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東京カレー日記ii by 遠藤諭

カレーとITがある! 南インドは最高だ(前編)

2012年05月30日 13時30分更新

カレーとITがある! 南インドは最高だ(前編)

ベンガル湾に臨むマリナビーチ。日が落ちると市民の憩いの場になるそうだ。

今年1月に、インフォバーン代表取締役で、『サイゾー』、『ギズモード・ジャパン』などの立ち上げで知られる小林弘人氏とご飯を食べることがあったのがキッカケだった。出版人、メディア業界の人のはずのコバヘン氏の口から意外な言葉がとび出して、一瞬、のけぞってしまった。

「個人的に、インドでサービスアパートを経営しているんですよ」

昨年11月、上海から3時間ほどの問屋都市「義烏」(イーウー)で、たくさんのインド人を目撃していた私は、「インド」+「経営」というところで、ピロロ~ンと頭の中のベルが鳴った。やっぱ、商売はエマージング市場の勢いに乗るのがいいです。

とはいえ、ビジネスといえば元手のいる話。「さすが金持ち、代表取締役ですねー」と言うと、ビルの1フロアを借りて管理人さえ置けばいいので、たぶん私にもできるらしい(物価が違う!)。日本人のビジネスマンもインドに行くことは増えたが、安心して泊まれる綺麗なところというと高級ホテルしかない。需要と供給という基本に応えたビジネス。アタマいい! ちなみに、サービス・アパートをやっているのは、南インドの「チェンナイ」や「バンガロール」だそうだ。

それから、4月中旬、こちらは小市民的にゴールデンウィークの計画を立てているときに、「ひょっとしたらGWインドにいませんか?」と投げたら、「いますよ!」と返事が来た。「じゃ、行くんで現地でごはんとか食べませんか?」という話をして、その場でインド(チェンナイ)行きが決定した。「料理はクチコミしかあてにならない」主義なので、現地で商売をしている人に案内してもらえるのはうれしい。

実は、毎日のようにカレーを食べている私だが、インドに行くのは初めてだった。いままで「インド旅行」というと「北インド」の話が多かった。ところが、私が好きなのはインド料理の中でも「南インド」の料理なのだ。東京にあるインド料理店の9割以上は北インド系なのだが、はっきりいって北と南では、まるで違う料理だといってもよい。要するに、「南インドなら旅行してみたいな」とボンヤリとは思っていたが、なんとなくそういう機会がなかったのだ。

さて、「南インド」ですぐに連想したのが、30年ほど贔屓にさせていただいている麹町のインド料理店「アジャンタ」である。同店を経営するムールティ家の出身は、南インドのアンドラ・ブラデーシュ州だというのを思い出したのだ。そこで、アジャンタ店主のジェイ氏に、「南インドに出かけるのですが、アドバイスしてください」とメールをしてみる。すると、「ご遠慮なく何なりとお尋ねください」とすぐに返事が来たのだが、そこには、

「南部の5月は真夏、摂氏40度以上になります」

とも書き添えられていたのだった。摂氏40度以上! たしかに、旅行情報サイトを見ると5月がいちばん暑いとある。しかし、私は、暑いのは割と平気なのだ。毎年、夏の盛りに香港の「電玩動漫節」に出かけている(南インドのほうが2ランク上の気温らしいのではあるが)。しかも、ベンガル湾から吹く風で気温の割りには過ごしやすいという情報もある(マカオな感じ?)。

ムールティ家については、同店の公式ホームページにその歴史が書かれている。

「創業者ジャヤ・ムールティの兄ラーマ・ムールティは、1932年(昭和7年)に、ネパール国王の秘書として世界宗教会議に参加するために来日、日本に一目惚れし、そのまま日本に残りました。貿易会社を経営しながら、マハトマ・ガンディー指導の反英非協力運動に身を投じた、インド独立運動家ネタジ・スバス・チャン ドラ・ボースを支援する日本代表として活躍しました。ラーマは日本人女性と結婚し、弟のジャヤ・ムールティをインドから呼び寄せました。ジャヤは来日し、1947年(昭和22年)ラーマ夫人の妹酒井淳子と結婚しました。」

日本とインドの歴史に深く関係しているわけなのだが、いまの主人ジェイ・ムールティ氏は2代目ということになりますね。早々、アジャンタを訪問して聞くと、現在のムールティ家はチェンナイにあり、毎年訪ねていてよく知っているとのこと。また、お父さんのジャヤ氏は戦前にバンガロールの大学で電気工学を学んだなど、より詳しいお話をうかがった。そして、具体的に「ここに行くといいんじゃないかな?」というアドバイスをもらったのだった。

1.Marina Beach(マリナビーチ、最大1キロもある砂浜)
2.Parrys Corner(バザール)
3.Saree shops(サリーのお店=インドの人は着道楽)
4.Shopping Centres(ショッピングセンター=新しいのが出来ている)
5.Computer and electrical appliances outlets(これは私の趣味を配慮して)
6.Higginbotham(英国統治時代の1844年からある書店の本店)
7.Connemara(1854年に作られた古いホテル)
8.Woodlands(ホテル)
9.Dakshin(南インド料理のレストラン)
10.Mahabalipuram, drive through the IT road(石窟寺院=IT企業がずらりと並んでいる通りがあるらしい)
11.auto rickshaw ride(オートリクシャーに乗る)

