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伝統と今が同居した、クールなサウンド「KX-0.5」を聴く

2017年09月15日 10時00分更新

 小型で音のいいスピーカーが欲しい。オーディオへの関心が高まってくると、そんな気持ちを持つ人は多いはずだ。そんな人におすすめしたい製品が登場する。

 命名“ポイント・ファイブ”。クリプトン(KRIPTON)の新ブックシェルフスピーカー「KX-0.5」のことだ。

 密閉式にこだわった「KXシリーズ」の末弟的な存在で、価格は19万9800円(ペア)。発売は10月上旬だ。総じて価格が数十万円~100万円程度の高級機種が中心のKRIPTONとしては入手しやすい製品。単品オーディオに興味を持ち始めた人でも、がんばれば買えるぐらいの価格帯の製品でもある。

表面(右)が拡散パネル、裏面(中央)が吸音パネルという面白い構造のAP-R1000

ネオフェードを使用したハイレゾ機器向けのインシュレーターIS-HR1

 合わせて、裏表で拡散と吸音の両方の効果が得られる調音パネル「AP-R1000」(税別9万円、10月上旬発売)や、振動を熱に変換して吸収する“ネオフェード”素材使用のハイレゾ機器向けのインシュレーター「IS-HR1」(4個入り、税別1万9800円、10月上旬発売)も市場投入する。

調音パネルの利用例

70年代からの伝統を受け継ぐ最新ブックシェルフ

 ここで、ちょっとした昔話をすると、ビクターがかつて開発していた「SXシリーズ」というスピーカーがある。SX-3以降、1970年代から2000年代の初めぐらいまで続いたシリーズだ。国産スピーカーとしてコストパフォーマンスと音質が高い機種として高い評価を得ていた製品である。シリーズのうち、最後の500DEだけは、背面に穴の空いたバスレフ型なのだが、それ以前のモデルは基本的に密閉式。低域の量感という意味ではバスレフに譲るが、音の締まりや解像感に優れると言われている。

KX-0.5

 クリプトンのKXシリーズは、ビクターのSXシリーズのDNAを色濃く受け継いだ製品なのである。密閉式にこだわり、ほかにもドイツ・クルトミューラー製のペーパーコーンやアルニコ磁気回路、フィルムコンデンサーや空芯コイルを利用したネットワーク回路など、SXシリーズの特徴を数多く受け継いでいる。

 それも当たり前で、KX-0.5の開発を担当したオーディオ事業部長の渡邉勝氏は、ビクター出身のエンジニアなのだ。

 KX-0.5は2ウェイ密閉型のブックシェルフで、本体サイズは幅194×奥行き295×高さ352mm、重量7.4kgとコンパクト。35mmのピュアシルク・リングダイヤフラム型ツィーターと、140mmのCPP素材のコーン型ウーファーを使用しており、インピーダンスは6Ω。再生周波数帯域は50Hz~50kHz、出力音圧レベルは87dB/Wmというスペックだ。

 ハイレゾオーディオというと、手軽さからヘッドフォン再生が主流になりつつあるが、やはりスピーカー再生には魅力がある。まず設置の自由度が高い小型スピーカーからオーディオの世界を垣間見てみるのも面白い。

時代の変化に合わせ、素材や価格帯を見直す

 KX-0.5という型番は少し独特だ。これはKXシリーズのラインアップ構成と発売経緯が関係している。クリプトンは2005年にKX-3を皮切りにして、現行のKX-3PIIまで製品の改良を続けてきた(横戦略)。一方KX-3の上位機種・下位機種となるKX-5PやKX-1といった機種をリリースし、ラインアップを上下に広げている(縦戦略)。

KX-3PII(左)とKX-3(右)

 KX-0.5は2014年発売のKX-1の弟分として、より手軽に高音質を手に入れられる機種として企画されたものだ。

 一方、従来のKXシリーズから方向転換した側面も持つ。大きな違いはウーファーだ。まず磁気回路にアルニコではなくフェライト磁石を利用。さらに振動板もクルトミューラーコーンではなくポリプロピレンにカーボンコートを施した材質に変えている。これらは低価格化の理由になっているが、時代とともに入手しにくくなり、相対的に高価格化した部品ではなく、時代に合った部品選定でコストと音質のバランスを模索したモデルとみることもできる。

 つまり、0.5という数字には1の下位であるという意味と、ほかとは異なる特徴を備えた新世代の機種という想いが込められているのだと推察できる。

 もちろん音質に関しては、妥協していない。20万円を切る価格でも本格的な製品を作るという意気込みで新開発したものだという。

低価格でも妥協がない製品と言える理由は?

