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VAIO安曇野工場で、品質試験のこだわりを知る

VAIOが品質管理に取り入れた独自の基準とは?

2017年06月13日 09時00分更新

満員電車で押されても大丈夫な加圧振動試験

 満員電車のお客さんがノートPCをリュックなどに入れて乗った際、割れたというケースがあり、それに耐えられる製品を目指すべく導入された試験。「満員電車ってどのくらい圧力がかかるか意外とわからないですが、実際に感圧紙をノートPCの間に挟んで、中央線などの満員電車にのって調べた結果、150kg/重以上ということで、その設定で試験をしています」(海口さん)。

 圧力だけでなく、電車では振動も加わるため、ランダム にいろんな周波数で揺れるようにして試験をしている。これを1時間ぶっ続けで行ない、試験したあとにきちんと動作することが条件。動かなければパスできないそうだ。発表会でノートPCの上に人が乗るパフォーマンスを見せているが、理論上は150kgの人が乗っても壊れないということになる。

↑圧力+振動を与え続ける試験。理論上は150Kgの人が乗っても壊れない設計で、これらをパスしないと製品化できない。動作音はかなりうるさい。

中身だけに働く衝撃試験

 先ほどの落下試験と違い、外に衝撃を加えるのではなく、中に衝撃を与えるもの。製品を挟んで、挟んだ機械ごと下に落ちるので、外観は凹むこともなく大丈夫だが、中身に120Gから200Gほどかかるという。作用は正弦波で、圧力が3msかかるようになっている。ほかにも何秒間か作用する矩形波もできる。

 「先ほどの落下試験と違い、中身に正確な衝撃を瞬時に加えられるため、故障した場合、同じ条件で再現試験ができるので故障の原因が突き止めやすいんです。試験するたびに違う結果では、OKかも出せなくなります」(海口さん) 。

↑ACアダプター(コンセント差し込み式)がぶら下がっているのは、どのくらい衝撃を与えるかわかりやすくするため。これが外れるぐらいの衝撃を与えている。

日本の家庭に多いホコリによる試験

 角衝撃試験と同様、オリジナルで開発した、綿ホコリをかける試験。よくある「防塵」というのは粉塵試験で、砂埃での試験になる。国際規格としてあるので、関東ローム層の砂を使ったりするそうだ。しかし、このホコリ試験は、室内を使うことを想定していて、こたつとか寝室とかで使うと出る綿ホコリでの耐性を計測するもの。ノートPCにはファンがついているので、そこから吸い込んだ綿ホコリが詰まってしまうというクレームが来たことから、この試験機を作ったという。「規格品ではホコリを扱ったものは売っていなかったので、ソニー時代から埃試験含めこだわりを持って実施しています。中に入っている綿的なものの成分は秘密ですが、何種類かを混ぜて特注で作っています」(海口さん)。

 いろいろな状態で置いて試験し、最後に設計の方と分解して、変なところに詰まっていないか確認しているという。市場からもどってきた製品と見比べて判断した結果、2時間やることで、およそ1年分のホコリを吸い込んだ想定になるそうだ。

 「ただし、タバコは無理とのこと。タバコのヤニは詰まってしまうとくっついてしまい、ベトつくため、できれば禁煙ルームで使っていただきたいですね」(海口さん)。ちなみに筆者も飼っている猫の毛はどうかと聞いたところ、短毛なら大丈夫というお墨付きをいただいた。

↑ホコリを単に舞い上がらせても、隙間に入り込まないそうで、一番上のノズルからエアーを吹き付けることで、穴を塞いだホコリを払い、中に入りやすくしているという。開発には1年を要したそうだ。

100万回押しても大丈夫な打鍵試験

 キーボード部分は、メーカーが制作しているため、そちらでも打鍵試験はやっているが、製品としてセットした状態でもやらないと意味ないということで、100万回叩いても大丈夫化試験をしている。流石にすべてのキーを試験はしていないが、スペースキーやEnterキー、Fキーなど一番押されるキーを試験しているという。

