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物流の進化と漁師の努力で生まれた「今朝獲れ」

今朝獲れた魚をその日の夜に刺身で食べられる四十八漁場

2017年04月11日 10時00分更新

 みなさん、おはようございます。ASCII(週刊アスキー+ASCII.jp)編集部の吉田ヒロでございます。昨日公開した記事「三陸の牡蠣が春先に超美味になる理由」には実は続きがあります。

雪解け牡蠣などを食べられる四十八漁場

 三陸で最も牡蠣がウマイとされるこの時期に出荷される「雪解け牡蠣」を提供中の四十八漁場ですが、珍しい魚の刺身が食べられることでも有名です。この居酒屋は刺身盛り合わせに使われる魚が日によって激変するんです。刺し盛りといえば、マグロや鯛、アジなどが定番ですが、四十八漁場ではその定番すら外れる日もあるとのこと。これは、四十八漁場が魚種ではなく、カレイなどの白、鯛などの赤、サバなどの青という種類で魚を仕入れているからです。

各店舗によって配送される魚が異なります

 取材当日は都内2店舗の四十八漁場に行ったのですが、この2店舗ですら魚のラインアップは大きく異なっていました。九段下店の刺身盛り合わせは、カツオ、イシダイ、ボラ、生サバ、イナダ、白バイ貝、ヒメ貝から選べました。

九段下店のメニュー。日によって刺身盛り合わせの内容が変わります

カツオ、イシダイ、ボラ、生サバ、イナダの刺身五点盛り

鮮度が命の生サバの刺身は居酒屋では珍しいですね

 ちなみに四十八漁場はお通しがシーズンによっていろいろ変わるのも特徴です。以前に取材したときは三陸のワカメでしたが、今回の取材では小ぶりなホタテ貝に変わっていました。このホタテ貝は養殖の過程で間引かれたもので、小さいながらもしっかりとホタテの味がしました。

お通しも季節によって変わります。現在はホタテの稚貝です(1人3個)

 一方、そのあとに訪れた溝の口店では、ニザダイ、ニシン、マトウダイ、ホウボウ、コブダイ、アオハタなどの刺身としては珍しい魚がメニューに並んでいました。

溝の口店のメニュー。九段下店とは内容がかなり異なります

ホウボウ、イサキ、コブダイ、ニシン、ニザダイの刺身五点盛り

 溝の口店では刺身盛り合わせのほかに「本日の鮮魚一本」として、ウマヅラハギとニシン、ナメタガレイの姿造りや焼き、煮付けなどで注文できたので、さっそくウマヅラハギの姿造りをオーダー。

神経締めにより鮮度を保ったまま提供されるウマズラハギ

もちもちした食感がやみつきになります。肝も添えられているので溶かしていただきました

 メニューに「今朝獲れ」というハンコが押されている魚は文字どおり、その日の朝に獲れた魚です。溝の口店では、宮崎県島野浦(延岡市)、山口県萩市からの魚が「今朝獲れ」でした。

「今朝獲れ」のハンコが押してある魚は、12時間ほど前までは海で泳いでいたものです

 一方で、北海道(厚岸)や岩手(陸前高田)、沖縄(糸満)などの鮮魚は今朝獲れではありませんでした。宮崎も山口も首都圏からは遠く離れているのに、なぜこのような差が生まれるのでしょうか。

朝イチで羽田空港に空輸された魚を即配送

 実は、宮崎県島野浦は宮崎空港(宮崎ブーゲンビリア空港)、山口県萩市は山口宇部空港からそれぞれクルマで1時間強しか離れていないという地の利を生かして、今朝獲れを実現しているのです。各漁港から毎朝、羽田空港行きの7時台の飛行機を使ってその日の早朝に獲れた魚を運びます。

取材当日は山口・萩からホウボウなどが今朝獲れとして入荷していました

 もちろん物流の発達だけで実現できるわけではありません。四十八漁場では、取引している漁師さんに漁に出る時間を早めてもらうことで、航空便に間に合う時間に水揚げが可能になったとのこと。

