週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

ブロックチェーンで社会課題を解決している海外のソリューション事例4選

2019年12月06日 09時00分更新

 みなさんは、ブロックチェーンがどのような社会課題を解決しているか実例を見たことがありますか。

 「中央集権ではないサービスが実現できる」「全てのデータの履歴が記録できて改ざんされる心配がない」というような概念を理解し、「大手企業やIT企業が『ブロックチェーンを活用するための実証実験』を始めた」というニュースを目にする人も少なくないでしょう。しかし、なかなか日本だけだと実際にサービスとしてリリースした事例が少ないのも事実です

 そこで本記事ではスタンフォード大学経営大学院が2019年9月に発表した調査結果レポート「2019 Blockchain for Social Impact」(以下、本レポート)を基に、海外でどのような課題が解決されているかを紹介します。

調査対象の約41%がイーサリアムを使っているが、スマートコントラクトは1.8%しか使っていない

 具体的な例に入る前に調査結果の概要を見てみましょう。調査対象のおよそ41%の企業・組織がイーサリアムを使ってソリューションを実装しています。

引用元:2019 Blockchain for Social Impact」(https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/publications/2019-blockchain-social-impact)

 イーサリアムといえば、契約行為の自動化ができる「スマートコントラクト」が実現可能で、ビットコインに比べてビジネスで使えるシーンが多いと理解している人もいるでしょう。ですが目的別の利用割合を見てみると、スマートコントラクトの利用割合は1.8%に過ぎません。半数の47.3%はデータの記録と検証のために使っていると回答しています。

引用元:2019 Blockchain for Social Impact」(https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/publications/2019-blockchain-social-impact)

 本レポートでは「政府による規制が追い付いていない。当局が技術を理解していない。一般的な使用例はデータの記録や検証である」と言及しています。

 技術的に実装可能でも明確な法令・規制が無いため実装を止めている。解決が必要な社会課題がスマートコントラクトを求めていない。といった理由でイーサリアムの利用が一番多いにも関わらずスマートコントラクトが使われていないのでしょう。

実際に稼働しているブロックチェーンソリューションの例

 本題の具体例を見ていきましょう。本レポートでは以下の6つの領域で、ブロックチェーンを利用してソリューションを実装している企業や組織に調査を行っています。

 本記事では実際にソリューションの存在が確認できた①~④の4つの実例を紹介することにします

① 金融
② 農業
③ 環境・エネルギー
④ ヘルスケア
⑤ デジタル本人確認
⑥ 行政サービス

※編注:項目は解説がしやすい順に並べ替えましたので、本レポートとは順番が異なっています。

① 金融:国境を超える送金でのコスト削減

 調査対象とした企業・組織の39%が支払と送金にブロックチェーンを使っており、国境を超える送金でのコスト下げることができたと回答しています。

 また、世界中ではおよそ17億人の人々が銀行や金融サービスを利用できない状況にありますが、そんな人々が金融サービスを使えるようにするためのサービスを提供している「Wala」という企業があります。

 

 ブロックチェーンを使うことで安全にお金を保管したり送金したりできるモバイルプラットフォームを構築して、ウガンダやジンバブエなどで銀行口座を持たない人々に金融サービスを提供しています。

ブロックチェーンを使って送金コストを下げている例。ケニアに拠点がある「BitPesa」では、ビットコインを活用して海外送金サービスを提供しています。一般的な海外送金の仕組みである「SWIFT」を使うよりも低コストで送金できます。手数料が送金額の1~3%ほどかかりますが、85ヵ国で通算100万件以上の送金処理を行っている実績があります。引用元:BitPesa(https://www.bitpesa.co/)

② 農業:生産から消費までのバリューチェーンの可視化

 農業では生産した作物がどのような経路を通って消費者まで届けられるかという「バリューチェーン」の透明性が課題になっており、流通経路の情報をブロックチェーンに記録し、そのデータを第三者に開示することで経路の透明性を確保しています。しかし、そもそも虚偽の情報をブロックチェーンに記録することができてしまうので、記録された情報が正しいかどうかを検証する手段も必要になります。

 ちなみにバリューチェーンとは、生産の工程ごとに付与する付加価値を整理したものです。ブロックチェーンにはどの工程で何をしたのかを記録し、そのデータを参照するとバリューチェーンの中身がわかるというわけです。

GrainChain(グレインチェーン)という企業が実際に農業でのバリューチェーンを追跡・記録するソリューションを提供しています。またスマートコントラクトも活用しています。穀物の販売に関する契約を作成し買い手がその穀物を受け取ると自動でウォレットに代金が支払われる仕組みにより、他国での取引をする場合に海外送金手数料を削減することができます。引用元:GrainChain(http://www.grainchain.io/)

③ 環境・エネルギー:エネルギーの取引プラットフォームを実現

 環境・エネルギー領域ではブロックチェーンを使って分散型のエネルギー取引プラットフォームが作られています。個人間や企業と個人間で直接、余ったエネルギーを取引できるので、エネルギーの無駄を抑えることができ節約ができます。その結果、環境の持続可能性があがり、環境破壊を遅くすることに貢献できます。

イギリスの「Very」では太陽光発電をしたときに余った電力を売買できるプラットフォームを、ブロックチェーンを使って実装しています。また取引に使うトークン「VLUX」を発行しています。引用元:verv(https://verv.energy/)

④ ヘルスケア:医療に関するデータの保全や共有と、データ提供による報酬支払を実現

 医療データは複数の医療機関でほとんど共有されていないのが現状です。また本レポートによれば、医療データを紛失したり盗難されたりすると、記録ひとつあたり408ドル(およそ4万5000円)の被害になるとの記載もあります。これは平均の3倍の費用になるため、紛失や盗難を防ぐ必要があります。

 そのためブロックチェーン上に医療データを記録し、プライバシーを守りつつ共有するサービスが構築されています。例に挙げる「CoverUS」は自分の医療データを提供すると報酬が貰える仕組みを、ブロックチェーンを使って提供しています。

アメリカでは日本と異なり全ての人が健康保険に加入しているわけではなく、医療費が支払えないため患者の64%が医療費を工面できるまで治療を送らせている状況にあり、費用をサポートするためのソリューションがCoverUSです。またアメリカでは、医療に関する電子データは「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(通称:HIPPA)」によってプライバシーを保護する必要があり、ブロックチェーンを使って実装したソリューションは全てHIPPAに準拠しないといけません。引用元:coverUS(https://coverus.health/)

海外のみならず日本でもブロックチェーンを使ったサービスがある

 海外の事例を4つ紹介しました。日本でもブロックチェーンを使ったサービスがあります。基幹システムへの利用やB2Bビジネス用途だとなかなか目にする機会がないかもしれません。

 日本では実証実験のフェーズから着実に本格利用のフェーズへと変わってきています。ここで紹介した海外事例に似たようなサービスを日本で目にする日はそう遠くないはずです。

日本で提供されているブロックチェーンを使ったサービスの例(スタートバーン)。アート作品の所有者やイベントでの展示情報をブロックチェーンに記録して、作品の価値の裏付けとして証明するサービスです。引用元:スタートバーン(https://startbahn.org/)

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう