flickrの創設者のひとりであり、Yahoo! Answerの開発者でもある、カテリーナ・フェイク氏が、新たなネットワークサービス『Hunch』(ハンチ)をスタートさせた。ニューヨークのオフィスに彼女を訪ね、起業の経緯を伺った。
ー最初に、カテリーナさんのバイオグラフィを教えて下さい。
「ソーシャル・ソフト、ソーシャル・ネットワーキング、個人出版、コミュニティ・ビルディング、UGCがバックグラウンドにあります。その前はウェブ開発、デザインをしていました。いろいろなスタートアップ企業で失敗を繰り返してきたんですよ(笑)。flickrは2004年に創設し、2005年にYahoo!に買収されました。Yahoo!ではソーシャル・サーチの分野に在籍し、My WebとYahoo! Answerというプロダクトを担当しました。昨年6月に退職し、Hunchの共同創設者になりました。それから、1年開発にかけたのち、3月にプライベートβを公開、6週間後に正式スタートしました。とてもとても新しい会社です。
ただエンジニアリング・チームは会社創設の半年前にスタートしていたので、Hunchは実質1年半の歴史ということになります」
ーHunchはどんなサービスなんでしょうか?
「Hunchは最大10の質問をし、それによってそのユーザー向けに特化された、パーソナライズされた答えを提示します。トピックはあらゆる分野に及びます。『ダラスでどのホテルに泊まるべきか?』、『どんな犬を飼えばいいか?』など。なんでもいいです。トピック、質問はユーザーが作ります。500のトピックでスタートし、6週間ですでに6000を超えてさらに増えつつあります。これはウィキやflickrに似ています。いわゆるUGC(User Generated Contents)ですね」
ーHunchを始めたきっかけは?
「Yahoo!にいたとき、Yahoo! Answer立ち上げのために働いていました。そのころ今のこのチーム、マシン・ラーニングのエンジニアたちに会ったんです。彼らの多くはMIT出身です。彼らはこのアイデア、意思決定ツリーの研究をしていました。私はウェブ開発、デザイン、flickrなどのUGCの経験がありました。結果として良いマッチングだったと感じたんです。デザイン、ユーザーインターフェース、ユーザーがどんな行動をとるかは私が理解していて、彼らはテクニカルなコンピューター・サイエンスの博士なのですから。それで昨年われわれはコラボレーションでHunchを始めました。途中でさまざまなミスもありました。何回もやり直しをして、少しずつ洗練させていきました。ほぼ1年をかけての進化させた末、実際にスタートしたのは今年の6月です。今は、ユーザーの皆さんに満足いただけるように改善を続けています」
ーflickrやYahoo! Answerのときは西海岸で働いていらしたんですよね?
「そうです。ただ、私は以前ニューヨークでも働いていました。オンライン通販のEtsyの取締役をしていたことがあります」
ーこちら(N.Y.)に引っ越されたんですか?
「ニューヨークとサンフランシスコ、半々の生活を続けています」
ーサンフランシスコにもチームが?
「いえ私個人だけです。たしかにサンフランシスコには多く優秀なエンジニアがいますが、今は小規模ですから。10人だけでやっています。小さな会社です。でもflickrは6人で始めたんですよ。素晴らしいウェブ・プロダクトを作るのに多くの人数はいりません」
ーたった6人でフォトアーカイブの世界が変えちゃったんですね。
「できますよ。むしろプロダクト開発には小さなチームのほうが理想的だと思います。多くて12人ですね。12人を超えてしまうとさまざまなミーティングが必要になり、コミュニケーションが難しくなります」
ー僕らは『週刊アスキー』を作るのに40人のスタッフがいるんですよ(笑)。
「(笑)ウェブより紙媒体は難しいですよね」
ーどんな分野のトピックが人気がありますか?
「とてもおもしろいのですが、旅行が多いですね。あとローカル情報も人気があります。例えば『サンフランシスコの自分の家に近いヨガ・スタジオは?』といったような決まった場所に関するものが多いです。またビジネスのカタログ情報に関するものも人気です。クレジットカードの比較のような。キャッシュバックやポイント、毎月の支払いといった質問で絞り込むんです。すべてクレジットカードを比較し、お勧めのカードを表示できます。これはすべてのビジネス分野で活用できると思います。キャンプ道具や靴とか。トピックを作りさえすれば」
ーどれぐらいの数のトピックが理想ですか?
「これはバランスですね。なぜならトピックスのトレーニング、洗練されることが重要です。トピックスは利用されるほど精度が上がるのです。例えば『ダラスのホテルはどこがいいか?』という種類のトピックはひとつに絞られたほうがいいんです。もし『ダラスのホテル』に関するトピックが5つもあったら、人の好みに関する学習には良くないんです。絞ったほうがシステムにはいいんですね。ニーズのあるトピックはカバーされるよう幅広さは必要ですが、多すぎるのはトレーニング情報には良くないんです」
ー悪意のあるトピックを作られることへの対処は?
