私たちがふだん、スマホやカーナビで現在地を知るために利用している衛星システムは、アメリカの全地球測位衛星システムGPS(衛星数24機に予備衛星などを含め30機前後)と、ロシアの衛星測位システムGlonass(衛星数24機)の2種類。私たちは常にそのうちの最低4機以上から衛星電波(測位信号)を受信することで、現在地を把握している。しかし、高層ビルや木が立ち並ぶ場所では、仰角(測位衛星を地上から見たときの角度)が低い位置にある衛星からの信号はさえぎられているも同然。これらが測位の精度を下げる大きな要因となっているのが現状だ。
(C)永野雅子 |
(C)永野雅子 |
準天頂衛星みちびきは、捉えにくい衛星をフォローするためにJAXAが2010年に打ち上げた衛星。日本のほぼ天頂(真上)を通る軌道をもち、GPS衛星が見えにくくても、高仰角から同じ種類の信号を発信するGPS補完機能によって今後、格段に捕捉精度が上がっていく予定だ(みちびきが常に日本の上空に見えるようにするには、最低3機の衛星が必要。現在は1機のみで残りの衛星が打ち上げられていないため、現状は1日8時間程度しか利用できない)。
みちびきの出す補完信号を利用するには、受信できるチップを搭載した端末が必要(現在発売されているスマートフォンなどは、だいたいGPSのみか、GPS+Glonass対応)となり、2月に発売されたハンディーGPS『ガーミンeTrex』シリーズが、世界初のコンシューマー向け製品となる。
早速、どの程度GPS精度が高まっているのかテストしてみよう。検証は以下3台で行なう。
1)“GPS”+“Glonass”+“みちびき”対応エントリーモデル
『eTrex10J』(1万9800円)
2)“GPS”+“Glonass”の『iPhone 4S』
(ログは『KingGPS』で取得)
3)“GPS”のみ対応のAndroid『Galaxy Tab SC-01』
(ログは『MyTracks』で取得)
歩くのは東京都新宿区西新宿周辺。高層ビルが立ち並んで谷間のようになった一帯は”アーバンキャニオン”と呼ばれ、衛星測位利用にはとても厳しい条件の場所となる(カーナビメーカーはあえてその悪条件を利用し、新宿西口周辺をベンチマークコースとして製品をテストしている模様)。※ログ取得の間隔は3機とも10秒とする。
eTrex10Jとスマートフォン2製品のログ取得対決! |
↑夜の西新宿、みちびきが日本の天頂付近を飛ぶ時間帯を狙って試みた。 |
“みちびき”が仰角の高い(仰角80度以上)位置にくる時間帯を選択。実際テストしたのは2月で、夜9時くらいから翌朝5時がベスト時間帯のため、夜9時半ごろに検証。この条件は、JAXAの配布する衛星配置シミュレーター『QZ Radar』(Windows PC用)でチェックできる。せめてもう少し暖かい時間帯だとありがたいな……とは思うものの、こればっかりはそういう軌道なので仕方ない。合わせて、GlonassとGPSの衛星配置もチェック。こちらは『Trimble Planning』(Windows PC用)で確認できる。
さて、ログ取得ミッション開始。
検証用のルート |
JR新宿駅西口近くにあるコクーンタワー前をスタート地点に、コクーンタワー(正面)→新宿センタービル→三井ビル→住友ビル→新宿中央公園北交差点(左折)→新宿中央公園→甲州街道(左折)→KDDIビル(左折)→新宿NSビル(左折して階段を下りる)→都庁第二庁舎と第一庁舎のあいだの道→新宿中央公園南交差点(右折)→新宿中央公園前交差点→ハイアットリージェンシー東京→コクーンタワー(正面) というコースを進んでみよう。
●西新宿のログ取得結果
【青】eTrex10J
【みどり】iPhone 4S
【ピンク】Galaxy Tab SC-01
スタート位置 |
↑3機種ともスタートからバラバラの位置をマーク。 |
『iPhone 4S』、『Galaxy Tab SC-01』はいきなりスタート地点から道を隔てた向かいのビル前になっている。野村ビルや中央公園に踏み込んでみたり、東京都庁の上でふらふらしてみたりと、かなりの迷走状態。
『eTrex10J』でも、道の左右は違っていたり横断歩道を渡っていなかったりするものの、比較的ぶれずに歩いている。また、新宿六丁目の交差点では最も鋭角に曲がった軌跡を描いている。
