『チャイコフスキー:交響曲第5番 (96kHz/24bit)』
アンドレア・バッティストーニ
RAI国立交響楽団
バッティストーニの日本録音は一般的には評価が高いが、私はそうは思わない。渋谷のオーチャードホールでライブ収録されたベートーヴェン:交響曲第9番《合唱つき》や、サントリーホールの一連のライブものを聴くと、会場の間接音が濃すぎて、せっかくのバッティストーニの鮮烈さ、ハイシャープネス、そして溌剌さ……が、お風呂の中で聴いているような、響き過剰に阻まれるのである。私はコロンビアの録音技術陣にそのことをいつも言っているのだが、日本録音は方針は変わらないようだ。
でもイタリア録音は素晴らしいのである。カルロ・フェリーチェ劇場管弦楽団・合唱団を振ったイタリア・オペラ管弦楽合唱名曲集も良かったし、本作も傑作だ。会場のRAIオディトリアムのソノリティは豊潤だが、日本録音のような過剰ではなく、サウンドはとてもクリヤーなのだ。編成が大きく、トゥッティはもちろん大スケールで奏されるが、個々のソロ楽器のフューチャー感も立派だ。
冒頭のホ短調のクラリネットの柔らかく、階調の細やかな音色感、そこに他の木管が加わる時の編成の妙、スコアの狙いがクリヤーに理解できる。RAI交響楽団は、チャイコフスキー的な暗色を彩度高く聴かせる。第3楽章のワルツは、きれいなソノリテイで、麗しく優雅な音調。第4楽章ホ長調では弦のみのアンサンブルの透明感の高さ、音色のしなやかさは、最新録音ならではのクオリティだ。ステレオ的に高弦の旋律と低弦のオブリガードの対比がダイナミック。オーケストラの広がり感覚と、手前から奥行き方向の空気感の濃密なこと。2016年7月6日、トリノのRAIオディトリアムでハイレゾ録音。
WAV:96kHz/24bit、FLAC:96kHz/24bit
日本コロムビア、e-onkyo music
『Room 29』
チリー・ゴンザレス、ジャーヴィス・コッカー
ハリウッドのシャトー・マーモントホテル29号室の物語。チリー・ゴンザレス(エレクトロ・ヒップホッパー/ピアニスト/プロデューサー/ソングライター)と、ジャーヴィス・コッカー(イギリスのロックバンド、パルプのフロントマン)が、この部屋に籠もって共作した作品。ジーン・ハーロウ、ハワード・ヒューズなど、29号室の歴代のセレブユーザーたちのエピソードを参考にしたと、NMEジャパンのインタビューで述べている。独特なる音楽の理解のために、引用させていただく。
「ショウが行なわれている間は、観客は29号室の宿泊客なんだ」。ジャーヴィス・コッカーは続けている。「観客はコンシェルジュと挨拶を交わして、鍵を渡されるんだ。腰を下ろして、くつろいでいて欲しい。僕たちにしかできないようなエンターテインメントの夜を提供できることを嬉しく思うよ。29号室はカリフォルニアのハリウッドに実在する場所だけど、僕たち一人一人の心にある部屋でもあるんだ。そんな部屋を探求したいと願う人たちが、僕らの一連の楽曲を通じて部屋への扉を開けられるのだとしたら嬉しいね。素晴らしいルームサービスだろ?」。
冒頭のピアノが、寂しく単音を響かせる中に、センターに見事に定位したジェービス・コッカーのナレーションが喋りだし、独り言のような歌をシンプルな旋律に載せて、歌い出す。男声はナチュラルにしてリアル。チリー・ゴンザレスのピアノが、まるでキースジャレットのような静謐さで、上質な伴奏を形成し、ユニゾンで「ルーム29」のことをヴォーカルと共に歌い上げる、静かで劇的なエピソードだ。全編がピアノとヴォーカルのデュオであり、シンプルな中にも、人生の深遠さを感じさせるような名作である。まるで、29号室に居て眼前での出来事を目撃しているような感覚にとらわれる。ごく小さな劇場の最前列にて眼前で体験するナレーション付きの音楽劇といういでたちだ。
FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music
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