Fintechの隆盛にともなって、大手銀行と手を組んだスタートアップ企業によるサービスが始まっている。
One Tap BUYが2016年10月4日から始めた「銀行においたまま買付」は、送金不要で株式の買付ができるサービス。仕組みは以下の通りだ。
- みずほ銀行と「口座振替」契約を結ぶ
- 結んだ契約に従い、One Tap BUYからみずほ銀行に株式の買付代金の引き落とし指示を出す
購入者が株式の買付を申し込むと、瞬時にみずほ銀行の口座から買付代金が引き落とされる。株を買いたいときに、わざわざ銀行で送金手続きすることなく、One Tap BUYで買付手続きするだけでよい手軽さが魅力だ。
プレスリリースが出た早々、各メディアが「Fintechの革新的なサービスである!」という報道をしていたが、即時に銀行から引き落とす技術自体は、1980年代には確立されていた。
本稿では、そのような「銀行においたまま買付を実現する」ために使われている技術・サービスを紹介しつつ、現状のFintech業界で何が求められているかを検証したい。
銀行との接続はNTTデータが提供するサービスで
「ウェブを介した口座振替契約受付」というと馴染みがないかもしれないが、じつは広く浸透している技術でもある。電気やガス、クレジットカードの代金支払い手続きで上記のような申込書を書いたことがあるはずだ。One Tap BUYの場合、この申込がネットだけで完結できるというわけだ。
「銀行においたまま買付」でいえば、NTTデータが提供している以下のサービスによって実現している。
- ネット口振受付GWサービス……銀行との口座振替契約をスマホからペーパーレスで実現する
- 即時決済ゲートウェイサービス……「CAFIS」(キャフィス)というATMやカード決済などで使われているサービスに接続し、銀行への代金引き落とし依頼をリアルタイムで送受信する
One Tap BUYで銀行においたまま買付をする前に、一度だけ行うみずほ銀行との口座振替契約手続きをするときに使うのがネット口振受付GWサービスだ。
当然これらのサービスは、One Tap Buyだけが使っていわけではない。銀行口座から証券口座へ即時入金するサービスで証券会社も使っているし、LINE PayやYahoo!ウォレットなどの決済サービスでも使われている。
また、即時決済ゲートウェイサービスで接続しているCAFISの機能は、「デビットカード決済」と同じもので、2000年3月より提供されている「J-Debit」や2006年から提供されている「VISAデビット」などの例がある。CAFISも1984年から提供されているサービスで、1980年代には技術的には確立されていたものだ。
証券会社初なのは、「株式の買付代金を即時で入金できる」だけ
One Tap BUYの銀行に置いたまま買付は、「証券会社初!」という触れ込みだが、この場合”初”なのは、株式の買付時に即時入金して代金充当できる点にある。
当然だがほかの証券会社では、銀行から即時入金するサービスや、即時入金を使った関連サービスがすでに提供されている。
たとえば、投資信託を毎月定期的に銀行口座から代金を引き落として買い付ける「投信積立」や、株式の信用取引で発生した不足金を銀行口座から自動で入金する「不足金自動振替」というサービスがすでに提供されている。
毎月一定の日に投資信託の買付ができる「投信積立」は、銀行にお金を置いたまま投資信託が買えるサービス。たとえばマネックス証券では「ウェブかんたん銀行つみたて」というサービスで提供されており、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、楽天銀行の4行の銀行口座に対応している。
またSBI証券のように、住信SBIネット銀行の預金残高を証券口座での預り金として見せるような連携サービスもある。この連携サービスは「資金スイープ」と呼ばれていて、銀行と証券の間で資金を自動でやりくりできる。
紹介した技術やサービスは、「Fintech」がバズワードとなる以前から提供されていたものばかり。Fintech関連企業のサービスはその看板ゆえに、何もかもが目新しく見えてしまっていないだろうか。
とはいえ、One Tap BUYによって株取引に興味を持つ人が増え「貯蓄から資産形成へ」と、お金が流れやすくなる傾向があるのは事実。また株式の買付申込と同時に、みずほ銀行への入金指示が出せる点が優れているのも確かだ。
Fintech企業すべてが革新的な技術を使っているわけではないし、枯れた技術だけを使ったとしても、優れたFintech関連サービスは作れる。看板に惑わされずに、もう一度足下の技術から見直してみることも重要だ。
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