5月29日、ソフトバンクが夏商戦向け新商品発表会を開催。これで4キャリア(ドコモ、au、ソフトバンク、ウィルコム)の新製品が出そろったことになる。
振り返ってまず感じるのが、Androidしかないドコモと、iPhoneを扱うソフトバンクとauの2社の温度差が激しいという点だ。
端末ラインナップで勝負してきたのがドコモ。5月3日にグローバルで発表されたばかりのサムスン『GALAXY S III』は、おサイフケータイとワンセグに対応。ソニーモバイル『Xperia GX/SX』はついにLTEに対応してきた。
サムスン電子ジャパンは、今年2月のバルセロナで「今年は日本においては現地化を強化する」と、同社の端末事業本部を統括する石井圭介氏が明言していたのだが、わずか3ヵ月で日本特有機能であるおサイフケータイを載せてきた。
また、ソニーのLTEは、昨年、ソニー・エリクソンのCEOであったバート・ノルドベリ氏にインタビューした際には「2012年第4四半期の投入を目指している」と明言していただけに、まさか夏商戦まで前倒してくるとは思わなかった。
LGエレクトロニクスも、おサイフケータイ、ワンセグ、赤外線に加え、NOTTVまで対応してくるという気合いの入れよう。iPhoneを取り扱わないドコモに対し、Androidメーカーも最大限バックアップしようという心意気が伝わってくる。また、ドコモとグローバルな端末メーカーが一体となってiPhone陣営を打ち崩そうというスタンスが読み取れる。
一方、auとソフトバンクは、iPhoneの次期モデルの噂がチラホラしており、どちらかといえば“中継ぎ”な感のある夏商戦ラインナップとなっていた。auは、秋からLTEを始めることもあって、今回は“早めの夏休み”といった印象さえある。
KDDI田中孝司社長が「秋冬はドカンといく」とコメントしており、ぜひともLTEに対応した秋冬商戦モデルは期待したいところだ。
PANTONE5が放射線測定センサーを内蔵 |
ソフトバンクにおいても、夏商戦発表会で目立っていたのが『PANTONE5』の“放射線測定センサー内蔵”と、ウィルコムのスマートフォン版ドッチーモこと『DIGNO DUAL』ぐらいなもの。
発表会は、端末よりもCMタレント(上戸彩、スギちゃん、千原ジュニア)のほうが印象が強かったほどだ。ただ、ソフトバンクや端末メーカーの担当者に話を聞くと、Androidスマートフォンには「いかにiPhoneにないものを載せるか」と苦悩している様子がうかがえた。
PANTONE5のCMキャラに起用された上戸彩 |
発表された機種数で見ると、スマートフォンにおいてはKDDIが5機種、ソフトバンクが4機種(うち1機種は102SHのプラチナバンド対応版)、ウィルコムが1機種とやや寂しい印象だ。
そんななか、頑張りを見せていたのがシャープだ。au向けには3機種、ソフトバンク向けにも3機種を投入。特にPANTONE5では、自社開発の放射線測定センサーを内蔵。さらにウィルコム向けにはシャープとしては数年ぶりとなるPHS端末を開発し、PANTONEとして投入してくる。すでにシャープ社内ではPHS開発部隊は解散していたのだが、今回の新製品開発にあわせて、新たに開発チームを結成したのだという。
シャープはソフトバンク向けに3機種投入 |
本体のデザインやコネクター部分はソフトバンク向けのPANTONEをまんま流用したもの(そのため、充電コネクターはマイクロUSBなどではなく、3G用のコネクターなのだ)だが、ソフトウェアは新たに開発。シャープとしては、ウィルコム向け製品は今回限りにする気はなく、今後も継続して開発していく気があるようだ。
かつてのケータイのころにトップを走っていたのに比べると、ここ最近のシャープには勢いが感じられない気もしたが、今回のau向け、ソフトバンク&ウィルコム向けのラインナップを見るかぎり、ほかの日本メーカーよりも、開発力はやはり高いと言えそうだ。
■キャリアはダムパイプ化を突き進むのか?
今回の発表会では、各社ともスマートフォン向けサービスの拡充をアピールしていたのが印象的だった。ドコモは“しゃべってコンシェル”や“メール翻訳コンシェル”、auは“ビデオパス”、ソフトバンクは“スマホムービーLIFE”といった具合だ。
「圧倒的な数の多さで他社をリードする」 |
動画配信に関しては、KDDI高橋誠新規事業統括本部長が「本数の問題ではない。新作が視聴できることが重要」と語れば、孫正義社長は「圧倒的な数の多さで他社をリードする」と息巻くなど、各社のスタンスの違いが出ていて面白い。ユーザーからすれば「観たいコンテンツが揃っているか」が重要なので、ぜひ機会があれば比較してみたいと思う。
各社がスマートフォン向けコンテンツサービスを強化する背景には、やはり“土管化を避けたい”という狙いがある。アップルやグーグルなどの会社に端末とサービスを牛耳られてしまっては、キャリアは単にネットワークを提供するだけの存在になってしまう。ネットワークだけが存在価値となってしまっては、いずれ価格競争に巻き込まれる可能性もある。
「ドコモクラウドで土管化を避けたい」 |
今回のその考えを明確に示したのがドコモだった。山田隆持社長は「ドコモクラウドで土管化を避けたい。ネットワークにインテリジェンスをつけるには、Androidプラットフォームでなくては実現できない」と宣言。自社サービスが導入できないiPhoneの導入は消極的であるというスタンスを改めて強調した。
だが、なにもAndroidでなければキャリアのサービスが提供できないというわけではないはずだ。auはiPhone向けに“LISMO Unlimited”を提供済み。ソフトバンクの“スマホムービーLIFE”はAndroidだけでなく、iPhoneやiPadでも利用できる。すでにiOS向けに“ビューン”などの電子書籍サービスも提供中だ。
au、ソフトバンクともにAndroidとiPhone向けに自社サービスを提供。バランスよく、ユーザーにサービスを提供できている。
「土管化も携帯電話会社のひとつの道」 |
KDDI田中孝司社長は「土管化も携帯電話会社のひとつの道」として、ダムパイプ化を受け入れつつ、iPhoneやAndroidなどあらゆるデバイスに向けてサービスを提供しようとしている。“auスマートパス”として、スマートフォンだけでなくタブレット、さらにテレビに向けて、同じアプリやサービスを使い放題で提供する環境を整備しつつある。
まさにauとソフトバンクは、アップルという強大な存在がいることから、外部の力を借り、端末をバランスよく調達しつつ、自社サービスをうまいこと載せていこうという戦略に立っている。iPhoneをたんに契約者数稼ぎに利用するだけでなく、iPhone上できっちりとコンテンツサービスで稼ごうとしている。
一方でドコモは、やはり端末調達もサービスも、すべて自社の力技でなんとかしていこうと歯を食いしばっている感がある。iモード時代に成功した垂直統合型のビジネスモデルを、スマートフォン時代でも引きずろうとしている感がある。
“iPhoneがあるか、ないか”で、端末や自社コンテンツの提供の仕方に明確なスタンスが分かれた夏商戦発表会だったようだ。
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