テンコ盛りなメニューなのだが、現地では「友人のサニーくんが出動してフルサポートするから」と言われたのだった。ということで、そのアジャンタ社長の友人のサニーさんのTATAのSUVで本当にチェンナイ中を案内していただいた(本当にお世話になりました=いくら30年以上推定通算3000食以上はアジャンタで食べている私でも「ここまでやってもらっていいのか?」という歓待ぶり)。

カレーとITがある! 南インドは最高だ(前編)

ITや貿易が仕事だというサニーさんはこんな感じの人です。TATAのクルマはいわゆるSUV。彼の友達も私の旅に半分くらいつき合ってくれた。

チェンナイで最高だったのは、やはり南インド料理の数々である。小林弘人氏と彼のビジネスのパートナー(インド人)との会食で連れてってもらった「Amma Restaurant」は旨かった。テーブルの上いっぱいにバナナの葉が広げられて、ほとんどランチョンマットな感じになる。その上にカレーをぶちまけてパラパラのインディカ米と一緒に手で混ぜて食べる。日本では貴重な「カレーの葉」がふんだんに使われていて、チェンナイなので魚介類も絶品でありました。

サニーさんには、街の大衆食堂から会員制リゾートの本格高級店まで、南インド料理を堪能させてもらった。初日、宿泊したThe Raintree Hotel Mary's Roadでディナーとなったのだが、チェンナイの州知事さんもやって来た。ググってみるとたしかに知事。いま日本で公開中の映画『ロボット』の中で、「チェンナイの州知事を刺したことがある」と蚊が喋るシーンがあるんだけど、彼を刺したのか? 知事さん、主演の「ラジニカーントはよく知っている」とも言ってました。

カレーとITがある! 南インドは最高だ(前編)

チェンナイで食べた南インド料理。伝統的なスタイルのお店ではバナナの葉の上で手で混ぜて食べるのですね。食器もお店も綺麗で衛生的でした。

カレーとITがある! 南インドは最高だ(前編)

インド的風景。オートリクシャーの向こうに見えるのは、カーパーレーシュワラ寺院と門前の商店街。

チェンナイは、とにかく街の雰囲気がとてもよかった。これは猿楽町のカレー店「パンチマハル」の主人が教えてくれたのだが、北インドに比べて1テンポゆっくりしていて、町もギスギスした雰囲気がない。さすがに観光地ではモノ売りはやってくるし、生活は日本などに比べれば豊かとはいえないと思うのだが、なんとなく余裕なのだ。それでいて、3輪タクシーのオートリクシャーがチョコマカと走りまくる元気さがある。

チェンナイで使われているタミル語が日本語の起源だという説があるのをご存知だろうか? 語順が同じことや同じ単語があるなどが指摘されているが、「日本語でまくしたてると通じてしまうことがある」そうだ(アジャンタ主人談)。実は、音楽も、なんとなく日本っぽい感じのメロディに、後打ちの「ズッチャ」ではなくて「ドドンがドン」って感じなのだ。

個人的には、マドラスと呼ばれた東インド会社設立の地だけあって、昔の英国風の建物が多く残っているのもよかった。というような具合で、とても紹介しきれる感じではないのだが、いちばんインパクトがあったのは、「クリシュナ・バターボール」だ。チェンナイ市内から車で1時間、石窟寺院のあるマハーバリプラムにある巨大な石コロ。これの真下に入ると自分が小さくなったような、時間さえストップモーションしてしまったような気分になってくる。

カレーとITがある! 南インドは最高だ(前編)

インドの神様クリシュナが好きだったバターボールにちなんで名づけられた直径10メーターはあろうかという巨大石「クリシュナ・バターボール」。インドの神様のお話は面白いので調べてみてくださいね。

これが何万年間もこの状態で留まっていたなんて、なんとなく「巨大な1ビット」と個人的に名付けてしまった。ちなみに、この巨大な石コロが坂をゴロゴロと転がることがあるとすると道路を越えて土産物の屋台をなぎ倒すかもしれない。そうして、止まりそうな広場のような空き地があるのだが、そこは、アジャンタを経営するムールティさんの所有なのだそうだ。囲いになっていて、たしかに表記がありました。

さて、こんな調子の私のチェンナイだったのだが、私のインドの旅は「バンガロール」へと続くのだった(以下次回)。

p.s.
冒頭の写真はベンガル湾に面したマリナビーチ。
昼のマリナビーチは諸星大二郎の世界」をご覧あれ。

【筆者近況】
遠藤諭(えんどう さとし)
アスキー総合研究所所長。同研究所の「メディア&コンテンツサーベイ」の2012年版の販売を開始。その調査結果をもとに書いた「戦後最大のメディアの椅子取りゲームが始まっている」が業界で話題になっている。2012年4月よりTOKYO MXの「チェックタイム」(朝7:00~8:00)で「東京ITニュース」のコメンテータをつとめている。
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