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Imagine Cup World Finals 2017レポート前編

東大、東工大が挑戦 世界最大の学生ITコンテスト MS“Imagine Cup 2017”本戦レポ

2017年09月05日 09時00分更新

 2017年7月24日、25日の2日間、米マイクロソフトが主催する学生ITコンテスト“Imagine Cup World Finals 2017”がアメリカ・シアトル本社で開催された。今年で15回目の節目を迎えた同コンテストには、自国の国内予選を勝ち抜いた世界39ヵ国54チームのファイナリストが集結した。日本からは東京大学大学院と東京工業大学のチームが出場し、ワールドチャンピオンを目指して熱い闘いを繰り広げた。本稿を前編として、後編と合わせてその様子をレポートしよう。

左からTeam NeuroVoice(東京大学大学院)廣畑 功志さん、早川顕生さん、佐藤邦彦さん、Team TITAMAS(東京工業大学)佐々木俊亮さん、山崎健太郎さん、岩瀬駿さん

優勝賞金10万ドル! 過去最大規模で開催した15周年のImagine Cup

 Imagine Cupは、IT人材育成に注力するマイクロソフトが長年に渡り続けてきた学生のためのITコンテストだ。国際競争力ある人材育成を目指して、2003年にマイクロソフト創始者ビル・ゲイツ氏が始めたもので、これまで参加した学生は、世界190ヵ国のべ200万人を突破した。

 テクノロジーを駆使して社会の課題解決に役立つソリューションや、新たな価値を提案するプロダクトを創造し競い合うことで、学生が技術力を高めながら成長できる場を提供している。

Imagine Cup 15周年を祝して、今年は優勝賞金10万ドルに

 今年のImagine Cup世界大会は、15周年の節目を祝して、優勝賞金が10万ドル(日本円約1100万円)へと大幅にアップ、加えて12万ドル分(日本円約1320万円分)のAzure Grantも用意されるという過去最大規模で開催された。また、大会の中身も一新され、これまで設けられていた「ゲーム部門」などのカテゴリーを廃止し、代わりに「世の中にインパクトを与える革新的でクリエイティブなソリューションやサービス」に絞られた。さらには、エントリーするすべてのソリューションやサービスは、Microsoft Azureを使用することがルール化され、審査基準も技術力をより重視する方向へとシフトした。

 日本からは、ディープラーニングを用いた音声変換システムを実現したチーム“NeuroVoice”(東京大学大学院)と、視覚障がい者向けスマート白杖デバイス開発したチーム“TITAMAS”(東京工業大学)が国内予選を突破し、シアトルでの世界大会に出場した。

東京大学大学院は、ディープラーニングを用いた音声変換システムで勝負!

 大会初日は第一次審査があり、全54チームで闘うTech Showcaseからスタートした。各チームは、ブースを訪れる3名の審査員に対して、それぞれ制限時間10分以内でプレゼンやデモを披露する。もちろん、審査員からの質疑にも対応しなければならないが、学生と審査員がソリューションについてカジュアルに対話をするような形で審査された。

Tech Showcaseの様子

 東京大学大学院のチーム“NeuroVoice”はテキストを音声に変換するのではなく、音声から音声へ、より自然で流暢な音声変換を実現したシステム『NeuroVoice』を発表した。同システムは、音声の生成モデルにディープラーニングを用いることにより、音声の最小単位である音素を学習することで、人の声が持つ独特のイントネーションや発音の特徴を再現可能にしている。チームNeuroVoiceでは、ビル・ゲイツ氏の発言をヒラリー・クリントン氏やマイケル・ジャクソン氏の声に置き換える動画を作成し、審査員にシステムの魅力を伝えた。

 NeuroVoiceは、Speech Recognition(音声認識)とConversion(変換)という深層学習の技術を用いて、他の手法よりも10倍以上のスピードで学習できることが特徴だ。同システムは、今まで解決できなかった音声の波の変形における演算課題を乗り越えただけでなく、より多くの人が使えるようにAPIという形でサービスを提供した。ゆえにサービスを展開するうえで、Microsoft Azureを使うことは、セキュリティー、スケーラビリティ、拡張性などの課題に対して充実したインフラ環境で対応できる。同チームのメンバーはMicrosoft Azureについて「直感的な操作が可能なインフラを利用することで、開発者は開発工数を圧縮できることがメリットだ」とAzureを使用した経緯を語る。

東京大学大学院のチーム“NeuroVoice”、Tech Showcaseの様子

 ビジネス面では、近年の音声認識サービス市場における需要の高まりをアピールした。映画の吹き替えや替え歌、ゲームなどのエンターテイメント、チャットやロボットなどのコミュニケーションツール、言語障がい者の支援など、幅広い活用を見込めるという。しかし、第一次審査の結果は、残念ながら次の闘いに駒を進めることができず、東京大学大学院のチーム“NeuroVoice”は、ここで敗退となった。

1次審査を突破した東京工業大学は、視覚障がい者向けスマート白杖デバイスで勝負!

