根本的な話を避けてみんなで安心したいんだというのが、このトークショーの主眼だということがよく分かりました──。
そう語ったのは、現代美術画廊“カイカイキキ”を率いるアーティスト、村上隆氏だ。
2月12日、北海道札幌市にて、“創造の未来 ~クリエイトのこれから~”というトークショーが開かれた。村上氏や初音ミクの開発/販売元であるクリプトン・フューチャー・メディア社長の伊藤博之氏を含む、コンテンツ業界の最先端で活躍する6人が集まり、コンテンツビジネスの海外進出やネットにおける創作活動について深く意見を交わした。
夕方19時から始まったイベントには大勢が詰めかけ、立て続けに飛び出す刺激的なコメントに笑いや拍手を返す。そんな和気あいあいと議論が進んでいる中、冒頭に上げた村上氏の発言が飛び出す。会場に一瞬にして緊張が走り、登壇者の目つきも変わった。
今、日本のコンテンツが生き残るためには、何が大切なのか。最先端で奮闘している6人は、何を伝えたかったのか。前・中・後編で余すことなくお届けしよう。なお、イベントの様子は、ニコニコ生放送やUSTREAMでも振り返ることができるので、興味のある人はそちらも要チェック!
トークショーの会場は札幌市のすすきの駅近くにある“nORBESA”という商業施設。もともと昨年12月31日にTwitterで村上氏と伊藤氏が会話を交わしたことがきっかけで、このイベントがセッティングされた(関連記事)。 |
日本のアニメ・ポップカルチャーのエッセンスを作品に活かし、特に海外で評価されている村上隆氏。 |
クリプトン・フューチャー・メディアからは、伊藤社長(左)のほか、初音ミクの生みの親である開発責任者、佐々木渉氏(右)が参加していた。
ゲストとして、海外における日本のアニメ事情に詳しい経済産業省の三原龍太郎氏(左)と、イラストコミュニティーサービス“pixiv”を運営するピクシブ社長、片桐孝憲氏(右)が招かれていた。
トークショーの司会は週刊アスキー総編集長のF岡が担当(左)。MCは鏡音リン・レンの声を担当した下田麻美さんが務めていた(右)。
トークショーでは、3つのテーマが語られた。最初は日本のコンテンツにおける海外進出で、主にゲストとして呼ばれた三原氏が現状を語ってくれた。
冒頭、F岡が「Twitterで話が上がったこのイベントが、まさか実現するとは思わなかった」と話すと、三原氏は、「私は呼ばれるとは思ってなかった。Twitterで激論が交わされているところにやむをやまれず口を出したら、なぜかこの会場に呼ばれてしまった。じつは経済産業省での担当は原子力。クリプトン(希ガスの一種で放射性物質)という名前自体はたまに見ます」と語って会場の笑いを誘う。
そうして、本題の海外進出に入っていく。F岡は、「日本がクールジャパンという戦略をとったのは2002年。実はその3年前にポケモンが世界中で大ヒットするという現象が起こったが、その年をピークに海外におけるコンテンツの売り上げは下がっている。しかし、ファンイベントの来場者数はずっと右肩上がり。これは何か起っているんじゃないか」と問題提起する。
三原氏は、2007年から2年間、米国に留学していた経験を元に「米国のアニメ産業は基盤がだいぶ小さい。どこの会社も少人数で回しているし、流通も自前で持っていない。何より日本人自身が、あまり参画していない。留学中に入ったアニメクラブには日本人が私だけだった。ビジネスモデルの周辺を提案していかなければ、クールジャパンを盛り返すのは難しい」と切り出す。
伊藤氏は、昨年10月に参加した“ニューヨーク・アニメ・フェスティバル”を引き合いに出し、「会場は非常に盛り上がっていて、コスプレが多くて熱気がムンムンしていた。ただそこから一歩出ると、クールジャパンのエッセンスがどこにも感じられない。そのギャップがどうなっているのかと興味がある」と語る。
村上氏は、日本人の勇気のなさを訴える。「三原さんがさっきいった通りで、日本人が現地に行って、営業なり、作品を伝える努力をしていないというただ一点が問題。僕は現地に赴いて、人を集めてトークイベントやパーティー、ロビイスト活動をやって、自分の活動と日本の文化を紹介してる」と自身のやり方を披露。
その上で「例えばポケモンでいうと、米国の法人で日本にはほとんどマージンが落ちない。その構造の中で、なぜ日本人が向こうに法人を作らないのか意味不明です。一言だけです、“日本人は海外に出て行く勇気がゼロ”。そのわりに日本では内弁慶でワーワーいってる」と辛口のコメントを残した。
再び三原氏に話が向けられると、「流通、契約、翻訳という3点の強化が大切だと思っている」とまとめた。
流通では、CGM的なアプローチに触れる。「日本のコンテンツ業界は世界規模での流通を持っていないし、コンテンツ自体も米国では本流から外れたキワモノなので、相当な交渉をしないと棚に置いてもらえない。その押し切れない部分にテコ入れすれば、面白い作品が海外の消費者に届く仕組みができるんじゃないか」と問題点を指摘。
「パッケージビジネスでは、勇気がないことに加えて、お金がないこともあってなかなか出て行けない。今後はネットでファンの熱意やクリエイティビティーを集めて、流通も引っ張っていってもらう必要があるんじゃないか。自分たちで押していくんじゃなくて、彼らに引っ張ってもらうアプローチも面白いと思う」と提案していた。
契約では「面白い作品が売れたときに、誰がどうやってどの配分をもらうのか。日本が有利になるように契約する必要がある」と語る。
翻訳は「和文英訳の話もあるんですけど、村上さんの『スーパーフラット』の取り組みのように、作品が何を伝えようとしているのかというコンセプトや美学を世界に伝えていく努力が必要」と力説。「なぜ、ツンデレに萌えるのか、そもそもツンデレとは何か。ツンデレを一回英語で説明しようとしたんですが、結構難しいんですよ」と会場の笑いもしっかり取っていた。
(中編に続く)
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