2010年、スペースシャトル ディスカバリー号に搭乗し、国際宇宙ステーションの組み立てミッション(STS-131)に向かった2人目の日本人女性宇宙飛行士、山崎直子さん。その夫であり、元国際宇宙ステーション運用管制官の山崎大地さんが、当時小学校2年生だった長女の優希ちゃん、家族3人の生活をつづった書籍『宇宙家族ヤマザキ』(祥伝社刊)が、この夏、舞台になる。
↑左から山崎直子さん、長女・優希ちゃん、山崎大地さん。“宇宙”を外して語ることのできない、3人の家族写真だ。 |
舞台タイトルは『『宇宙家族ヤマザキ』~2022年、娘から届いた宇宙からのラブレター~』。
この舞台化を実現したのは、まさに宇宙をテーマに活動を続ける演劇ユニット“宇宙食堂”だ。このいっぷう変わった劇団、宇宙食堂の代表をつとめる新井さんと山崎大地さんの出会いは、宇宙旅行に関心をもつ人々の交流会“宇宙旅行者フォーラム”の席上。
その後、舞台を観劇した山崎さんは「普通の人はおそらく難しく固いイメージで、かけ離れた世界だと思われている宇宙の世界を、わかりやすく奥の深いストーリーで楽しめるようにしてくれた。先を越された! と思いました」と語る。
↑『宇宙家族ヤマザキ』の原作者、山崎大地さんと長女・優希ちゃん。時計とiPhoneにまつわる家族の絆がストーリーにも登場する……!? ちなみに大地さんは熱烈なiPhoneユーザーで、5台所持している。大地さんの最も好きな宇宙の物語は『アポロ13』。優希ちゃんは最近観た映画『宇宙兄弟』のラストシーンがおもしろかったとのこと。 |
“宇宙で芸術”というのは、有人宇宙活動と社会とのかかわりを考え続けるJAXAの強い理想でもあり、国際宇宙ステーションの活動でも、水の球に墨絵を流し込み美しい模様を描く“宇宙墨流し”などの活動が行なわれるなど、宇宙関係者から芸術にラブコールを送るケースは最近増えている。そんな中、『宇宙エレベーターガール』や『無重力金魚』といった“宇宙活動が身近になった世界”を、演劇というカタチで発表し続けてきた劇団・宇宙食堂の活動が注目された。今回の公演では、8月にJAXA名誉教授、的川泰宣教授の舞台挨拶も予定している。
宇宙をテーマにしているとはいえ、なにもSF的なガジェットを見せるのが主眼ではない。宇宙食堂が演じるストーリーは、人間ドラマが常に主軸にある。2011年に公演した『無重力金魚』は東京の下町、繊維の街・日暮里の人々が宇宙服開発に乗り出し、やがて宇宙エレベーターのキー技術であるテザー開発に結び付くといった物語だ。宇宙食堂代表の新井さんは「モノやセットでは、どうしても映画にはかなわない。ストーリーの向こうに“宇宙が当たり前になった世界”がイメージできる、それが舞台の力です」と話す。
↑宇宙食堂代表、脚本・演出・映像の新井総さん。宇宙食堂では“メニュー”と呼ばれる演目で、ドラマの向こうに宇宙の味わいを感じさせてくれる。 |
原作者の山崎さんは、「思い切りアレンジして、壊してください」とお願いしたとのことで、ストーリーは60パーセント近いアレンジが加えられ、舞台のための壮大なストーリーに仕上がった。
物語は、山崎直子さんのフライト時である2010年、その当時小学生だった長女・優希ちゃんが成長し大学生になった2022年の2つの時間軸が交錯しながら進んでいく。母、山崎直子さん、父、山崎大地さんと交わしたある約束を果たすため、女子大生宇宙飛行士(多分、女子大生宇宙飛行士は2022年時点でも初。日本初のママさん宇宙飛行士となった直子さんの立派な後継者)として地元・鎌倉から旅立つことになった。彼女の手には、父の古いiPhone。家族が崩壊しかけた、あの12年前の風景が甦る――。
↑藤本彩花さん(左:オスカープロモーション)と阪田瑞穂さん(右:オスカープロモーション)で時間軸異なる優希ちゃんを演じる。阪田さんの最も印象的だった宇宙に関するエピソードは鳥取砂丘に寝転がって流星群を見上げたこと。藤本さんの好きな宇宙は、なんとばら星雲。 |
↑山崎夫婦を演じる伊丹孝利さん(左)、ささきくみこさん(右)。宇宙食堂の歴代舞台でも大活躍の二人。現役宇宙エレベーターガール役だったささきさんは、実は山崎直子さんにもよく似ていると評判。映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』が大好きなんだそう。 |
