週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

ドコモ39階で何が起きているか? オープンイノベーションで挑むハードウェア創造手法

ドコモ39worksとパートナー企業の取り組みが面白い!爆速のIoT/ハードウェア開発に迫る

39worksの事業でも必ずしもドコモの看板を付けるわけではない

 39worksの各事業では、表向きのサービス提供者がどこになっているかの違いがある。例えば、「ここくま」はドコモからではなく、イワヤから出している。

 「ドコモブランドで出すと、ある程度の販売数は見込めますが、ドコモユーザーしか使えないと勘違いされる可能性があります。ここくまは、MVNO事業者含め、キャリア関係なく使えます。日本全国の家族に届けたいという思いで判断しました」(横澤氏)

 「『神戸市ドコモ見守りサービス』は、神戸市がお客様向けの窓口前面になって、サービスとしては神戸市とドコモの共同ということでやっています。検知ポイント130箇所、協力者1000名で、48事業者が関わっているんですけど、やっぱり自治体さんが中核となって呼びかけているからみなさん賛同してくれると言う構図があります。社会課題解決と言う意味では、一民間事業者でのみでやってしまうより、自治体と一緒にやるのが正しい姿かなと思いました」(加納氏)

 「PeasyをBtoBで扱うときは、『docomoスマートパーキングシステム』という名前で、ドコモブランドとしてやっています。ドコモのブランドを選んだことで、駐車場などの事業者さんに話を聞いて貰いやすくなりました。コンシューマ向けのアプリについてはドコモブランドを出し過ぎると他キャリアは使えないと勘違いされてしまうので、ドコモ色が出ないように意識しています」(島村氏)

 ちなみに、「39Meister」もドコモではなく、ハタプロのロゴでサービスを運営実施している。ドコモブランドではないのだが、菊地氏は常にハタプロと共に仕事をしており、ドコモ本社にはほとんどいないという。

「39Meister」はドコモとハタプロにより共同で運営されている

 次に、それぞれのプロジェクトでのパートナー選びについて。「ここくま」の横澤氏は、プロトタイプを作る際、7社のコンペを実施した。知識や経験がない分野であったため、提案金額が妥当なのか、みんな作れるとは言うが本当に作れる会社なのかがわからなかったからだ。

 「最初のプロトタイプ開発では7社でコンペをさせていただきましたが、やはり自分の力で声をかけられる数には限りがあります。それで、次の開発タイミングから39Meisterに入ってもらったんです。たとえばプロトタイプ製作で、ある部品が必要になった際、3Dプリンターで作れる会社は多くありますが、39Meisterにお願いしたら、本当にすさまじいスピードで、かつすごい高品質の部品を作ってくれる会社を紹介してくれたんです。僕が5~6社回ったくらいでは、絶対に見つからない会社でした。技適を取るときにも、速く安くできる会社を知っていた。モノを作るときに、最適なパートナーを見つけるには、足で見つけるというのは当然なんですが限界もあります。全部わかってる会社にたどり着けると、質とスピードが違ってくるなと今は思っています」(横澤氏)

 異なるチームが時には連携し、ブーストすることを助け合う文化も39worksの価値、と菊地氏は述べる。

 一方「見守りサービス」に絡み、加納氏はいくつかの自治体と話をした。

 「ポイントとしては、相手側から見たときに彼らとしての成果を出せるかどうか、同時に両者がリソースをきちんと出してがんばれるのかどうかというところです。これは自治体に限ったことではないですが、やるとは言ったけどリソースを出さないところって、世の中結構あるんです。話を2~3回していると、どういうスタンスで挑まれるのか必ずわかります。神戸市さんの場合、ものすごく前のめりに、かつリソースをきちんとコミットしてくれたのが大きかったです」(加納氏)

 「Peasy」は3人からスタートし、現在では運用サイドでプレステージインターナショナルやプレミアモバイルソリューション、また駐車場向けのサービスなのでコインパークやシェアリングサービスと共同でやっている。開発側では、ハードウェアをユカイ工学、サーバーサイドの開発はxotneが協力。総勢20人くらいまで増えているという。

 「立ち上げメンバーのひとりが社外に人脈の広い人で、人づてに増やしていきました。我々は、ドコモの社内にいる時間は最小限にして、極力パートナー企業さんのところで一緒に開発をしています。そんなフットワーク軽く動く体制を受け入れてくれるような所、というのも基準の一つにしてパートナー企業さんを選んでいます」(島村氏)

「本当にこれが作れるのか、売れるのか」
事業化する際には説得力が必要

 プロジェクトのスタートや進め方は自由な雰囲気だが、事業化に当たってはもちろん稟議や決済というステップを踏まなければならない。そのあたりはどうだったのだろうか。

 「『ここくま』でももちろん社内の調整は走ります。これまでのノウハウやルールで作って来た部分にあてはまらない動きなので、ちょっと苦労することはあるんですが、社内で理解のある協力者を見つけながら、一緒にルールを作っていきました。今回はイワヤさんから出していただくことになったので、ドコモショップで扱うかどうかといった調整はしなくて済みました。苦労したのは事業化する判断ですね。本当にこれが作れるのか、売れるのか、というところ」(横澤氏)

 いきなり社内を説得はできないので、まずはプロトタイプを作り、実際の家庭で使ってもらった。1~2週間本当に継続して使ってもらえるのか、というところのデータを取ったのだ。そうして、ユーザーの声を集めながら、幹部に対しても実際にモノで見せる。

 「作れます、売れます、と口で言うよりも作ったモノを見せて、お客さんから『これは10万円出しても買いたい』という声を集めれば、さすがに幹部も賛成せざるを得ません」(横澤氏)

 企画段階で初期のプロトタイプを作って社内プレゼンを行うことは、ドコモはもちろん大手企業の企画部門でもそんなにあることではない、と菊地氏は述べた。

 「神戸で見守りサービスをやりましょうという話になったときも、タグはモノとして必要だよね、次にスマホも皆さんが持っているのでアプリを入れてもらえばいいね、と。しかし、それだけだとサービス性が弱い、という話になり、Bluetoothゲートウェイ装置を域内の施設に置いて確実性と信頼性を確保しようとなりました」(加納氏)

 そして、フィールドエンジニアリングで改良した部分を社内にも見せつつ、みんなに理解してもらいながら進めた。だがその際、大手のドコモというブランドが足かせになることもあったという。「ドコモならつながって当たり前」という圧倒的高品質を求められるためだ。

 「そこはやりくりですね。ひたすら改善を繰り返しました。IoTを使ってビジネスする際は、フィールドエンジニアリングが一番のハードルであり、リソースがかかるところでもあると思います」(加納氏)

 39worksの各事業に共通するポイントは、自分たちでビジネスのネタを探してきて、会社に提案し、そのまま認められるというスタイルであるということ。そして自分で見つけたパートナー企業と一体になって、役割分担を明確にしてチームでやっていくという姿勢だろう。

 「トップや上層部がコミットし、組織の文化を創り、そしてその中で自分の事業を見つけ実現していく現場の人たちという、組織的な土台が39worksです。39works自身もまだ成長の過程にあり、今でもアメーバのように変化しています。今回のセッションで『あのドコモがここまでやっている』、39worksという世界観を感じてもらえたらと思います」と菊地氏が締めた。

大企業ながらスタートアップに近いマインドの事業責任者の面々。ただし、熱意とビジョンはすごく、もっと話を伺いたいと思った

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事