新宿中央公園沿いでは、3機とも比較的正確な軌跡を描いているのは、公園側が開けていて建物がないためだろう。新宿パークタワーを右手にし、甲州街道へ抜ける交差点付近では3機とも大苦戦。なぜかどれもパークタワーへ踏み込んでしまい、『Galaxy Tab SC-01』ではパークタワーを飛び越えてしまった。ゴール時には、3機ともなんとかコクーンタワー前を示していた(車道の上ではあるものの、誤差数メートル以内)。
eTrex 10Jが大健闘 |
↑周囲の道より低く、建物に囲まれた都庁下でもeTrex 10Jが比較的ぶれずに記録。総距離もeTrex10J→iPhone4S、Galaxy Tabの順になった。 |
『eTrex10J』はおおよそ建物に沿って道を歩くログを示しているのに対し、iPhone4S、Galaxy Tabと利用できる測位システムの数が減るに従ってふらつきが大きくなっている。都庁の下の道はそれが如実に現われていた。『iPhone 4S』、『Galaxy Tab SC-01』はどちらもGPSを通信基地局との通信で補える、A-GPS方式に対応しているにもかかわらず、だ。
西新宿で取得したログ結果 |
↑こちらが全体像。GPSオンリー搭載のGalaxy Tabの乱れっぷりがすごい。 |
ここまで如実に違いが現われるとは、ちょっと笑ってしまった。『Galaxy Tab SC-01』が苦戦するのはまだわかるが、『iPhone 4S』と『eTrex10J』との差は”みちびき”対応の有無しかない。いかに準天頂衛星効果が高いかがわかる結果といえる。
●東京駅~秋葉原まで歩いてみる
せっかくなので、今度は最上位モデル『eTrex 30J』を使って、同様に都内の測位困難地帯を歩いてみよう。東京駅 丸の内北口から中央通りを通って秋葉原まで、というコース。丸の内付近もアーバンキャニオンのひとつで測位条件の悪い場所となる。
ログをGoogle Earthに重ねて見た結果がこちら。
【青】eTrex10J 【みどり】iPhone 4S 【ピンク】Galaxy Tab SC-01 |
『eTrex 30J』、『iPhone 4S』ともに中央通りを外れていないようではある。常に進行方向に向かって左手を歩いたが、おおむね左手側を示したのは『eTrex 30J』。『iPhone 4S』は多少ふらふらしているようだが、それでも『Galaxy Tab SC-01』のように建物に大きく踏み込んでしまっているほどではなかった。
以上、精度の点ではさすがの“GPS”+“Glonass”+“みちびき”3システム対応を見せたeTrex シリーズだった。トレッキングの軌跡など後で地図に重ねたときに、あまりにも実際のコースから外れているとがっかりするものだが、安心して楽しめる。
山道でもキッチリログを取得 |
↑「今回登った山は急斜面すぎてログって感じじゃなかったけど、スタート地点までの山道できれいにログを取得できたのはおもしろかった」とは編集部イチの山男キクチ談。 |
●『eTrex 10J』
液晶:モノクロ35mm×44mm(128×160ピクセル)
ベースマップ:非対応(別売地図の利用は不可)
内蔵メモリー: 9MB
トラック:最大10000ポイント(100ログまで保存可能)
バッテリー:単三型乾電池×2(アルカリ、ニッケル水素、リチウム対応)
駆動時間:最大25時間(Glonass測位を利用すると減少)
その他:USBケーブルでPCと接続、給電できる
実売価格:1万9800円
↑『eTrex 10J』はベースマップをもたないため、ナビ向きではないが、アウトドアでの軌跡取得が楽しい。
●『eTrex 30J』
液晶:モノクロ35mm×44mm(176×220ピクセル)
ベースマップ: 1/200000日本全国概略地図(別売の地図を利用可能)
※日本詳細道路地図を利用すれば、経路検索が可能になり、カーナビ等の目的でも利用できる。
内蔵メモリー: 2GB
トラック:最大10000ポイント(200ログまで保存可能)
バッテリー:単三型乾電池×2(アルカリ、ニッケル水素、リチウム対応)
駆動時間:最大25時間(Glonass測位を利用すると減少)
その他:microSD、3軸電子コンパス、気圧高度計、潮汐予報、ガーミンGPSユニット間でワイヤレスデータ交換可能
実売価格:5万9800円
↑1/200000日本全国概略地図を内蔵し、ナビとしても頼りになる『eTrex30J』。基本的な測位性能は同じだ。気圧高度計に対応し、電子コンパスや潮位予報といった機能ももっている。
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