというお値段で液晶テレビができるんですよ。ほかにも、Huluとかが“専用タブレット”を出してもおかしくない。『Kindle Fire』みたいに。ホリエモンとか孫さんだとかは「ネットとテレビつないだらこんなになんでもできるのに、なんでやらないんだよ」みたいな歯がゆさとがあったんじゃないかと。

安藤 わかる、わかります。

遠藤 なんだけど、やっぱり、さっきもおっしゃったように、ステークホルダー(利害関係者)が多いからテレビは。話はそう簡単じゃない。

安藤 けれどやっぱり踏み出しているはずなんですよ。ネットの世界のように身軽ではないけれども、これが、10年前の常識で考えたらありえないことが起きている。すでに見逃し配信などをやってるし、それがウェブだけだったのが、テレビというデバイスでも始まっている。

 かつては、そんな権利はありえないと言っていたものでも、進んでいるんですよね。ただ、ステークホルダーが多いので急に進まないだけで。そんななかで僕らはネットというものを見たときに、まず一番行きやすいところからどんどん行ってます。Facebookとか、ソーシャルっていうのは、テレビを見てもらうための道具にもできるし、テレビから次のコンテンツとかネットサービスに誘導する手法としても使える。我々の持っているコンテンツが面白ければみんなは広げてくれるし、つまんなければだめ。で、我々も評価が晒されるなかでコンテンツをつくっていける。

遠藤 でもやりがいもあるんだよね、実は。ネットの記事でいくつツイートされたとか、“いいね!”されたとか。わずかな情報でもつくっている側は反応があるのはうれしい。

安藤 だからツイッターが普及し始めたぐらいから、急にテレビ局のネットに対する考え方が変わったと思いますね。最初に変わったのが、たぶんあのホリエモン騒動の頃だと思いますけど、ただ、あのときはテレビ局がみんながネットに踏み出そうとしたのに、「あ、なかなか進めないんじゃない」みたいなのを感じたんです。

遠藤 え、なんで?

安藤 テレビ局自体もついてきてないし。それを取り巻く業界が動けない状況だった。でも、周辺が変わってくるなかで、状況も変わってきた。全員の意識が少しずつ変わってきているし、将来の像が少しは見えているんですよね。

遠藤 まあ、時間はかかるのはありますよね。

安藤 テレビ局はネットワーク局もある。一方インターネットは垣根がない。NHKは全国できるけれど、民放は都道府県の地域単位で分かれているサービスなので。さらに、これから地上波、BS、CS、それからネットという領域を、戦略的にどう使い分けていくか。それぞれ視聴者層も違うし。

遠藤 アメリカだとメディアコングロマリットがね、タイム・ワーナーだとか、ニューズ・コーポレーションとか、バイアコムとか、5つあってね。テレビにしろ映画にしろネットメディアにしろ、ほとんどの人は、そのコングロマリットの範囲内のコンテンツしか見てないというデータがあるわけです。要するに、日本と構造が全然違うわけですよね。ま、法律も違うし、テレビ番組のつくられ方も違う。なんだけど、これからいろいろ考えていくと、映画の製作委員会じゃないけども、そういうコンテンツジャンルをまたがってひとつのコンテンツでどうビジネスを組み立てるか。そういったことがすごく重要になってきているわけですよね。その中にいままでと違うのはソーシャルメディアもある。テレビっていう枠もさることながら、コンテンツ業界全体とか、そういう見方になってくるんじゃないかと思います。

安藤 そうですね。そういうことだと思います。

 まだまだ続く、スマートテレビ対談。次回第2回目は、テレビの未来から、ソーシャルネットワークの活用方法へと続いていきます。ぜひ、チェックしてみてください!

【第4回】ネット時代のテレビコンテンツとは?
【第3回】ハイブリッドキャストの抱える問題点
【第2回】これからのテレビ設計と、ソーシャルの力
【第1回】JoinTVの反響とテレビが抱える課題とは?

日本テレビでは、本日2012年10月12日(金)を含む、19日(金)、26日(金)の3日間に放送される“金曜ロードSHOW! 20世紀少年 サーガ”でソーシャルテレビ視聴サービス『JoinTV』を利用した新コミュニケーション機能が楽しめます。JoinTVのサービス概要、登録方法については下記サイトをご参照ください。
「JoinTV」ホームページ(外部サイト)

2012年10月16日(火)に、安藤氏と遠藤氏が登場する“日テレJoinTVカンファレンス2012〜ソーシャルとテレビの明日を語る〜”が開催されます。このカンファレンスは関係者向けのクローズドなイベントのため、参加者がすでに定員に達していますが、下記アドレスでライブ配信が予定されているので、ぜひご覧ください。
日テレJoinTVカンファレンス2012〜ソーシャルとテレビの明日を語る〜(外部サイト)

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