とにかくよく笑う人です。どんな悩みも彼女に話せば「おもしろいっすね」と笑いとばしてくれて、気が楽になりそう。そんな彩乃さんが「私に会いに来てね」とひとりで始めた“ぼっち向け宅飲み酒場”。お酒はオール300円。最高です。
中延の商店街にあるユニークな“宅飲み酒場”
品川区中延にある“ぼっち飲み”をテーマにしたユニークな飲食店「宅飲み酒場 アヤノヤ」が2016年11月にオープンしました。フードは、乾き物程度しか用意がないのでお客さんの持ち込み自由。まるで宅飲みしているのと同じような感覚で利用できるお店です。
お酒が1杯300円なので予算が安いのが魅力。加えて、若いのに自分の力でゼロから店を開いた、店主の西田彩乃さんの個性に惹かれますよ。
お店の特徴や成り立ちを底抜けに明るい彩乃さん節で語ってもらいました。「自分のお店を持つ」って大変そうに思えますが、彩乃さんの話をきくと目から鱗が落ちますよ。
「山崎」なども300円!無駄を省いたからのコスパ
――お酒が300円均一なのですね。チャージもないのですか?
彩乃さん:チャージはないです。生ビールや、ウイスキー、焼酎とかすべて300円でやってます。1日3杯飲んでもらって、週4日通ってもらうというのを目標にしたんですよ。300円なので3杯で900円、週4日で3600円。ほかのお店だとそれくらい1回で使っちゃう額じゃないですか(笑)。
――実際に、リピーターは多いのですか?
彩乃さん:一回来たら、その人はまた来てくれます(笑)。常連さんは男の人がほとんどなんですけど、女の人も男の人に連れて来てもらって、また来てくれるので徐々に増えてきてますね。
――すでに常連さんが。安いから、ですかね?
彩乃さん:それもあると思いますけど、結局、いいお酒が目当てなんですよ! これを見てください。
――ウイスキーの「山崎」置いているんですね!? 「ボウモア」とか「ハーパー」も。ネットで話題になった焼酎「泥亀」もありますし。これ300円でいいんですか?
彩乃さん:そうです。お酒の価値がわかる人ほど、いいお酒を安く飲めるのでハマるんですよ。のんべえの人多いんです(笑)。1杯30mlと決めていて「大目に」とかは無しです。原価率50%以上のもあるのですけど、損にはなってはないです。
――原価率は高くなりますよね。話戻るのですが、1杯300円で1回900円使ってもらうのが目標ということですが、それでお店はやっていけるんですか?
彩乃さん:やってけるんですよ! おかげさまでオープンしてから連日カウンターが埋まるくらい盛況で、毎日赤は出てないです。売上の見込みに合わせて店舗も借りたし、ここだったら全然やっていけますね。
――へえ、びっくり! 飲食店の経営ってもっとシビアというイメージでしたが。
彩乃さん:人件費ゼロなのが大きいです。自分がオーナーでひとりでやっているので、私の生活費がまかなえる程度の儲けが出ればいいじゃないですか。それと、無駄なコストを徹底的に無くしています。フードの持ち込みオーケーで料理は出さないので、その分の材料費もないしロスもない。制服がないからクリーニング代もかからない。「これはいる、いらない」というのを、たぶん普通の飲食店ではしないような考え方で断舎利していきました。
――ひとりでお店のことを全部やる、というのは働く時間を考えても大変そう。
彩乃さん:そうでもないですよ。開店時間は15時から23時で、8時間。普通の居酒屋って17時から深夜2時、3時とかまでやっているところが多いので、それよりずっと短いんですよ。料理しないから仕込みもないので、午前中使えますし。午前中が自由に使えるって、すごくないですか!? 余裕ができたら店に出る前に映画を観たいです(笑)。
ネットからお客さんが来てくれている
――お客さんはどんな人が多いのですか?
彩乃さん:「ネットを見たよ」って来てくれるお客さんが、最初はほとんどでした。
――クラウドファンディングサービス「キッチンスターター」の資金募集のプロジェクトが話題になっていましたね。PR TIMESでも店舗オープンのリリースを見ました。それを見て「来てみよう」と実際に足を運んでくれる人は多いのですね。
彩乃さん:ネットの存在は本当に大きいですね。例えば、私は2016年9月1日に開業を決意して、11月22日にお店をオープンしたんですけど、その間にFacebookの友だちが300人台から倍に増えました。私が「お店開く」と言ってFacebookでも活動したので、おもしろがってくれた人がシェアしてくれてつながりがどんどん増えました。
――ネットでの拡散が大きかったということでしょうか?
