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音の仕組みを体験

上野優華「音の生まれる場所」を体験、オーディオテクニカ本社

2018年08月03日 17時00分更新

電気を物理的な動きに変える、これがドライバーの味噌

 まずは、ヘッドホンがどんなふうに出来上がっているかの説明を聞いてみましょう。お話はオーディオテクニカ マーケティング部の松永貴之さん、國分裕昭さんにお伺いしました。

國分 これが分解した製品になります。大きく言うとヘッドホンはハウジング、バッフル、ドライバーユニット、イヤーパッドなどの部品から構成されています。この中でドライバーは音が鳴る部分です。よく車にたとえられるのですが、ドライバーは言うならばエンジンに相当する部分、ハウジングは外装やボディー、イヤーパッドはシート。バッフルはシャーシでしょうか。

上野優華 シャーシ??

國分 車を支える骨組みの部分です。車と同じで丈夫で軽い方がいい。同様にエンジンは駆動力が高い方がいいし、シートもふかふかで快適な方がいいですよね。さらにドライバーユニットを分解したものも持ってきました。全部ではなく一部を間引いているのですが、ここも複数のパーツからでき上がっています。

 ドライバーを後ろ(耳に遠い側)から順にみていくと、クランパーなどと言われる土台、ヨークとマグネット(磁石)、ボールピースやボイスコイルなどがあります。この連載で過去にハンダ付けに挑戦したとお伺いしたのですが。

上野優華 はい、やりました!

國分 ボイスコイルから伸びている線がヘッドホンのコード。つまりハンダ付けしたケーブルにつながっているんです。

上野優華 この細い線がケーブルに……ですか?

國分 はい。これをたどっていくとコードになるんですね。そしてより耳に近い位置に振動板やプロテクターがあります。上野さんは「フレミングの左手の法則」という言葉を聞いてことがありますか?

上野優華 あ~っ。世の学生が習うというアレですね!?(笑)

國分 100年以上前に発見された、力が作用する法則です。肝は「コイルの近くにマグネットを置くと、ある方向に力が生じて動く」というものです。具体的には、音楽プレーヤーからケーブルを伝わって流れてきた信号をコイルに流し、その中にマグネットおくと力が発生します。逆にコイルの近くにマグネットを置くと、電流が流れます。

上野優華 はい……。

國分 考え出すと夜も眠れなくなってしまうかもしれませんね。電磁力、つまり電流と磁力の働く向きと垂直に力が発生する。この垂直に動くものがヘッドホンでは振動板になります。例えば導線で輪っかを作り、その中で磁石を抜き差しします。すると、それだけで導線に電気が流れます。これを応用したのがダイナモです。

上野優華 ダイナモ(ぽかーん)。

國分 自転車のライトを照らす発電機のことです。

上野優華 なるほど。理解しました!

國分 発電機は動きを電気に変えますが、その逆で電気を動きに変えることもできるんですね。実は身の回りには、この性質を応用したものが意外とたくさんあるんですよ。構造としてはシンプルですが、それゆえに簡単には壊れないのがヘッドホンの特徴ですね。

上野優華 (ドライバーを見ながら)ヘッドホンはよく使いますが、ここから音が出るなんて、普段考えたこともなかったです……。

國分 音は空気の振動です。振動板が震えると鼓膜に空気が伝わって、音を感じます。オーディオテクニカでは、振動板を自社で開発しているのですが、製品によって素材や硬さを変えています。この振動板の裏側には、ボイスコイルという部品が張り付けてありますが、今は分離させています。

 振動板に使う素材として、最も一般的なのはペットボトルに使うPET材を薄くしたものです。触るとポコポコしていて、プラスチックのような感触だと分かると思います。この厚みやコーティング、場合によっては形成するパターンを変えることで音を調整するんです。

上野優華 なるほど。振動板が厚くなるとどう音が変わりますか?

國分 厚くすると振動板の重みが増すので、低域が強く出せると言われています。ただヘッドホンの音は振動板だけで決まるわけではなく、あくまでも一般論ですが……。音作りの作業は大変で、振動板ひとつとっても、いろいろな工夫の上に成り立っています。厚さ、硬さ、大きさ、そして真ん中にあるドームの形状などを変えて試す、地道な作業が必要です。

上野優華 この小さなパーツだけで音が変わっていくのですね。なかなか想像が難しい世界です。ここから音が出るのかぁ……。(スタッフに)音楽を聴いているとき、これが震えているなんて想像したことあります? なかなか思わないですよね。分解してみないと。

國分 ちなみにマイクはヘッドホンと逆の動きをしています。この振動板が動くと、それがコイルに伝わってそこから電気が発生します。

上野優華 ということは、マイクの中にもヘッドホンの振動板やボイスコイルと同じものが入っているってことですね。え~!? あったかなぁ(笑)。

國分 はい。もっと小さなものになりますけどね。ここでは最もよく使われている「ダイナミック型」と呼ばれるヘッドホンの仕組みを中心に説明しました。磁石とコイルの原理で音を鳴らすものです。

 一方ステージ上でよく使う、インイヤーモニターでは、バランスド・アーマチュア型という異なる仕組みのドライバーがよく使われます。これはかなり小さな金属の塊で、もともと補聴器向けに開発されたものであるため、小型で耳の中に入れやすい形状になっています。音域は狭いんのですが、繊細な音の表現が得意だと言われていますね。だから帯域を確保する(低音から高音まで鳴るようにする)ために、小さなユニットを何個も使う場合があります。低域・中域・高域などに分けて、それぞれ別のユニットを使うんです。

上野優華 イヤモニ。私もライブで使っています!

國分 これ以外にも「コンデンサー型」という一部の高級機種にしか使われていない方式がありますね。この音じゃないと聞きたくないというぐらい、熱狂的なファンが多い方式ですが、難点は普通のプレーヤーに接続するだけでは音が出せないこと。高電圧をかけるアンプが必要になる点です。

上野優華 なるほど。気軽には聴けないけれども、それだけの価値がある製品と言うことですね!

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