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業界キーマンが考えるスマートテレビの未来とクリアすべき課題

2012年03月26日 14時00分更新

 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科のポリシープロジェクト、スマートテレビ研究会は、3月19日に公開討論会『日本型スマートテレビの将来像』を開催。“新たなサービスの展望”と“ビジネス・制度面の課題”という2つの議題でパネリストたちが討論を交わした。この様子を紹介しつつ、スマートテレビについてまとめてみた。

■いったい“スマートテレビ”とはなんなのか?

 スマートテレビと言えば、Googleなどで提唱する新しいテレビの仕組みだが、その定義はまだ曖昧である。実際に製品化されているものとしては、Googleが提唱する『GoogleTV』が有名だが、テレビ型のアンドロイド端末といったところ。アンドロイドOSで動いているテレビでテレビ番組を観たり、ネットのブラウジング、アプリを入れて新しい機能を追加できるなど、現在主流となっているネット経由のコンテンツ配信『VOD』が見られるテレビよりもネット寄りに一歩進んだものと考えていいだろう。とはいえ、未だ国内では普及に至っていないのが現状だ。

 スマートテレビ研究会では、“スマートテレビ”を以下の4点が実現できるものとして定義している。

A ブロードバンドのインターネット経由で
  映像コンテンツを視聴できること

B スマートフォンやタブレット端末などの
  さまざまなデバイスと連携すること

C アプリケーションをユーザーの判断で利用できること

D ソーシャルメディアとの連携機能が備わっていること

スマートテレビ研究会

 それぞれに関して、現状の動きはこうだ。

 まずに関しては、技術的な面では現状のテレビでもVODとして実現している。とはいえ、ネット経由の番組配信や“見逃し番組の配信”などリアルタイム放送番組への取り組みはまだ遅れている。

 に関しては、ナショナルメーカー各社が徐々にではあるが、取り組んで広がりつつある。たとえば、東芝は、同社の全録画レコーダー『レグザサーバー』に“レグザリンク・シェア”という機能を搭載した。同社のタブレット端末と連携して番組の視聴や録画番組の持ち出しなどに対応している。会場ではこのタブレット端末用の試作アプリも披露。テレビ放送にニコニコ実況を重ねて表示させるデモが初公開された。これはにもつながっていく、おもしろい機能だ。

スマートテレビ研究会

 に関しては今のGoogleTVの機能そのもの。OSがアンドロイドであれば、Google Play(旧アンドロイドマーケット)から自由にアプリを入れることができる。つまり、テレビがスマホ化するようなもの。

 に関しては、映画『天空の城ラピュタ』のテレビ放送のワンシーンにおいて、ツイッターユーザーが一斉に“バルス”とつぶやいた事例など、テレビを見ながらツイッターでつぶやくというスタイルが徐々に広まりつつある。これを連携する仕組みとして進化させようというものだ。Ustreamでは既に一般的だが、ユーザーのつぶやきなどの反応に応じて番組内容が変化していくというスタイルが考えられる。


■ビジネスモデルは未だ確立できず

スマートテレビ研究会

 スマートテレビの現状について象徴的だったのが、同研究会の発起人の慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 中村 伊知哉教授の発言だ。

 「スマートテレビのイメージはまだ明確ではなく、念仏のようなものだ。'90年代には“マルチメディア”という言葉が盛んに使われたが、このときも明確なものはなく、結果的に現在のPCや携帯端末が普及した現在の状態がマルチメディアの実現と言える。テレビも何年かあとに進化した状態で、“スマートテレビが実現した”と実感することになるだろう。」
 

スマートテレビ研究会

 フォアキャスト・コミュニケーションズ 田村和人氏は、制作サイドの立場として、こう語る。

 「現状では、CATVが地デジ放送をデジアナ変換して配信しているぐらいであり、データ放送すら非対応の簡易チューナーを使っているケースも多い。放送番組でネットと連携できるのは、QRコードを表示するぐらい。深夜帯であれば、スマートテレビ向けの放送も可能だが、ゴールデンの時間帯では、まだスマートテレビに対応した番組を作るのは難しい。」


