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ベルリンフィルから西城秀樹まで、11月の名盤

麻倉推薦:やっぱりカラヤン? アナログ時代の名盤がDSDでよみがえる

2017年12月11日 19時00分更新

 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。10月ぶんの優秀録音をお届けしています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『ドイツ行進曲集』
ベルリン・フィルハーモニー・ブラスオルケスター
ヘルベルト・フォン・カラヤン

 畏れ多くもあのカラヤン大先生が行進曲を30曲も演奏した、アナログ時代の名盤が、いまDSDマスタリングにて華麗に復活。「旧友」「ウィーンはいつもウィーン」「双頭の鷲の旗の下に」などドイツ・オーストリア行進曲を、ベルリン・フィルブラスと演奏してくれるのだから、まことに襟を正し、鎮座して拝聴だ。ベルリン・フィルはどのパートの誰もがソロ奏者の実力の持ち主。カラヤンが73年に管楽器セクションを振って録音した本アルバムでは、管楽の優秀さが、録音の良さも相俟って、手に取るようにわかる。特にドイツ・グラモフォンのオリジナル・アナログ・マスターからEmil Berliner Studiosにて2017年制作した最新DSDマスターを使用したのでなおさらだ。

 カラヤンの行進曲はシンフォニック。「旧友」はいつもは軽い曲だが、さすがカラヤン+ベルリンフィルは、重厚で豊潤だ。いつも気軽に聴いているピースが、こんなに表情が豊かで、ダイナミックになるのか。「ウィーンはいつもウィーン」は曲本来のしゃれた酒場のウィーン気質的ではなく、ドイツ的なあたりを睥睨するエッジを立てた剛性な大行進曲に変身するのが面白い。「旧友」も素晴らしい。1973年3月、ベルリンのイエス・キリスト教会で録音。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『マーラー: 交響曲 第9番』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・フォン・カラヤン

 もうひとつの最新カラヤン・ハイレゾが、マーラーの交響曲第9番だ。カラヤンは500曲以上という破格の録音曲数を誇るが、マーラー録音は稀だ。しかし、どれもが超一流のカラヤン節。カラヤンのマーラーとはひとこと「官能的」。豊潤で絢爛豪華、そしてカラフルな響きが、耽美のマーラーを聴かせる。本演奏も、そんなカラヤンの色気演出が最大限に発揮され、しかもDSDの持つグロッシーさと、濃密なマーラー像が互いに絡み合い、リッチに融合する。

今の常識では一般的なマーラー演奏ではないが、あくまでも「カラヤンのマーラー」を、そのままの、むせかえるような艶の響きと熱い官能で聴けるDSD演出の素晴らしさ。 1979年の録音のリマスタリングだが、まるで昨日録ったような新鮮さだ。細部から音が輝き、芳しい香りがリスニングルームを満たす。1979年11月、1980年2月、9月にベルリン・フィルハーモニーで録音。ドイツ・グラモフォンのオリジナル・アナログ・マスターから独Emil Berliner Studiosにて2017年制作の最新DSDマスター。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『Tchaikovsky: Symphony No.6』
Teodor Currentzis、MusicAeterna

 「天才か、悪魔か…ギリシャの鬼才が放つロマン派の交響曲!」とは所属レコード会社、ソニー・ミュージックの宣伝文句だが、確かにモーツァルトのオペラ三部作「フィガロ」「コジ」「ドン・ジョヴァンニ」、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、ストラヴィンスキー「春の祭典」と出すものすべてが過激で、しかもチャーミング。いま、絶対に見逃せない(missできない)指揮者だ。

 ラディカルなクルレンツィスに掛かるとポピュラーなチャイコフスキー「悲愴」が、まるで昨日作曲された新曲のように聞こえる。リズムがこれほど躍動する悲愴なんて聴いたことがない。「悲愴性」ではなく「舞踏性」が表に打ち出された、実に新鮮な「悲愴」だ。第1楽章第2主題の悲劇的なヨナ抜き旋律が、これほど心を打つとは。大袈裟なアゴーギクや揺らしはないかわりに、透明な深遠さがある。第2楽章の表情の抑揚のレンジの大きさ、第3楽章の生命感の高揚、低減のピッチカートと高弦の揺れ動く音符の対比感。第4楽章の透明な哀しみ。録音は一応優秀だが、全体の響きが優先されている。もっと個々の楽器を解像度高く聴きたかった。2015年2月9-15日、ベルリン、フンクハウス・ベルリン・ナレーパシュトラッセで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『Winter Songs』
オラ・イェイロ、Choir Of Royal Holloway、12 Ensemble

 1978年、ノルウェー生まれの作曲家/ピアニスト、オラ・イェイロは合唱シーンでは超有名だ。多くの合唱団で広く歌われている。アルバムは、これまではもっぱらノルウエーの高音質レーベル2LやイギリスのCHANDOSからリリースされていたが、今回はメジャーのDECCAからリリース。格が一段上がった格好だ。本アルバムを貫く基調的な優しさは、北欧のまったりとしたライフスタイル「ヒュッゲ=Hygge」(デンマーク語で「温かな居心地がいい時間や空間」という意味)をオマージュして生まれた音楽だからだ。特に、よく知られたクリスマス・キャロルがHyggeしている。

 1曲目のGjeilo: The Roseコーラスとピアノのコラボ。混声コーラスが厚く、音色がカラフルで、テンションが高い。弦の重層感と相俟って、感情的な高揚を感じることができる。2つのスピーカーの間の深い音場から分厚いサウンドが浮かびあがり、聴き手に迫り来る。10曲目、AWAY IN A MANGER(邦題「飼葉桶の中で」)は有名なクリスマスソング。ハミングのコーラスを背景に、透明感の高いソプラノが歌う場面は、まるで従来リリースしていた2L作品のようだ。15曲目の締めのROSE2は、朗々なチェロとピアノが分厚いサウンドと共にファンタジーの世界に誘う。録音はそんな重層感も明瞭に伝えている。パート・ゴフ(合唱指揮) ロイヤル・ホロウェイ合唱団、2017年6月9‐11日、イギリス、セント・ジュード・オン・ザ・ヒルで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Decca、e-onkyo music

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