山崎直子さんが実際に宇宙で使った山崎家の大切なアイテム(実物)が舞台に登場したり、原作でも紆余曲折あった山崎夫婦の絆が描かれているなど、原作ファンにもグッとくるポイントがちりばめられているので、その辺も楽しみのひとつ。
見逃せないのは、ポスターに登場するフライトスーツ(宇宙服)。これは山崎直子さん、大地さん監修のこだわりのデザインだとか。「(2020年には)宇宙服も進化しているはずです。現在の断熱材や冷却装置などで分厚い、総重量数十キロに及ぶ動きづらい大きなフライトスーツから進化し、スキンタイトで、より動きやすいタイプになっているはず。そのほうが自然です」(山崎大地さん)。
↑ポスター背景は、2022年ストーリーの舞台のひとつとなる、鎌倉の鶴岡八幡宮。「どうせならちょっとエロくしてください(笑)」という山崎大地さんのデザイン上の希望も盛り込まれ、宇宙エンジニアの知識に裏打ちされたリアルなフライトスーツが登場する予定(鋭意制作中)だ。 |
↑前列左から、20歳の山崎優希ちゃんを演じる阪田瑞穂さん(オスカープロモーション)、7歳の優希ちゃんを演じる藤本彩花さん(オスカープロモーション)、現在小学校4年生の山崎優希ちゃん、山崎大地さん。後列左から、宇宙食堂代表、新井総さん、山崎大地さん役の伊丹孝利さん、山崎直子さん役のささきくみこさん。 |
舞台は6月29日~7月1日まで、吉祥寺シアターにて公開。チケットは5月20日(日)午前10時からローソンにて前売り券発売開始。6月29日、7月1日には、山崎大地さんのスペシャルトークショーも開催されるため、ぜひ足を運んでみてほしい。
吉祥寺公演終了後の7月からは、山崎家に所縁のある場所で、プラネタリウム公演イベント『猛烈真夏の大銀河航海ツアー』がスタート。
更に7月20日、湘南台文化センターこども館 宇宙劇場では、山崎大地さんのトークショー付き公演、8月11日~15日は、はまぎん こども宇宙科学館 宇宙劇場にて公演。初日には今年から同科学館の館長に就任したJAXA名誉教授、的川泰宣教授の舞台挨拶があるというから、こちらも期待だ。
【5月21日記事タイトルについての捕捉:
地上側で電話やメールを受け取った端末がiPhoneであり、直子さんがiPhoneを使って電話したわけではありません。また、山崎直子さんはPrivate Preference Kit(持ち込みを許可されたプライベートアイテム)のひとつとしてiPhoneを宇宙へ持っていきましたが、スペースシャトルのLower Deck(格納庫のようなもの)にしまわれたまま取り出しは不可能であり、あくまで宇宙に行ってきたということだけとなります。】
『宇宙家族ヤマザキ』
~2022年、娘から届いた宇宙からのラブレター~
●ストーリー
2022年8月、鎌倉。
鶴岡八幡宮の階段を駆け降り、自宅へ向かう少女の姿があった。
山崎優希(20)。
12年前に宇宙へ行った山崎直子宇宙飛行士の長女である。
夏休みに彼女は「宇宙船から見たプラネタリウム」を作ると決めていた。
そう、この夏、優希は宇宙へと旅立つのだ。
彼女の手には、父の古いiPhone。
それを見つめる彼女に、12年前の風景が甦る。
まだ宇宙へ行くのが大変で、家族が崩壊しかけたあの時代が…。
●原作:山崎大地
●脚本・演出:新井総
●CAST:伊丹孝利 ささきくみこ ランディ井上 工藤理穂 松崎洋平 中村倫子 萩原恵 さくらまき、阪田瑞穂(オスカープロモーション)、藤本彩花(オスカープロモーション)、豊島武人(アトミックモンキー) 籠瀬千恵子(アーツビジョン) 岡田千鶴(劇団両面HERO)ほか
●場所:吉祥寺シアター
●TICKET:前売 3200円/当日 3500円
全席指定席 5月20日(日) 午前10時販売開始
●問い合わせ先:宇宙食堂☆制作部/080-8735-1766
■関連サイト
演劇ユニット☆宇宙食堂official website
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