週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

10月19日からは「ダブル炊餃子鍋」などの新メニューも登場

居酒屋「塚田農場」の地鶏がレアでもおいしく食べられる理由

2016年10月14日 17時00分更新

みやざき地頭鶏はなんと卵から塚田農場で育てられている

 レギュラーメニューの「炊餃子」や先行して提供されている限定メニューの「ダブル炊餃子鍋」のベースになっているスープは、もちろんみやざき地頭鶏の鶏ガラが使われています。塚田農場では、もも肉や胸肉だけでなく、内臓を含めて地頭鶏1羽を余すところなく食材に使うことで、地鶏料理としては低価格を実現しているわけです。

 そもそも「塚田農場」という名称は、運営会社であるエー・ピーカンパニーが宮崎県日南市の塚田地区に作った自社農場が由来です。同社では現在、宮崎県内に自社農場を3拠点持っており、その内の1拠点が稼働中です。3拠点すべてを稼働させない理由としては、養鶏場としてフル稼働させていると鶏舎の土のpHが上がってアルカリ性になり、みやざき地頭鶏の生育に適さない土壌になってしまうため、一定期間休ませる必要があること。もう1つの理由は、季節要因などでみやざき地頭鶏の需要が下がった場合でも、自社農場で生産調整を実施することで約20軒ある契約農家さんの生産を減らすことなく、持続可能な環境を作るためだそうです。ここかなり重要です。

社長自らが作り上げた宮崎県日南市の山中にある塚田農場

こちらは加工センター。牛乳配達業者さんの使っていない倉庫を借り受けて作られたそうです。よく見ると牛乳の文字が残ってますね

 とはいうものの、一般的なブロイラーなら理解できますが、飼育方法などのレギュレーションが厳しい地鶏でそんなに柔軟な生産調整できるのか疑問ですよね。実はエー・ピーカンパニーでは、みやざき地頭鶏を卵から育てているのです。実際には、同社の関連会社である地頭鶏ランド日南の養鶏事業部の一部として、宮崎県の日南市に「日南雛センター」、東諸県郡綾町に「綾雛センター」を設立しており、こちらで雛の数からある程度調整しています。

 通常、地鶏の卵や雛の供給は都道府県の管轄だそうですが、地頭鶏ランド日南は県の許可を受けて自社で卵から雛を孵化させています。そして自社農場もしくは契約農家で、雄は120日間、雌150日間育て、地頭鶏ランド日南の加工センターで食肉として加工し、宮崎日南業態の塚田農場やフランチャイズのじとっこ組合などに運ばれていくわけです。一次産業である農業、二次産業である製造・加工業、三次産業である流通・販売業をグループ全体で手がけていることから、同社は六次産業経営と言っているわけですね。

 卵から孵化のくだりは結構サラっと書きましたが、卵はどこから調達しているんだという疑問に突き当たりますね。地頭鶏ランド日南の2拠点ある雛センターでは、みやざき地頭鶏の卵を仕入れて孵化させているわけでなく、もちろん卵を産むところから自社でやっているのです。

宮崎県東諸県郡綾町にある綾雛センター

 皆さんこの時点で「鶏が先か、卵が先か」というややこしいゾーンに入ってきたかと思いますが、ここできちんと整理しておきましょう。

 そもそも「みやざき地頭鶏」というのは、祖父にあたる鶏が地頭鶏(じとっこ)と呼ばれており、美味だったことから薩摩藩(現在の鹿児島県や宮崎県の一部)で古くから飼育されていたそうです。しかし現在、地頭鶏は天然記念物に指定されているため、食肉として使えません。そこで、地頭鶏の雄と劣性ホワイトプリマスロックの雌を掛け合わせてF1(交雑種第1世代)を作ります。このF1がみやざき地頭鶏の父親が当たります。そして、F1に九州ロードの雌を掛け合わせたのがみやざき地頭鶏というわけです。

地頭鶏の雄と劣性ホワイトプリマスロックの雌を掛け合わせたF1種

みやざき地頭鶏の母鶏にあたる九州ロード

 では、みやざき地頭鶏の母鶏として文章中に突然現れた九州ロードというのはどういう鶏か。公益社団法人である畜産技術協会の資料によると、熊本県保有のロードアイランドレッド種と家畜改良センター兵庫牧場の白色プリマスロック種13系統を交配した地鶏係数50%の鶏を基礎として、3県共同で7年間7世代の閉鎖群育種を実施したことで誕生した鶏だそうです。

 九州ロードは産肉性と産卵性に優れているため、みやざき地頭鶏だけでなく、熊本県の「熊本コーチン」と「天草大王」、大分県の「豊のしゃも」などの母鶏にもなっているそうです。大事なことなんでもう一度いいますが、みやざき地頭鶏は、天然記念物の地頭鶏の子供(F1)と九州ロードを掛け合わせることで、これらの特徴を引き継いだ地鶏となるわけです。

 では、劣性ホワイトプリマスロックとはどういう鶏か。劣性とつくことからわかるように、遺伝子情報が子供に現れにくいことから、みやざき地頭鶏は父鶏である地頭鶏の子供(F1)の遺伝子を色濃く受け継ぐわけですね。

 さらに、地頭鶏の子供であるF1種をどこで調達しているかというと、ここはさすがに天然記念物の地頭鶏を管理する宮崎県畜産試験場だそうです。

 さて話を元に戻しますと、雛センターではまずF1種と九州ロードを育てて交配させています。通常は、雄雌の鶏舎は仕切りで区切られており、交配のときだけで一緒にするそうです。

F1種と交配した九州ロードが写真右側の穴に入って卵を産みます

産み落とされた卵はすぐさま回収されます

 交配後は、卵(有精卵)だけを回収して温度が一定に保たれた冷暗所に保存します。

卵を孵化させる建物は、F1種と九州ロードが飼育されている鶏舎とは少し離れた場所にあります

 あとは毎月決められた日程で卵を人工の孵化装置に入れて雛にします。卵は産後14日目までのものを使うそうです。それ以上保管していると、孵化率が下がるとのこと。

空調が一定温度に保たれた場所で卵が一時保管されます

 孵化装置としては、セッターとハッチャーがあり、まずはセッターに入れられたあと、出荷5日前にハッチャーに移されます。孵化までの期間は21日程度とのこと。セッターは定温器と呼ばれるもので、孵化しやすい温度と湿度に保つために使われます。ハッチャーに移した卵は孵化していきます。

こちらはセッター。孵化しやすい温度と湿度を作る装置です。卵はまずここに入れられます

手前がハッチャー。出荷5日前になるとセッターから卵が移されてこの中で孵化します

綾雛センターでF1種と九州ロードの飼育から卵の孵化、雛の出荷までを手がける坂元さん。夏場や冬場はセッター内の温度・湿度管理が大変とのこと

 ここで気になるのが、残ったF1種と九州ロード。これらは飼育期間が長く肉質が固くなってしまうため食肉としての使い道は限られており、F1種のほうはミンチにして地頭鶏のソーセージやフランクフルトなどの原料の一部になるそうです。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう