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着実な進化を感じたチ・カ・ホでの VR展示の数々

VR化が目的の時代から、VRを活かしたコンテンツづくりの時代へ

2018年10月25日 09時00分更新

 10月10日~14日まで札幌市内各所で開催されたNo Maps2018。見所のひとつとして、市民が最新テクノロジーに触れられる多くの展示ブースが昨年に続き、札幌駅前地下歩行空間、通称「チ・カ・ホ」で並んだ。今回の展示を見ていて感じたのは、VRやAI、機械学習などのテクノロジーが手段として消化されつつあるということだ。すべては取り上げられないので、ここでは最も進化を感じたVR分野のブースをピックアップして紹介したい。

VRならではの移動、視聴体験ができたANAの「BEYOND TOKYO」

 昨年のチ・カ・ホ展示では、VRやAIを使った展示が目に付いた。特にVRについては、手持ちのコンテンツをVR化してみた、という印象を与える展示が多かった。VR化自体が目的になっていたのだ。しかしNo Maps 2018で受けた印象は、大きく異なっていた。VR化そのものが目的ではなく、VRでしか提供できない体験を届けるなど、テクノロジーが正しくコンテンツ内で消化されていることを感じた。

 広いブースでVRならではの体験ができたのは、ANAの「BEYOND TOKYO」だ。外国人向けに、渋谷を中心とした東京の街を紹介するコンテンツをVRで提供している。街をぐるりと見渡せたり、移動した先で渋谷や日本にまつわる説明を聞くことができる。これはすでにHTC VIVE向けに販売提供されているコンテンツだが、手持ちのコンテンツをとりあえずVR化したものとは一線を画す出来になっていた。VRを念頭に置いた素材作りから、VRならではの移動、視聴体験までしっかりと考えられている。

札幌にいながら東京へ旅立った筆者

 面白いと感じたのは、より良いVR体験を届けるためにコンテンツはどうあるべきか。それをテクノロジーの視点ではなく、コンテンツ消費の視点で考え、試行錯誤している点にあった。たとえばある地点では、街の景色の静止画とともに説明ナレーションが流れる。ほかのある地点では、街にくわしい人がすぐ隣を一緒に歩きながら、街について説明してくれる。タレントが街を歩きながら紹介するテレビ番組は珍しくもないが、VRでは自分のために街を案内してくれるという感覚に陥る。没入感の違いや、マスメディアとは違ったコンテンツづくりの視点があってこそだろう。

 VR化して満足するのではなく、コンテンツとして、体験としてより良いものを目指していることを目の当たりにし、VR化自体が目的だった時代は過ぎたのだと実感した。

美女に原宿を案内してもらう筆者

VR向けゲームでも進化の気配を実感

 VRコンテンツはそのほかのブースでも展示されていた。その中でも筆者が実際に体験してみて面白いと感じたのが、あまた株式会社が展示していた『Last Labyrinth(ラストラビリンス)』という脱出ゲーム。自由に動き回れる、多様な操作ができるのがVRコンテンツのメリットだと思っていた筆者の思い込みを、打ち砕くコンセプトが衝撃的だった。

 展示ブースにいた担当者いわく、「引き算で作ったゲーム」だという。プレイヤーに許された自由は、上下左右を見回すことと、たったひとつのボタンを押すことだけ。歩き回るどころか、手を自由に動かすことさえできないのだ。それでいて、没入感はとても強い。暗所や閉所が苦手な人は、途中でゴーグルを投げ出してしまうかもしれない。なにせ、腕さえ動けない状態で車椅子に縛り付けられ、知らない部屋に少女とふたり、閉じ込められているという設定なのだから。

 隣に展示されていたDeNAの『VOXEL』も、少女とともに行動するという点は同じ。しかしこちらは180度逆のコンセプトといってもいい作品で、少女とコミュニケーションをとりながら冒険するアドベンチャーゲームだ。

ゲームコンテンツが2つ並んだブースで、それぞれ大きく異なる体験ができた

 将来やってくる5G技術とともに、NTTドコモでもVRコンテンツの展示を行っていた。NTTドコモが展示していた「VRフェンシング」は、北京、ロンドンとオリンピックで銀メダルに輝いた太田雄貴選手とフェンシングで試合ができるというもの。こちらは、VRならではの自由な動きを存分に活かしたコンテンツだが、その先の展望が面白かった。5G通信が実用化すれば、離れた場所にいる友達とリアルタイムで対戦したり、観戦したりできるようにしていきたいというのだ。こちらもVRありき、5Gありきではなく、それぞれの技術をベースにして、フェンシングという気軽には体験できないスポーツを楽しめるコンテンツづくりが肝になっている。

フェンシングも有名選手との対戦も現実ではハードルが高いが、VRと5G通信があれば夢が広がると実感

 VR化自体が目的だった頃には、VRコンテンツの展示といえば似たようなものばかりだった。ある空間を歩き回り、見て、触れる仮想体験。それ自体は技術習熟やテクノロジーの普及に欠かせないものだが、いまはその次のステップに進んでいる。先に紹介したANAのBEYOND TOKYO、そしてここで紹介したゲームなど、それぞれにVRを手段のひとつとして取り込みつつ、良質なコンテンツづくりを目指している。その結果、使用機器や技術は同じでも、得られる体験の幅が大きく広がっていた。

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