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Astell&Kernの新フラッグシップ機が国内発表

高級ハイレゾ機の頂点を更新した「A&ultima SP1000」の魅力

2017年06月16日 11時00分更新

AK380 SSと比較試聴してその質の高さを実感

 取材では、A&ultima SP1000(ステンレス版)のサウンドも確かめた。手持ちのIEM(JH Audioの「Michelle」)を持ち込み、アンバランス接続で、宇多田ヒカルの人気曲「花束を君に」(96kHz/24bit)を聴く。

 一聴して、感じたのは「スゴイの一言」。

 音の透明感と雑味のなさ。そして音が軽々と立ち上がり、おおらかに抑揚をつける余裕感など、ポータブル機でこれまで聴いたことのない水準だ。その再生能力の高さには舌を巻く。何より感心したのは、音像が頭のど真ん中に気持ち悪いぐらい正確に定位すること。左右の音の位相がピッタリと合うためだろう。ここまでハッキリと音像が定位するのをイヤフォンで感じた記憶はない。

KANNおよびAK380SSとのサイズ比較

 比較用に用意されていた。AK380SSも同じ組み合わせで聴いてみた。

 筆者は以前、AK380の各モデルを順番に試聴したことがある。AK380SSのサウンドは硬質でゆるみなく、完ぺきに研ぎ澄まされていると感じたが、そのサウンドですら、音の濁りやノイズ感があり、「多少の暴れがあるサウンド」だったと認識する。SP1000のサウンドは、このぐらい驚かされる精度とクオリティーの高さを感じさせるのだ。

 S/N感の高さは、曲前半の音数が少ない部分でも分かる。声の余韻や微小な揺らぎなど、素材のニュアンスがひしひしと伝わってくるが、ヘッドルームを広くとっても、微小な音がノイズに埋もれず、より細かいディティールや質感まで聴かせるためだろう。例えば30秒付近の「はぁー」とSE的に入る声のリアルさ。これひとつとっても異次元に入った感覚だ。

 AK380SSになく、SP1000にある要素としては、音が柔らかくほぐれる点がある。AK380SSは高解像度かつワイドレンジだった反面、硬質さや冷徹さを意識する面もあった。SP1000の響きは深くて豊かである一方で、よどみがない。音の柔らかさ滑らかさと解像感が両立していた。

 ドライブ能力に関しても「余裕感がある」のひとこと。1:00過ぎの間奏部で楽器の数が増えてくると、その実力が分かる。よりにぎやかに音数が増えても、一切の破たんがない。出力はAK380より上がっているが、単に大きな音が出せるというわけではなく、うまい歌手が腹式呼吸と腹筋を使って声を出すように、音の強弱を適切かつゆとりをもってコントロールしている感じであった。

 S/N感の高さや解像度、透明感の高さは、AK380SSの特徴でもあった。実際筆者も過去の記事でAK380SSのサウンドをすごいと書いている。改めて読むと、SP1000のインプレッションでも、そのときとほぼ同じ表現を繰り返している。しかし、その水準はより一層、上の次元に到達した。

 SP1000のサウンドを聴くと、AK380SSのタイトな低域ですら、ぼんやりとすこし不明瞭で、量感を少し誇張しているように感じてしまう。これはもちろんAK380SSの性能が低かったということではない。SP1000の完成度が、正直言ってすごすぎるのである。

本体は木製ケースに入れて出荷される

カッパー版のバランスの良さも捨てがたい

 さて、実際に購入を検討している人にとって、SP1000のステンレスモデルと銅モデルのどちらを選ぶかは、本当に悩ましい選択だろう。

 試聴機があったため、サンプル版のA&ultima SP1000(カッパー版)も聞いてみた。筆者はこれまでの機種では、銅とステンレスでは断然ステンレス派だったのだが、SP1000では銅のサウンドにかなり心を惹かれてしまった。特にハードロックとの相性は抜群で、ボン・ジョヴィの「Because We Can」などを聴くと、スケール感の大きさ圧倒されてしまう。

 これまでステンレス版を支持していたのは、ずば抜けた情報量と解像度の高さが理由だった。しかし、SP1000ではこれらに不足がない点もあり、カッパー版の安定感のある低域のバランスが絶妙に感じられた。

 ちなみにカッパー版は試作機で、同じ音量設定でもステンレス版に比べて音圧感がかなり増していた。これは特性の違いなのか、試作機だからなのかは不明。少し気になった部分ではある。

 その後、ステンレス版に戻して、さらにDSD 11.2MHzのソースとして交響組曲AKIRAから「金田」を聴いたが、音の濃さ、空間の密度感、そして激しい移動感がすさまじい。

 さらにクラシックの名曲イ・ムジチの四季から「冬」(192kHz/24bit)を聴いたが、こちらも音色の美しさと華やかさがとても魅力的だった。

 SP1000を聴くと、ハイレゾ音源が持つ情報量の再現には、これまでの最高級クラスの製品でもまだまだ不十分な面があったのだと実感する。特に位相の正確さ、セパレーション、そしてS/N感の高さで、SP1000は群を抜いている。ハイエンドを追い求めていきたいと考える人に対して、またひとつ楽しみで、(価格面では)悩ましい存在が登場した。

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