 「この試験機の特徴は、機械自体が持ち運び可能なため、さきほどの恒温恒湿室に持ち込んで試してみたり、ホコリ試験のなかにも入るので、動かしながら試してみたりということもできます。キーボードは100万回叩いても持ちますが、試験機のシリンダーのほうが持たないので絶えず交換してますね」(海口さん)。

 1秒間に6回叩く設定なので、100万回というと46時間以上かかる計算になる。強さは調整できるが、強めに叩いていて、エアーではなく、電磁シリンダーを採用している。エアーだとばらつきがあるためダメだそうだ。

↑電磁シリンダーを利用した打鍵試験機。持ち運びができるサイズなので、恒温恒湿室内やホコリ試験機内に入れて複合試験も可能。写真はVAIO株式会社提供。

デザインと堅ろう性のバランス、使い勝手を求めて

 ほかにも、漬物石が置いてあり、何に使うのかと思ったら、梱包試験でパレット積みしたとき、一番下の箱に掛かる荷重を考えて箱の上に載せるためだそうだ。保存試験もあり、重しを載せて恒温恒湿室へ入れて、潰れないかどうかを見る。船底は高温多湿になるので、輸送中にも耐えられるようにしているとのことだ。

↑重しを乗せて、荷重がかかった状態でのテストも実施。あらゆる想定をしている。

 また、キートップの印字や塗装などに関しては、部品の段階で、各メーカーと協力して様々な試験を行なっているという。「ヒンジ部分の開閉試験も、部品段階でやるべき試験を行なっているが、ひたすら開閉するという試験はここでやっています。いまは自動できるようになりましたが、以前は、手で開閉試験していたため大変でしたね」(海口さん)。交代で行っていたそうだが、手が腱鞘炎になりそうだ。

 いまでも手作業なのが、各ポートの抜き差し試験。これは、薄さとの戦いでもあるので、指し手加圧ももちろんやっているという。「これらの規格はVAIOが独自に設定したものです。PC業界には標準規格のようなものはありません。すべてはお客さまの安全性を考え、データが確実に守られるためのもの。もちろん壊れにくいことも重要です。これらの試験をクリアできなければ、出荷できません」(海口さん)。

 VAIOとしては。堅ろう性がいくら高くても分厚かったら意味がない。お客さまが使いたい商品でありながら堅ろう性の高いものを提供し、実使用をイメージして長く快適に使ってもらえるような視点で開発している。最初に話したように、カスタマーサービスも工場内にあるので、毎日お客様の声を聞いているそうだ。その声を聞き、それに耐えられる製品を日々考えて反映しているという。

 ソニー時代から変わったことは、対応の素早さだという。「ソニーは大きかったので、改善するとしても数ヵ月後でとか、次のモデルでとか、動きが取れませんでした。VAIO株式会社になり、こじんまりとなったことで、細かいとこまで聞いてもらえるようになりました。そのため同じ製品でもキーボードのフィーリングを替えてみようとか。ちょっとずつ進化している部分もあります」

 「大事にしているのは、規格をクリアすると言うのは当たり前で、使い勝手やフィーリングといったお客さまに納得してもらう製品作りをしなければなりません。お客様の声は設計へダイレクトに反映していますので、素早い対応ができていると思っています」(海口さん)。

↑ソニー時代から知る海口さんは、小さな会社になったことで小回りが効くようになったと語った。

 今回取材して感じたのは、想定外のことをされても、それに対して真摯に受け止め、耐えうる製品を開発しているVAIOの心意気だ。「精密機械なんだからそんなことしちゃダメでしょ」と受け流すのではなく、新たなハードルを設けてクリアしてくる。細かい部分に対しても気を配る。そんな姿勢が、VAIOが愛されている理由なのだと思う。

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