「はい、複数の対処を行なっています。複数のメンバーによるレビュー・プロセスや、悪いトピックに対するフィードバック・システムを設けたり、スパムなどに対するアルゴリズムを導入したりしています。ユーザーの評価システムもあり、問題のあるユーザーがわかるようになっています。スパミングのような問題行動を起こすユーザーを、怪物のトロールを意味する“トローリング"と呼んで、彼らを特定するようにしています」
ーこの先の展開を教えて下さい。
「現在ソーシャル機能の発展に取り組んでいます。外部機能などを開発中で、また今最優先で取り組んでいるのは、いい結果が得られるようにすることです」
ー海外ユーザーへのサービスは?
「ユニコードで書かれているので外国語にも対応できます。ローカライズも計画中ですが、翻訳などの問題があるので長いプロセスになりそうです。いずれは実現したいですね。現在は英語のサイトですので、アメリカ以外はイギリスやオーストラリア、ドイツに住む英語を話す人といったところが中心です」
ートピック作成を行なっている人はどんなモチベーションで参加してるのでしょうか?
「Hunchの場合、参加しやすさに気を配っています。ちょっとした情報だけでも寄与できるようになっています。ひとつの質問、回答、トピックの提案だけでも可能です。OK、ダメなど。とても簡単に寄与でき、それらを総括的に扱えるようにしてあれば、情報が豊富になります。ひとつひとつはちょっとした情報でも。flickrを例にすれば、ひとつの写真に対するひとつのコメントやお気に入りが1000集まれば、良い情報となります。とても簡単に寄与できることが大切なんです」
ー優れたトピックを提供したユーザーには“拍手"するみたいな仕組みはあるんですか?
「Hunchではいいコンテンツに対して、楽器のバンジョーのボタンを押すようになっています」
ーとてもプリミカル質問ですが、ユーザーはなぜ“集合知"的なコミュニティに純粋に参加するんでしょう?
「いくつかの理由があると思います。まずインターネットには”あげる”文化があるということ。もし何かに関して情報を持っていたら、友人に教えてあげて情報をシェアするような。これは非常に自然な人間のお互いを助け合う特性であり、オンラインにも転化されています。バンジョーを押したり、拍手したりもそのひとつです。することがないからというのもあるでしょうが(笑)。いろいろな理由があると思います」
ーYahoo!時代に、Yahoo! Answerのようなものを作ろうと思ったのはなぜですか?
「flickrのあとYahoo!に入って、もっとも興味があったのが検索でした。Yahoo!とGoogleの間で激しい競争になっていたころです。試験的にさまざまな興味深い取り組み、研究、開発、ソーシャル・サーチが行なわれていて、それでそのグループに入りました。その部門は会社で一番大きく、収益を上げていたということもあります」
ー今年、HunchだけでなくMicrosoftのBingなど新しい検索エンジンがブームになっているのはなぜだと思いますか?
「どちらも検索というより意思決定エンジンですね。みんな”検索”の次はなんだろうと考えているんです。Googleを筆頭に検索は素晴らしい段階に入っています。ですからその次を探しています。Googleはすでに勝ってるんです(笑)。それで次の段階を模索しているんですね。MicrosoftとYahoo!が提携するようなおもしろいことが起こったりするのも、そんな理由からです。独占的な状況が崩れつつありますし、Googleも競争に引き込まれています。今は非常におもしろいときなんです。どんどん新しい企業が出てきていて、Hunchもそのひとつです。ほかにもいくつもおもしろい企業があります」
ー日本でHunchを展開したいという話があるのでは?
「はい、いくつか問い合わせはあります」
ーHunchの開発スタッフにはMIT出身者が多いと聞きましたが……。
「6人います。スタンフォード出身もひとりいます」
ー2000年のネットバブルのころ、ニューヨークは“シリコンアレー"などと呼ばれていましたが、そのころと現在の違いは?
「過去10年間莫大な資金がファイナンスやヘッジファンドに注ぎ込まれました。今それが崩壊したことで、昔のシリコンアレーが戻りつつあるように思います。今はニューヨークでテクノロジーを展開するのにとても良い時期だと思います。家賃も下がりましたし、優秀な人材も豊富です。3〜5年前より状況はいいです。最近ニューヨークにはコンピュータ・サイエンス関係の人が増えています。証券関係に務めていたIT分野の人が、金融危機によりコンピューターの分野に移ってきているんです。コンピューターを専攻していた学生が、卒業後にスタートアップの企業に進むことも増えました」
(インタビュアー:F岡)
http://www.hunch.com/
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