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Netflixはなぜファンに支持されるドラマを打ち切ったのか

2019年11月02日 16時00分更新

 Netflixの強みの1つとして、従来のテレビでは作れないようなオリジナル作品に力を入れたことが挙げられる。『ROMA/ローマ』や『バード・ボックス』などのオリジナル映画はもちろん、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『13の理由』などのオリジナルドラマでも人気作品が多い。

 たとえば、高校生ハンナ・ベイカーの自殺を巡り、物語が展開するオリジナルドラマ『13の理由』では、未成年を自殺というテーマだけではなく、セクシャル・マイノリティーへの差別や薬物乱用、性的暴力、セカンド・レイプなどの問題にも切り込んでいく。この作品はNetflixの独自性を体現していると言えるだろう(『Netflixが素晴らしい3つの理由』)。

 だが、オリジナルドラマでは『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『13の理由』、『セックス・エデュケーション』のように、瞬く間にシーズン継続が決定するものもあれば、残念ながら『サイテー! ハイスクール』や『The OA』のようにファンの期待も空しく、あっさりと打ち切られる作品も少なくない。

 Netflixはシーズンの継続や打ち切りをどのように決めているのか。具体的に何%の作品を継続し、何%の作品を打ち切っているのか。配信開始からどれほどの時期での視聴者数に注目しているのか。ユーザーならば、だれもが1度は抱いたことのある疑問かもしれない。同社に問い合わせた。

打ち切りは「視聴者数」と「制作費」をもとに判断

 Netflixはシーズンの継続や打ち切りをどのように決めているのか。同社の回答は以下のとおりだ。

 シーズンの継続や打ち切りに関しては、作品の「視聴オーディエンスの大きさ」と「制作コスト」をもとに評価しています。基準を一概には言えませんが、現状、ひとつひとつの作品の状況をみてシーズン継続の是非を検討しています。

 比較的小さなオーディエンスに届いた作品でも、制作コストが抑えられているケースにはシーズンを継続する価値があると判断するかもしれませんし、一方で、世界的に大人気の作品であったとしても、制作コストが非常に高い場合には、継続を慎重に検討します。

 このように、ひとつひとつの作品の継続を検討することは、次なる人気作を制作・配信する機会を生み出すにあたって大切なプロセスだと考えています。これは従来、業界で一般的とされた考え方ではないかもしれません。Netflixでは、今後もコンテンツを生み出すひとつのプロダクションとして、新しい考え方に挑戦してまいります。

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』は6400万世帯が視聴

 Netflixのシーズンの継続や打ち切りには、作品ひとつひとつの「視聴者数」と「制作費」という2つの要素が重要なようだ。Netflixはそれほど好調ではない作品は視聴者数を明らかにしない方針だ。好調な作品があると、決算発表などで「〇〇万世帯が視聴」といった数字を発表する。

 最近では、1980年代を舞台に少年たちと超能力を持つ少女と、超常現象の戦いを描いた『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のシーズン3は配信開始から4週間で6400万世帯の視聴者数を記録した(2019年第3四半期の決算発表より)。この記録はNetflixのオリジナルドラマでは最高の視聴者数とされている。

 このような人気作品は、クリエーターたちが続編を制作する意志を持っていたり、キャストたちが継続して出演できる環境にあったりといった条件も不可欠だが、制作費が圧迫しなければ、シーズン継続は間違いなしと言えるだろう。現に、視聴者数の発表からまもなく、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』はシーズン4の制作決定が発表された。

ファンに支持された『Sense8 センス8』が打ち切られたワケ

 また、Netflixはオリジナル作品制作費も発表しない方針だが、膨大な制作費をかけた作品は推定金額が報じられる。たとえば、イギリス女王エリザベス2世の治世を描いた『ザ・クラウン』は1話あたり1300万ドル(約14億4000万円)と報じられた。このようなドラマはほかの作品に比べると、視聴者数との兼ね合いを重視していると推測できる。

 なかでも、政治やジェンダー、セクシャリティーなどに言及しつつ、世界各地にいる8人の精神的な繋がりを描いた『Sense8 センス8』は、その代表格と言えるだろう。この作品は1話あたり900万ドル(約10億円)の制作費をかけたにもかかわらず、わずかシーズン2で打ち切られた。

 このドラマはファンに熱狂的に支持され、打ち切り決定後もTwitterでは更新を望む「#RenewSense8」というハッシュタグのツイートが溢れた。Netflixもその声を無視できず、シーズン2の配信開始から約1年後、最終回として151分のスペシャル作品を配信したほどだ。

 しかし、Netflixの最高コンテンツ責任者(CCO)を務めるテッド・サランドス氏の発言からは、このドラマの打ち切り理由は、膨大な制作費にふさわしい視聴者数を獲得できなかったことだと考えられる(『Variety「Netflix’s Ted Sarandos Talks ‘Sense8,’ ‘The Get Down’ Cancellations」』より)。

 Netflixは数少ないファンに熱狂的に支持されることではなく、あくまで視聴者数を獲得できなければ、制作費に見合うとは思えなかったようだ。このドラマは「世界的に大人気の作品」だが、「制作コストが非常に高い」ため、「継続を慎重に検討」した結果、打ち切りになった作品に位置づけられるかもしれない。

(次ページでは「Netflixはここ1年で3割のドラマを打ち切った」)

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