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麻倉新レーベル、何で作ったのか聴いてきた

まさかの転身? 麻倉先生はなぜ評論家から音楽プロデューサーになったか

2018年01月08日 13時00分更新

アルバムジャケットの制作一つとっても試行錯誤の結果。採用されたのは上段中央だが、色調を変えたものを複数用意して決めた

UHQCD盤のリリースに合わせて最適なEQを再検討

 もちろん音楽だけでなく、音としての完成度にも注意を払っている。

 CD盤が使用する「UHQCD」は、大手レーベルの採用例も増えている最新の高音質CDだ。CDでは盤面にレーザーを当てて読み取る信号を読み取るために、小さな穴(ピット)を打ち込むが、これまでの製造方法や材料では、その型になるスタンパーの凹凸を完全伝えることができなかった。そこで、スタンパーと土台となるポリカーボネートの間に、流動性の高いフォトポリマーという素材を流し込むようにした。フォトポリマーは通常は液体。スタンパーの微細な溝まで素材を流し込める。これに光を当てると硬化する。結果細かいピットまで精度よく転写できるという理屈だ。

 またUHQCDでリリースするにあたって「最適なマスタリングは何か」も議論したという。開発元のメモリーテックからの提案もあり、EQで高域を強調したAカーブ、低域を強調したBカーブ、フラットな特性のCカーブの3種類を試作した。一般的なCDではAカーブを利用することが多いそうだが、試聴したところ関係者全員一致でCカーブが一番優れているという結論に至ったという。

 UHQCDは帯域が伸びて、ダイナミックレンジが広いので、CDに比べて音の加工がそのまま強調されやすい。素材の特徴をそのまま生かすことが重要で、逆に下手に調整してはいい効果が出ない点が分かったという。なお、リリース予定のUHQCDについては、イベントや視聴会でも何度かデモしているが、来場者に聞いた場合でもCカーブが選ばれる場合が圧倒的に多いのだという。

麻倉 「もちろんオーディオ的な側面にも力を入れています。ただ、世の中に出回っているオーディオ用のチェックCDというと、音の部分だけにフォーカスが当たりすぎているきらいがあります。まず音楽が良くて感動する。その上で音を聴いても感動する。こういう二重の感動が得られる点を重視していきたいと思いますね」

話題のMQA版の投入にも意欲満々

 エトレーヌは通常のハイレゾ配信に加えて、MQA版のリリースも検討中だという。MQA版を制作するためには、音源をMQAに渡してエンコードしてもらう必要があるが、すでに完了しているとのこと。176.4MHz/24bitをMQAでエンコードした音源さえあれば、あとの工程はCDを作るのと変わらないため、MQA-CDの制作にも興味があるという。

MQA音源を再生してみた

 取材では麻倉氏自宅の試聴室で、FLACとMQAの違いを聞き比べさせてもらった。192kHz/24bitの音源とは異なり、付帯音が減ってきれいに整えられたというか、音の動きがより明確に伝わってくる印象があった。CD、MQA、FLACで異なる印象を感じさせ、好みも出てくると思うので、聴き比べてみるのも面白いかもしれない。

 ちなみに麻倉氏はMQA版の音源を制作している途中で、面白いことに気付いたという。

 ちょっと補足が必要だが、MQA音源はMQAデコードに非対応のDACやCDプレーヤーとの互換性も配慮されている。こうしたプレーヤーでMQAの音源を再生した場合には48kHz/24bit(MQA-CDの場合は44.1kHz/16bit)のリニアPCMデータとして認識される。さらにMQAデコードに対応したプレーヤーを使えば、音楽の折り紙をほどいてさらに96kHzや192kHz(MQA-CDの場合は88.2kHzや176.4kHz)のデータにデコードされるのだ。

 つまりMQA-CD用にエンコードしたトラックを通常のCDプレーヤーでかけた場合、通常のCDと同じ44.1kHz/16bitのCD-DAトラックとして認識される。しかし普通に44.1kHz/16bitで制作したトラックとは違っていて、器の大きさは同じでも聞き比べると音に違いが出るという。

 CD-Rに焼いた音源をOPPOのBDプレーヤー(MQA非対応の機種)に掛けて再生してもらったが、確かに打楽器の立ち上がりの良さであったり、ベースなどの見通しの良さ、ハイハットやスネアのざわつきの少なさなどに差があった。

 麻倉氏の考えでは、MQAには時間軸に対して正確な再生を行うため、A/D変換時、音の前後に発生するリンギングノイズなどを除去する処理(Deburring)を加えている。「その効果がCDプロパーとしても出ているのではないか」とのことだった。

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