彩乃さん:そうですね。クラウドファンディングはFacebookとの相性がすごくよかったと思います。来てくれた人がまたFacebookとかTwitterに「アヤノヤ来た」ってあげてくれるじゃないですか。それに“いいね”がたくさんついて多くの人が見てくれるのが続くと、毎日知名度が広がっているなという感覚があります。
――宣伝費使わないと言ってましたけど。一切かけていないんですか?
彩乃さん:有料の広告は一切出していないので、お客さんが広報さんだと思っています(笑)。ぐるナビとか食べログも有料のはやっていないです。ですがLINE BLOGをやっていて、これはLINEの公式に取り上げてもらった時に3万PVまでいったことがあります。すごくないですか? 無料で3万PVいくんだったら、有料の広告は必要ないですよね。
――今の時代らしい考え方ですね。お客さんはひとりで来られる方が多いんですか?
彩乃さん:そうです。ぼっちの人が来やすいお店としてつくったんで。でもグループで来てもらってももちろん大丈夫です。飲み仲間でやってこられる常連の方もいます。
――ネットを見て来られたお客さんはどういう会話をするんですか?
彩乃さん:「この店はクラウドファンディングでプロジェクトをやって……」とかまずそういう話題で盛り上がります。でも、いろんな話をしていますよ。人生相談とか。いろんな年代の方が来られるので、だいたいひとりで来て周りの人とたくさん話して帰っていきます。
――地元の方がふっと入ってこられた時に、店のことを知らなくてびっくりしませんか?
彩乃さん:常連さんが多いんでお店のことを説明してくれるんですよ(笑)。
――すごく楽しそう
彩乃さん:本当に楽しいですよ! 毎日どんちゃん騒ぎです。しかも、フードは持ち込みでお願いしているので、ネットをみて遠くからやってきてくれたお客さんがこの商店街で買いものしてくれるじゃないですか。地域の活性化にもつながるようにと目指しています。
開業を誰も「無理」とツッコまなかった
――店を開く前は会社でお勤めされていたのですよね。
彩乃さん:大手の飲食の会社にいました。名前をご存知だと思います。コショ……。
――お! 有名なところ。
彩乃さん:短大卒業してから新卒で入って、飲食店のコスト計算など運営の基礎をみっちり仕込まれました。22歳の時にはやきとん屋さんで店舗の責任者をやりました。そこがカウンター接客だったので、勉強になることは多かったです。
――接客が好きなのですね。
彩乃さん:大学の時にはハンバーガーチェーンと居酒屋とメイド喫茶の3つ掛け持っていました(笑)。人とおしゃべりするのが好きなんですよ。でもゲーマーなので、基本的に引きこもりなんです。バイトでお金貯めてゲーム買ったら、2日間くらい家にこもってゲームをずっとやったりしていました。ひとり遊び大好きなんです。
――“ぼっち向け”という発想はもしかしてそこから。
彩乃さん:そうなんです。ひとりで本読めたりゲームできたり、ひとり遊びをしやすいお店をイメージしました。フリーWi-Fiあるし、電源も貸せます。黒板があるからお絵かきもできますよ。
――黒板があるのはそういうことなんですね。話が逸れてしまったのですが、なぜ飲食の会社をやめて若いうちから開業を?
彩乃さん:最後にいたのは高級な洋食のお店なんですけど、洋食って居酒屋と違ってそんなに店員さんがしゃべらないんですよ。スタイリッシュにしていなきゃいけないっていうのがあって。中には、自分のスタイルとしてお客さんとの会話を多くする人もいるのですが、そうなるまでには洋食のサービスを極めなくちゃいけない。たぶん、極めるまでに数年かかってしまうじゃないですか。私はそうだったら、自分のお店を持って好きな接客をやったほうが、結局は楽しいし、自分にとって得だなと思ったんです。
――開業資金はある程度あったのですか?