 確かにアナログ放送は停波したものの、未だにアナログテレビは多く存在しており、ここからスマートテレビへ移行するのはまだまだ時間が必要だろう。特にテレビ放送は、“できるだけ広く伝える”という使命を担っているため、こうしたユーザーを無視して番組を作るわけにはいかない。とはいえ、注目したいのが、日本テレビが試験放送を開始したフェイスブックとの連携したソーシャル視聴サービス『JoiNTV』。これは現状で普及しているテレビに搭載されたデータ放送の仕組みを利用してフェイスブックとの連携を行なうものだが、番組を制作する放送局サイドからスマートテレビにアプローチする試みも始まっている。


■スマートテレビがクリアーすべき課題

 このようにスマートテレビは、未だ定義がハッキリしておらず、番組制作側もスマートテレビ向けの番組制作をするには厳しい状況だ。ほかにもパネリストたちからはスマートテレビがクリアーするべき課題が挙げられた。



その1:ユーザーに受け入れられるかはインターフェース次第

スマートテレビ研究会

「テレビで色々なサービスを使ってもらうには、テレビで楽しめるインターフェースが重要で、スマートテレビにはその仕組みが必要。現状のテレビはチャンネルと音量を変えるだけで楽しめるし、ニコニコ動画はPC用に見やすいインターフェースとなっている。」とITジャーナリストの西田宗千佳氏。

 自身が今までテレビでネットを使わなかった理由はインターフェースの使いにくさにあるとして、スマートテレビのアプリやサービスを受け入れてもらうためには、ストレスのないインターフェースが必要であるとの考えを示した。


その2:コンテンツの制作モデルの変革が必要

スマートテレビ研究会

 ビデオプロモーション 企画推進部 境治氏は、

 「ハリウッドでは、コンテンツ作りはスタジオが中心になっている。そのため、制作したものをテレビで放送するのかネットで配信するのかは制作側が中心となっているので、現在のようなさまざまな配信手段が発達した状況に対応しやすい体制になっている。日本の場合には、コンテンツを作るのがテレビ局のようなコンテンツを流通させる側が中心なので、どうしてもその流通経路(つまりテレビ局のチャンネル)をいかに使うかを中心に考えてしまう。いちど流通経路中心から離れて考えるべき。そうしないと、制作の価値が失われてしまう。」との考えを示した。

 また、アニメ『TIGER & BUNNY』のように、作品内に企業名などを登場させ、スポンサードするような取り組みもあるとして、新しい広告モデルの可能性に注目していると語った。

スマートテレビ研究会

 日本総合研究所総合研究部門 東博暢氏は、日本のコンテンツビジネスは、海外での売り上げが全体の3パーセントしかないとして、ワールドワイド展開の問題を指摘。国内での収益が振るわなくなってきている現在、海外での展開を改善しなければ収益が得られないとのこと。

 「テレビ局が得意とするマスに受ける作り方と、ネットユーザーの特定コミュニティーにヒットする両方の作り方を組み合わせて、ワールドワイドに実験していく必要がある」と述べた。

 日本のアニメなどは、海外でも人気があるが、実際には海外での収益が低いのが現状。スマートテレビへの進化の過程でこの海外における収益モデルを確立できるかが、今後良質なコンテンツを生み出せるかの鍵になるだろう。


その3:コンテンツ配信には法的整備が必要

スマートテレビ研究会

 野村総合研究所 シニア研究員 山崎秀夫氏は、「コンテンツ配信の責任をどこまで取るか境界線を引かなければ広告も出せない」と語り、行政側による法的な整備も重要だとした。

 従来のような番組を制作して一方的に配信するだけのモデルであれば、その内容は配信したテレビ局や制作側の責任だ。しかし、現在論議されているスマートテレビのようにソーシャルネットワークと連携し、ユーザー参加型のコンテンツとなった場合には、番組が広告主の意図に沿わない内容になってくる場合も当然出てくる。さらに、番組に関わりのない第三者に対して影響する場合もある。こういったときに、誰がどのように責任を取るのか、それとも取らなくても良いのか明確に線引きしなければ、いざスマートテレビに広告を出そうと広告主が考えても、不測の事態を恐れて広告を出すのを尻込みしてしまう。たとえば裁判などになった場合は、当然司法レベルでの判断が必要になる。


 今後、テレビというものがどのような形で進化するかは未知数だが、中村教授は「20年に1度の変革の時期に来ている」とコメントしており、この大きな変化の波がやってきているのは間違いない。


2012年3月29日23時53分:スマートテレビがクリアーするべき課題についてナンバリングが間違っていたため、E→Dに修正しました。

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