 一方、東京工業大学のチーム“TITAMAS”は第一次審査を突破し、クォーターファイナルに勝ち進むことができる32チームのひとつに選ばれた。クォーターファイナルは、5分のプレゼンと5分の質疑応答による闘いで、ここでは8チームまで絞られる。

東京工業大学のチーム〝TITAMAS”、クォーターファイナルの様子

 チームTITAMASが開発したのは、視覚障がい者向けスマート白杖デバイス『Walky』だ。通常、視覚障がい者は、白杖で足元の危険を知ることはできるが、路上駐車のトラックや高い位置にある木の枝など、目の前の物体を把握することが難しいという課題を抱えている。そこでWalkyでは、カメラと超音波センサーを用いて、目の前のどれくらい先の距離に、どのような障害物があるのかを検知し、指向性スピーカーを通して利用者に知らせてくれる白杖デバイスを開発した。メンバーの従兄弟が視覚障がい者であり、同様の課題を知ったことが、開発のきっかけになったという。

東京工業大学のチーム“TITAMAS”が開発した視覚障がい者向けスマート白杖デバイス『Walky』

 Walkyの特徴は、Raspberry PiとMicrosoft AzureのCognitive Servicesが提供するAPIを使って、誰もが作りやすいシンプルなデバイスを実現したことだ。超音波センサー及びカメラから取得した画像をComputer Vision APIでリアルタイムに解析し、その認識結果で得られたテキスト情報をBing Speech APIを用いて音声に変換し、利用者に障害物を知らせるという仕組みである。指向性スピーカーを使用するため、周囲にも迷惑をかけず、利用者にだけ危険を通知することや、APIを活用したシンプルな設計であることでスケールしやすい点を審査員にアピールした。

東京工業大学のチーム“TITAMAS”、一次審査の様子

 審査員からは、「製品化したときの販売価格はどれくらいを想定しているのか?」、「バッテリーの耐久時間は?」、「通信環境の安定性や画像認識のスピードはどのようになっているのか」など、ユーザー側に立った質問が投げかけられた。Imagine Cupでは、技術力もさることながら、プロダクトがアイデアで終わらず、いかに社会で受け入れられるのかを説明できなければならない。チーム“TITAMAS”は、ひとつひとつの質問に丁寧に答えたものの、クォーターファイナルの結果発表では、同チームの名前は呼ばれず、ここで敗退となった。

日本代表チームの共通課題は、実現可能性

 東京大学大学院のチーム“NeuroVoice”と東京工業大学のチーム“TITAMAS”のメンバーは、自らの闘いを振り返って、英語によるプレゼンテーションは練習どおりの実力を発揮でき、出来栄えにも満足だと成果を語った。Imagine Cupにおける日本代表チームは、毎年、英語のプレゼンテーションが課題であったが、今年は両チームともに英語を流暢に話せる学生がメインのスピーカーを務めたことも大きい。

Imagine Cupの参加国の多くは、英語が母国語ではない国がほとんど。伝わる英語でプレゼンできるかは勝敗に大きく影響する

 一方で、チームが敗退した原因については、両チームともにフィージビリティ(実現可能性)に欠けていた点を挙げた。というのも、今回のImagine Cupは多くのチームが課題解決型のソリューションやサービスをすでに市場でサービスを展開していたり、企業や他の組織とパートナーシップを組んで実証実験を始めているものが多かったからだ。

「すでに市場にサービスをリリースして、具体的な数字やユーザーの声、使用前、使用後の違いなど、説得力ある言葉で伝えることが重要だと感じた」、「テクノロジーで課題解決するだけでなく、社会に対して課題を解決していく姿勢も問われていると感じた」 (NeuroVoice)、「プロダクトの完成度にこだわってしまい、とりあえず使ってテストをする、ユーザーに使ってもらいながら改善するといった部分が足りなかった」「海外のチームは、どのチームも当事者意識が強くパッションがあった」(TITAMAS)など、自分たちが開発したソリューションやサービスが、実際に社会でどのように受け入れられているのかを、より明確に示す必要があったと分析した。

 セミファイナルや決勝に進んだチームと日本代表チームを比較すると、筆者もこうした点が敗因として挙げられると考える。勝ち進んだチームは必ずしも、技術力やアイデアに優れたソリューションを発表しているわけではなく、どちらかといえば、誰もが思いつくような課題解決を、今あるテクノロジーの組み合わせで実現している。肝心なのは、そこから先で、多くのチームは開発の早い段階から、実証実験などを通してユーザーとの接点を持ち、生の声に耳を傾けながら試行錯誤を繰り返していることだ。その規模も企業や組織と組むなど、学生といえど、より実社会の反応が得られやすい環境で開発を進めていることがプレゼンの様子から伝わってきた。日本では、学生であればざん新なアイデアを持っているだけで評価される傾向もあるが、そうした状況から抜け出す必要があるといえる。

■関連サイト
Imagine Cup

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