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「IPナレッジカンファレンス for Startup」レポート

各界のプロがホンネで語る世界展開を成功させる知財戦略とは

2019年03月27日 07時00分更新

【第3部】日本のイノベーションに必要な攻めの知財戦略を考える

 第3部は「日本のイノベーションに必要な攻めの知財戦略を考える」をテーマにしたパネルディスカッション。登壇者は、株式会社日本総合研究所プリンシパル 東 博暢氏、株式会社ゼロワンブースター共同代表 取締役 合田ジョージ氏、株式会社Darma Tech Labs 代表取締役 牧野成将氏、西村あさひ法律事務所・パートナー 弁護士 水島 淳氏 の4名。モデレーターは、特許庁 企画調査課 ベンチャー支援班長の貝沼憲司氏が務めた。

(左から)西村あさひ法律事務所・パートナー 弁護士 水島 淳氏、株式会社Darma Tech Labs 代表取締役 牧野成将氏、株式会社ゼロワンブースター共同代表 取締役 合田ジョージ氏、日本総合研究所 プリンシパル 東 博暢氏、特許庁 企画調査課 ベンチャー支援班長 貝沼憲司氏

 特許庁では、知財コミュニティーの構築に取り組んでいる。スタートアップが活躍できる環境をどのように日本で作っていくのかが今回の議論のテーマだ。

日本のスタートアップと世界との距離

牧野氏(以下、敬称略):「スタートアップというとITやソフトウェア分野をイメージするが、日本のスタートアップがグローバルで通用するのは、モノづくり。海外のVCから資金調達できているスタートアップは、ハードウェア系が多いですね」

株式会社Darma Tech Labs 代表取締役 牧野成将氏

東氏(以下、敬称略):「最近は地方を含め、医療・メディカル系のスタートアップが増えてきている。スタートアップだけでなく、企業の研究所や大学からも出てきており、世代間のバラつきもなくなってきている印象があります」

日本総合研究所 プリンシパル 東 博暢氏

水島氏(以下、敬称略):「世界的に見ても、かなり平準化しているように感じます。ひとつは大人が増えてきたこと。スタートアップというと、学生スピンアウトが注目されがちだが、米国では、大企業にいた人が創業した大人スタートアップが多く、資金調達で成功している企業の平均年齢は40代です。

 もうひとつは、メンターの存在。日本でも10年前に起業に成功した方が、新しい起業家にアドバイスするようなライフサイクルが生まれてきています。ただし、自動車産業など、ハードウェア系で大成功された方からのビジネスの導きが少ないのが日本の苦しい部分なのでは。

 3つ目は規模。米国は、規模もマーケットも大きいが、死屍累々。おそらく会社数と資金調達額を頭割りすると、日本のほうが高い。投資家から見れば、日本のほうが資金調達しやすい環境にある。米国では数千億の市場規模でなければ興味を持たれないが、日本なら数百億円で話に乗ってくれる」

西村あさひ法律事務所・パートナー 弁護士 水島 淳氏

合田氏(以下、敬称略):「アメリカや中国は大きすぎて、日本と比較するのは少し無理があるかもしれない。ヨーロッパとの比較であれば、『日本のベンチャーはマザーズ前提で資本政策をしているから、グローバルに出られない』と海外の広いネットワークを持つ人から以前言われたことがあります。ヨーロッパは大陸が続いているため、アフリカやアジアを含め、非常に広範囲なネットワークで事業をしている。そのネットワークが圧倒的に違う」

株式会社ゼロワンブースター共同代表 取締役 合田ジョージ氏

海外展開・オープンイノベーションで、知財戦略をどう立てていくか

貝沼氏(以下、敬称略):「世界に出るには、日本はどのように強みを作っていくのか。知財戦略は、ふわっとした言葉で、スタートアップには、なかなかイメージしづらい。そこを具体的に話してもらえますか」

特許庁 企画調査課 ベンチャー支援班長 貝沼憲司氏

水島:「知財戦略とは、事業の差別化要因、長期的なビジネスの持続要因を作ること。特許であれば、公開する/隠す/他者の持つ知財を買う、といった戦略を3次元的に考え、ビジネスにおける差別化/長期的持続化要因にしていくことが大事です。スタートアップにとっては、資金調達と大企業との連携という役割が大きいですね」

