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「モンスターからの挑戦状」がテーマのCybozu Days 2019基調講演

編集者、お笑いタレント、飲食店経営者が語るモンスターの倒し方

2019年12月16日 09時00分更新

「勉強すれば、どこまで言っていいのかわかる」(たかまつなな氏)

 二人目のゲストはお笑いジャーナリスト/笑下村塾 取締役 たかまつなな氏。なんと基調講演ゲストでは最年少となる26歳だ。

 たかまつ氏は、元々、社会問題や政治をもっと身近に伝えたくて、お笑いの道を目指していた。中学生からアマチュアでお笑いの世界に入り、大学2年生の時に事務所に入ってデビューして、日本テレビが20歳以下のお笑いの大会を開催したときに優勝した。そこから、「エンタの神様」や「アメトーク」などに出演。お嬢様芸人として活躍した。

 元々、社会問題を取り上げたいのに、テレビに出るとお嬢様芸人を求められて、一番高い買い物だったり朝ご飯にフルーツサンド食べた話しか言えないのか、と違和感を覚えた。そして、自分のやりたいことをやろうと思って、東大の大学院に入る。しかし、今度はクイズ番組にしか呼ばれなくなった。そこで、自分の会社を作り、ようやくテレビで政治のことを話せるようになったという。

お笑いジャーナリスト/笑下村塾 取締役 たかまつなな氏

 青野氏が、芸人が政治的な発言をすると干される心配はないのか? という質問に対してはたかまつ氏は「超心配です」と笑って答えた。

「勉強すれば、どこまで言っていいのかわかります。でも、芸能事務所に入っていると、安全保障についてコメントを求められると、クレームが怖いからやめよう、と自主規制をしてしまいます。ひとりでやるというのはしんどいですけど、今は自分の発言に責任を持てています」(たかまつ氏)

 青野氏も裁判を起こしたあと、クレームが寄せられたのだが、なんとサイボウズのサポートセンターに社長の裁判をやめさせろとメールが来るという。個人的な事情で会社に負担をかけているのが申し訳ないと感じているそう。

 その上で発信していいと言ってくれる組織ってなかなかない、とたかまつ氏。たかまつ氏の周りでも、強く言うタレントさんもいるようだが、テレビ局やスポンサーにクレームが来ると、結局は降ろされてしまうことがあるそう。たかまつ氏は「しんどい戦いだ」とため息をつく。

 青野氏がブラック校則について話題を振ると、たかまつ氏は今の学生は校則を決められる感覚を持っていないと言う。ルールは変えられないものだと認識し、自分たちで変えた経験がない以上、いくら1票の重みの話をしても伝わらないというわけだ。

「たとえば徴兵制をやりますとなったら、多分投票率はすごく上がると思うのですが、そのくらいわかりやすいイシューがないと若い人は動きません。そうなったときには、手遅れですよね。だから、急がないとまずいです。私の世代の平均寿命って96歳くらいになると思います。あと70年生きなければいけないんです。政治家が70年後の未来をわかっているのかと。今を逃げ切る政治になっているんじゃないかな」とたかまつ氏。

 たかまつ氏は現在、時事YouTuberとして「たかまつななチャンネル」というチャンネルを立ち上げ、いろんな人と対談したり、ニュースの解説をしている。今後も、どうやったら若い人に社会問題を伝えられるかということを考えて、活動していくという。

「人を幸せにするのは、お給料でも時間でもなく、自己決定権」

 3人目のゲストは1日100食限定の飲食店を経営しているminitts代表取締役の中村朱美氏。中村氏は7年前に国産牛ステーキどんぶり専門店「佰食屋」をオープンし、そこから2年4ヶ月後、京都の繁華街河原町「佰食屋すき焼き専科」、そこから2年後、錦市場で「佰食屋肉寿司専科」をオープン。その2年後の今年の6月、「佰食屋1/2」をオープンした。京都市内で4店舗構えている。