羽田空港にほど近い場所にある四十八漁場の配送センター

 こうして羽田空港に集められた今朝獲れを含む鮮魚は、羽田空港近くにある羽田鮮魚配送センター(セブンワーク)に運び込まれます。

配送センターは意外にも生臭い魚の臭いは漂っておらず清潔感がありました。ここは仕分けエリアで、魚を捌くエリアは別にあります

手前に見える作業台が秤になっており、各店舗からオーダーのあった魚を重さで仕分けしていきます

 ここで、白、赤、青で区別された魚が、四十八漁場の各店舗別に仕分けられていくわけです。前述したように、店舗からはマグロや鯛など魚種ではなく色で魚を仕入れるため、店舗側では実際に届くまでは魚種はわかりません。

「白」で分類された魚たち。魚種もさまざまですね

「赤」で分類された魚たち。イトヨリとかホウボウとか面構えが素晴らしい

「青」で分類された魚たち。イナダ(ブリ)やサバなどが入っています

 四十八漁場では、市場に出ることが少ない未利用魚などを含めて、水揚げされた魚を丸ごと買い付ける手法を採っており、漁師にとっては安定した収入につながり、四十八漁場にとっては珍しい魚を新鮮な状態で提供できるというメリットがあります。

ウマヅラハギの姿も!

 とはいえ、かなり珍しい魚は捌く技術も必要なので、その多くは都内の神楽坂にある「なきざかな」や日本橋にある「墨之栄」、新宿にある「魚米」など、熟練の職人が在籍する四十八漁場のグループ店舗に納品されるとのこと。

毎日ではないですが、ウツボが入荷することもあるそうです。居酒屋で食べられるのはかなり貴重かも

かなり大きいヒラメ

これはカガミダイ。銀色に輝くマトウダイの仲間です

今の時期はカツオのタタキも食べられます

もちろん定番の鯛などもあります

マグロ(メバチマグロ)は冷凍ではなく生のまま沖縄から空輸されます

熟成させたほうが旨味が強い魚は配送センターで内臓などを取り出して寝かされたあと店舗に配送されます

配送センターでは、鮮魚だけでなく青果の仕分けも担当しています。こちらは苦みの少ない春菊で四十八漁場では「春菊の胡麻サラダ」(540円)として提供されます

なぜ四十八漁場は関西に出店しないのか?

 実は四十八漁場は、宮崎や鹿児島、北海道の地鶏を使った料理で有名な「塚田農場」と経営母体が同じなのですが、塚田農場とは異なり首都圏以外に店舗がまったくありません。

 しかも首都圏といっても、東京と神奈川、埼玉の3都県に集中しており、つい最近の3月1日に千葉県の1号店が新浦安にオープンしたばかり。北関東にすら進出していません。

 関西にも出店してほしいという要望が結構あるそうなのですが、関西には羽田空港レベルの物流拠点がないため、なかなか難しいとのこと。拠点として使うとなれば関西国際空港になると思われますが、大阪市内や神戸、京都からはちょっと遠いですしね。

 さらに首都圏の四十八漁場は、前述の宮崎や山口、北海道、岩手のほか、季節によっては福井などから鮮魚を仕入れています。しかし、漁業は天候に左右されるため、時化で出港できない場合や不漁の場合に仕入れが極端に少なくなるリスクがあります。四十八漁場ではこれを回避するため、千葉・館山から魚を安定供給できるシステムも構築しています。

今朝獲れとして宮崎や山口から羽田空港に空輸された海産物は、配送センターのスタッフが直接ピックアップします。関西出店を考えるなら空港からかなり近いところに配送センターを設ける必要があります

 つまり、四十八漁場が関西に出店するには、空港から配送センター、店舗までの物流システムの整備と、魚を安定供給できる近場の漁場との関係構築など、乗り越えるハードルが高いわけです。とはいえ近い将来、難なく解決しちゃうかもですが。

配送センターで各店舗ごとに仕分けられた魚は、ミニバンで地域ごとに運ばれていきます。1台で3店舗ほどを回るそうですが、店舗での仕込みを考えると配送センターから片道2時間ぐらいまでが限度。四十八漁場が北関東へ進出しないのはこの時間の壁があるからです

 物流の進化と漁師の努力によって実現した今朝獲れ。最寄りの四十八漁場で、刺身盛り合わせや姿造り、煮付けなどをぜひ堪能しましょう。

お詫びと訂正:初出時、一部の魚の名前が間違っておりました。お詫びして訂正いたします(4月11日21:00)。

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