彩乃さん:自己資金は40万円しかなかったので、資金集めにクラウドファンディングを活用しようともと思っていました。それだけで完全にまかなうことは無理だったので、金融公庫からも250万円借りました。クラウドファンディングのプロジェクトが成功して100万円の資金が調達できたのは大きかったです。
――たった40万円! それで開業って無謀では……。
彩乃さん:実際、お店開けちゃいました(笑)。私は「じゃあお店を開こうと」と思って、Facebookで宣言したんです。その時に友達や職場の人、つながっている人がコメントくれたりいいねをつけてくれたりしたんですけど、ほとんど「無理だからやめなよ」ってコメントはなかったんですよ。みんな「西田ならできるよ」「オープンしたら絶対行く」とか応援してくれました。これだけの人が誰も「無理」だと言わないということは「できる」んだ、と楽観的に思えて、結果どうにかなっちゃったんですよね。
とはいえ借金は?
――毎日お客さんが多く来られてリピーターも多いとわかりました。とはいえ、開業資金を金融公庫から借りたときいたので返済もあるかと思います。どうなんでしょう。
彩乃さん:公庫からは250万円借りましたが、でも250万円って大学に学費と考えれば、それくらい借りている人いるじゃないですか。なんてことないです。2年経ったら返済もしていかなきゃいけないし、このお店も5年しか営業できないですけど、今の調子でやっていたらなんとかなります。
――え! 5年しかやらない!?
彩乃さん:建物が取り壊しになるんです。だから借りるのも安かったんです。
――せっかくお店を持てたのに、もったいなくないですか?
彩乃さん:さっきも言いましたが、自分のお店をもてて5年好きなようにできるのだから、すごい経験が蓄積されるじゃないですか。会社に務めて5年いるより自分にとってはとてもプラスになります。5年後にどうなっているかわからないですけど、こうやってお店をやることで人とのつながりもできるし、その時にまたおもしろいことができそうだなって思ってます。
――すっごいポジティブですね。最後に、記者の後学のために開業が成功した秘訣を教えてください。
彩乃さん:コンセプトがしっかりしていたのが大きかったと思います。はじめから「メインは私」と決めていました。料理はできないから出さない。あと、自分の考えを紙に書きだしていくこと。自分の頭の中で「こういうお店にしたい」ってぼんやり思っていても、他の人には見えないじゃないですか。書いて外の世界に出すことで、今はネットの時代なのでいろんな人に見てもらえます。すると、アドバイスがもらえて自分の考えがブラッシュアップされ、実現に近づいていくわけですよ。
――ネットを活用して、知見を集めるんですね。
彩乃さん:助けてくれる人は多かったです。クラウドファンディングのプロジェクトも出しただけだとダメで、最初は全然資金が集まらなかったんです。どうしたらいいんだろうと考えて、人に話を聞きにいきました。「クラウドファンディングで夢をかなえる本」を書いている板越ジョージさんに会いに行って、自分のプロジェクトのダメだしをしてもらいました。アドバイスをもらえたのでページをリニューアルして、期間ギリギリになんとか目標額に達しましたよ。
――クラウドファンディングについて書かれている専門家の人に! ツテがあったのでしょうか。
彩乃さん:Facebookでメッセージ送って質問したら、会ってくれました。
――つながりがあったわけではないのですね。板越さんがいい人だし、彩乃さんの行動力がすごい。
彩乃さん:えへへ。あとなるべく、イベントとか集まりに顔を出して、人に知ってもらうことですよね。クラウドファンディングでは1000円からリターンを用意していたんで、会った人に「ゲームに課金するなら私に課金して」って(笑)。
――なかなか言えることではない(笑)。彩乃さんのなにがなんでも店を出そうという積極的な姿勢が、プロジェクトの成功や集客につながっているのですね。
彩乃さん:私なんかでお店を出せちゃったんで、みなさん本当にやろうと思えば絶対できちゃいますよ!
勢いだけでお店を出したようにみえて、細かいところも考えているような、楽観的すぎとも言えるような。とにかく、お酒が大好きで人生の一秒一秒を惜しみなく楽しんでいる店主の彩乃さん。そんな彼女のこだわりのお酒と空間を楽しめるのはステキな体験。一杯はたった300円です。
宅飲み酒場 アヤノヤ
住所:東京都品川区東中延2-7-18
営業時間:15時~23時
定休日:水・日曜
ナベコ
寅年生まれ、腹ぺこ肉食女子。特技は酒癖が悪いことで、のび太君同様どこでも寝られる。30歳になるまでにストリップを見に行きたい。Facebookやってます!
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