合田:「大企業はスタートアップと連携する際、スタートアップ側の知財をどう扱うのか。共同研究などで知財費用を大企業側が出資した場合、どちらが特許の権利を所有するのか。社内起業での特許はどうするのか。オープンイノベーションの場では、知財の話がよく議論に上がります」

牧野:「ハードウェア系のスタートアップは、大企業に勤められた方が多いこともあり、比較的知財の意識が高めです。IT系ソフトウェアのスタートアップと比べてIPOが難しく、M&Aを想定した成長戦略を描いているケースが多い。そこからブレークダウンした特許戦略を考えている、という印象です」

東:「医療機器も世の中に広げるには、M&Aをしたほうがいいケースが出てきます。しかしスタートアップは、最初からM&Aをイメージしているわけでないので、イグジットが近づくにつれて、知財の穴が見つかることがあります。デューデリジェンスでの評価が低くなってしまうので、早めに知財対策をしておいたほうがいい」

水島:「(オープンイノベーションという意味で)中小企業やスタートアップ同士の連携による相談も増えています。中でももめるのは、線引きの部分。たとえば、スタートアップのサービスを大企業が採用し、自社のサービスに組み入れる際に、すべて大企業の知財権にしてしまうケースがあります。しかし、スタートアップ側のメインのサービスと重なる場合、大企業側にライセンス料を払わなくてならないのはおかしい。こうした線引きのためにも、権利を押さえておくことは大事です」

牧野:「スタートアップと中小企業との連携では、中小企業側から知財の話が出ることがあります。ハードウェアにおける試作はノウハウの塊なので、中小企業側は権利を求めるが、知財戦略という観点では、スタートアップがイグジットしづらくなるので、なるべく中小企業側に開示しない方向性で進めています。しかし最近のスタートアップは、AIを含め、データを取ることに注力しており、ハードは中小企業がゼロベースでアイデアを出しながら作るケースもある。中小企業とスタートアップの連携を深めていくのであれば、中小企業を含めた知財戦略を考えたほうがいいのかもしれません」

合田:「“スタートアップファースト”と言われてきたが、かえって助け合う概念がなくなってきているのでは。自社の発明が漏れるのではないか、という意識が強くなりすぎている側面がある。大手企業とスタートアップが互いに助け合うと同時に、全体のエコシステムがみんなで助け合う概念を育てていけないだろうか。大きい概念で考えることが日本は弱い気がします」

東:「日本はエコシステムを作るのが苦手。個々に優れた技術を持っているが、それらを統合して、より大きな社会を作るという観点が欠けている気がします。ここまでオープンデータが進んでいない国は珍しい。知財もある程度オープンにして、マーケットを拡大していくことを考えていってほしい」

牧野:「地方はマーケットが小さいので、最初からグローバルを目指しているケースが多い。地方では、大学と大企業に人材が眠っているので、スピンアウトを推進していきたい。ただしファイナンスに関しては、地方だけでは弱いので東京との連携を併せて進めていく必要を感じています」

水島:「スタートアップの隆盛は、知財戦略を考えるきっかけに過ぎない。従来の買収や下請けという枠組みであれば、特許や知財は考えなくてもよかった。今の社会は、自社内で完結することは少なく、複数の会社が事業にかかわることが基本になってきている。第3者との利益の配分をどうするのかが重要になっている。助け合いは大事だが、なぜ助け合いができないのかは、リスクとリターンの線引きができていないから。契約書を曖昧にしたままで協力すると、どっちかが割を食う。協力のモチベーションを生むためも、知財戦略の重要性を改めて考えていく必要があるでしょう」

 日本の強みは、数多くの大企業、中小企業、スタートアップが存在し、いずれの企業も要素技術に長けていることにある。海外と戦うには、それぞれをうまく連携させて、強い事業を生んでいくことが重要になってくる。それぞれの立場で、お互いの強みを生かしていけるように、より進歩的な知財戦略が展開されることを願う。

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