 磁気回路についてはB-H曲線の特性を調整してアルニコに近い特性が得られるようにした(“アルニコライク”と同社が呼ぶのはそのため)。かつ磁束を上げるために線積率が高いエッジワイズ4層巻きのロングトラベルボイスコイルを使っている。振動板についても、ペーパーコーンの提供メーカーが減り、高額化している点を背景としつつ口径が小さく強度が確保しやすい点を考慮、カーボンの配合量にも配慮して素材を選定している。

 ドライバーとしては、f0=35Hzからの低域再生に対応する(スペック表には筐体に収納した場合のf0=50Hzが記載されている)。ツィーターに関しては上位機と同じものを使用しており、50kHzまでの再生に対応。最新のハイレゾ音源の再生にも耐えうる、ワイドレンジなスピーカーでもある。

 外装もスモークユーカリの突板をポリウレタン塗装した高品位なもので、素材は針葉樹系高密度パーチクルボードとMDF(リアボード)。音を後ろに逃がせない密閉型ということもあり、従来同様、吸音材には空気を多く含んだ、天然ウールの低密度フェルトを使用して、低域制動を高めている。吸音率のバランスなどにも配慮して量を決め、2倍ほどの容積があるキャビネットと比べても遜色のない豊かな低域が得られるという。

 ネットワークには歪みを抑えるため、抵抗値の低い直径1.2mmの空芯コイルを使用。電解コンデンサーのように容量抜けしにくいフィルムコンデンサーを使い、振動を抑えられるケース入りのピッチ材に入れている。結線はハンダを使わず、かしめ方式にしている。

ハッキリクッキリしつつ、音に色彩感や適度な温度がある

 発表会のデモで、音を確認できたので、簡単に触れておく。

 まずアコースティックギターの伴奏でウィリアムス浩子が歌う、女性ボーカル曲では、子音がプっと前に速く立ち上がったり、ギターのアタックが明瞭だったりと、かなりハッキリ・クッキリとした印象のサウンドだった。その一方で声はドライになりすぎず適度な潤いがあるし、シンプルな楽器構成の音源でも十分な肉付き感がある。現代的なHi-Fiスピーカーの中でも高水準と言えそうだ。

 キース・ジャレットのピアノでは、ピアノらしい硬質なタッチだったり、キンと伸びる高域が感じ取れた。実際のピアノのイメージに近い、リアルな表現である。一緒に使用していた調音パネルの影響もあるかもしれないが、中音域の残響が広めに出ていたが、音場の広さだったり、演奏によって動く場の空気のボリュームも意識させる再生だった。ブックシェルフであることを忘れる、低域の量感もある。

 ベルリオーズのオーケストラ曲では、ダイナミックレンジが広くスケールが大きいオーケストレーションの表現に圧倒される。音色は明るく、全体にハリがあるが、これは倍音をしっかりと再現できているためだろう。編成の大きなオーケストラということもあり、ローエンドの再生という意味では、ブックシェルフの制約を少し感じたが、奏でる音には実在感と明瞭さがあり、ホールで生演奏を聴いているような満足感がある。

 印象的なのは、途中入る鐘の音だ。金属をたたく際の硬さだったり、重量感といった楽器の材質が手に取るように分かる一方で、音色は熱気をはらんでいる。ハッキリとした音だが、クールになりすぎない、このスピーカーの特徴を表しているように感じた。また、音を落としたフレーズでノイズともつかない低域のざわざわとした表現などを聴くと、分解能が高く、きめ細かい描写ができるスピーカーであると感じる。

 全体を通して感じたのは、小型のモデルでありながらスケールの大きな表現も可能で、音が無音部からピンと立ち上がる際のメリハリ感だったり、明瞭な低域だったりと情報量の多いハイレゾ音源の魅力を存分に伝える明晰さも併せ持つポテンシャルの高いスピーカーであるという点だ。そしてクールでありながら、明るさや色彩感を感じさせる音色はリスニングの楽しさも提供してくれる。魅力的な要素の多いスピーカーだ。

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