 名前の通り、1日100食限定。しかもランチのみの営業となる。お酒や夜の営業で稼ぐという常識を覆す飲食店だ。遅くとも15時までの営業で、夕方の18時には全員が帰るという。

minitts 代表取締役 中村朱美氏

 この20年、景気が低迷し続けるが、企業は売り上げを伸ばそうとしており、そのジレンマは従業員にのしかかっている。そんな中、経営者が思い切って、減収でいい。その代わり増益にしよう、とシフトチェンジできたら、従業員はうれしく、がんばれると中村氏は語る。

 青野氏は2005年にいきなり上場企業のサイボウズ社長になった。すると日経新聞が気になり始めたという。売り上げと利益で記事書かれるため、売り上げを増やそうとM&Aをしたりした。しかし、結局9社買収して8社売却することになる。「売り上げを減らすというのは共感します。ただ、そのモデルが成り立つのか、です」と青野氏。

 たとえば、「佰食屋」のステーキ丼は1000円+消費税となっている。国産牛を120g、国産米240gを使っているので、スーパーで材料を買うと大体同じくらいの金額になるという。原価率は約50%で、飲食店にしたら高い割合だ。それでも会社が継続していけるだけの利益は残せると中村氏は胸を張る。

 青野氏が「経営者目線だと、15時に閉めたらテナント料がもったいない」と言うと、中村氏は、「電気が消えている価値がある」と答えた。お店にお昼にしか食べられない、という希少価値を付けているというのだ。たとえば、どこかに貸して夜に電気がついていると、たとえそれが誤解でも「電気ついてるじゃん、昼間行かなくていいや」と思われてしまう可能性がある。そのため、きっちりと、早い時間に帰宅するようにしているのだ。

 「佰食屋」は採用もユニークだ。なんとすべてハローワークで採用しており、応募してくるのは就職弱者の人が多いという。実際に「佰食屋」で働いているのも、シングルマザーや障害者の方、高齢者、外国人の方、就職したことのない方、妊娠中の方など、多岐にわたる。

 青野氏が「ある意味、マネジメントするのが難しい方だと思います」と言うと、「決して私はそうは思っていません」と中村氏。採用したら、たまたまそういうメンバーだった、ということもあるが、そんな人も会社にとってメリットになることがあるという。

 たとえば、職場には70歳以上の高齢者が3人働いていているが、長時間立って仕事をしているとしんどくなってくる。それを他の従業員が毎日目の当たりにしているので、高齢者の客が来た時に、自然にサポートしてあげられるようになったという。ルールなど作っていないのに、階段を上るときに荷物を持ったり、場合によっておんぶして階段を下りる従業員もいるそう。

 採用と同様、働き方も柔軟に運用しているという。

「私たちが大事にしているのが、従業員の自己決定権です。人を幸せにするのは、お給料でも時間でもなく、自己決定権だと思います。2つ用意しているのですが、まずは勤務時間を自分で決められます。正社員は朝9時か9時半出勤で、退勤時間は4時、5時、5時半、5時45分の中から選び、基本給もそれで決まります。もう1つは休みの自由です。有給休暇を取得するときに上司の許可はいりません。紙に日付と名前を書いてポストに入れたら確定です。2週間連続で休むこともできます」(中村氏)

 そうすると、シフトを組むのが大変になりそうだが、そのために必要な人数よりも1人2人多く採用しているという。人数に余裕があるので、残業が生まれず、高齢者でも働ける労働量になる。当然、その分のお金はかかるが、それは本来かかる採用経費を当てている。「お金のかしこい使い方をしていると、誰もが自分に会社がお金を使ってくれていると実感を得られます」と中村氏は語る。

「やはり飲食店ってブラックだったり、体力勝負の仕事と思われがちだったり、職業地位が低いと見られがちです。私たちがこれから挑戦したいのは、もっと飲食店の職業地位を上げたり、若い人たちに楽しい職業だと思ってもらいたいということです。来年、2020年は新しい飲食店の職業価値を作っていきたいと思っています」(中村氏)

 「やはり私たちはまだまだ思い込みに囚われているな、と感じた90分でした」と青野氏が最後に言ったとおり、常識や~べき論に縛られず、人を中心としてやりたいこと、目指すことを真摯に追い求めればまだまだ新しい働き方は追求できるのだな、と大きな学びになった基調講演だった。

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