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古風な見た目に反した、現代的なサウンドが魅力

40年の魂が注入された「KX-3 Spirit」、これはぜひ聞いてほしい逸品スピーカーだ

2019年08月14日 14時00分更新

クリプトンが2ウェイのスピーカーしか開発しないわけ

── マルチウェイのスピーカーは、素材や音色が異なるドライバーを音域に応じて組み合わせることになるので、つながりが重要ですね。

渡邉 クリプトンのスピーカーは、すべて2ウェイ(フロア型のKX-1000Pも2ウェイにサブウーファーを付ける思想で設計)になっていますが、ここも声の表現へのこだわりです。

 一般的な3ウェイのスピーカーでは、ミッドレンジを中心に置き、高域にツィーター、低域にウーファーを追加した「3等分型」の構成になりますよね。つまり、人の話し声の帯域(編注:100Hz~3000Hz程度)の、上のほうと下のほうにそれぞれクロスオーバー周波数が来て、2つのスピーカーが同時に鳴る領域ができてしまいます。「人間の声を3等分して、別のユニットで鳴らす」なんてあり得ないでしょう?

── だから、2ウェイのスピーカーしか作らないのですね。

渡邉 はい。しかしながら、日本ビクター時代には、「SX-3」のあと「SX-5」「SX-7」という3ウェイスピーカーを開発しました。ただ、3ウェイを選んだ動機は不純で、会社から「SX-3の売り上げが落ちてきたので、2ウェイではなく、3ウェイにしたほうがいい」と言われたためです。当時は三菱さんの「DS-251」というピエゾツィーターを付けた機種がとても売れていました。SX-3の生産はそこまでいかず月5000台が精一杯。

 「あっちは3ウェイだから売れている」「いや、あそこにピエゾを1個付けても、鳴っているかどうかも分からないですよ」なんてやり取りもあったのですが、「時すでに遅し」です。さらに追い打ちを掛けるように、ヤマハさんが「NS-670」「NS-690」という3ウェイスピーカーを発売し、2ウェイより先にヒットを飛ばしました。

 そうなると、私なんて罪人ですよ。「2ウェイが絶対だと言っている君は時代遅れだ」「2ウェイじゃ、3ウェイに負ける」と。

 そこでSX-5とSX-7を作ったら、それがバカ売れしたんですね。

── それは複雑な心境ですね……。

渡邉 とはいえ、等分割の3ウェイは「スピーカーの設計においては、邪道だ」という気持ちは常にありました。私としては3ウェイではなく、やはり2ウェイのスピーカーがいいと思いますし、いまもそんな個人としての想いを込めて、スピーカーを作っています。

 クリプトンでやるなら、それでいいのです。10人のうち8人に売る機種を作っているわけではなく、私の設計を気に入ってくれる人に届けばそれで十分ですから。

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