1.日本向けの独占タイトルが目立つ
一番大きいのはコンテンツの差でしょう。以前の連載でも語った話ですが、いくら技術的に優れていても、遊びたいコンテンツがなければ多くの人には受け入れられません。
RiftやViveでは独自タイトルが中心ですが、PS VRはグランツーリスモ、バイオハザード、ファイナルファンタジー、ダンガンロンパ、初音ミク、鉄拳、エースコンバット、アイドルマスターなど、すでに日本でも親しまれている作品がローンチタイトルに並んでおり、いろいろな人にVRに興味を持ってもらえそうな入り口となっています。
2.セッティングや運用が簡単
RiftやViveでは、利用するPCにGeForce GTX 970以上/Radeon RX 290以上という高性能なグラフィックカードが求められます。今の時代デスクトップPCを持っている人は、そう多くないのでこれから揃える人の多くは、PCごと新調してWindowsやHMD用ソフトのセットアップをすることになるでしょう。しばらく使っていたら、OSのアップデートやドライバーなどの組み合わせでトラブルが起こるかもしれません。PS 4のPS VRなら、そうした手間も軽減できます。
3.メガネが入りやすい
RiftやViveは、目の周りにヘッドマウントディスプレー部のスポンジを当てて、後頭部のベルトで固定する方式。一方、PS VRは、前頭部から後頭部にかけて斜めにかぶったリングを締めて、そこにぶら下がったヘッドマウントディスプレーを前後に動かしてピントを調節する方式です。先にヘッドマウントディスプレーにメガネを入れてから一気にかぶったりすることなく、より多くの人が楽に装着できます。特にOculus Riftは、幅142×高さ50mm以下と指定されているように、フレームの大きなメガネが入りにくいですが、PS VRは比較的大きなサイズでも使えます。
4.HMD単体でも使える
RiftやViveは、PCの起動時にディスプレーが必須となりますが、PS VRはテレビなしでも単体での運用が可能です。PS 4の画面をそのままHMD内に大スクリーンで表示する「シネマティックモード」を利用すれば、Blu-rayの映画やtorneのテレビ番組、ネットの動画配信サービスなども視聴可能。つまり無理矢理リビングに置くことなく、自室にPS 4とPS VRだけ持ってきて従来のテレビの代わりとしても使えるということです。もちろんテレビがあれば「ソーシャルスクリーン」としてHMDで遊んでいる内容を映して、ほかの人と一緒に楽しめます。
5.体験できる場所が多い
現時点での話でいえば、いくらVRとネットやメディアで騒がれていても、多くの人がまだVRについての感覚を持っていないので「あれかー!」と直感できない状況にあります。まずはかぶってみる必要があるわけですが、PS VRはお台場でのイベント展示に加えて、全国の家電量販店でも土日に体験会を実施しているのが強みでしょう。ただしこの点、先週よりViveが全国38店舗での常設展示を始めたので、だいぶ差が詰まってきているかたちです。
拡張性やコンテンツのつくり方などの3つの懸念
特徴だけ見るとPS VRが最強にみえますが、一方で完璧というわけではありません。ざっと考えられるのは、以下の3つでしょうか。
1.拡張性の低さ
これは楽に導入と運用ができるというメリットの裏返しでもあります。VRの世界は、文字どおり日進月歩で技術が進んでいますが、家庭用ゲーム機は一度販売したらある程度の期間、同じ製品を売り続けることになります。
PS 4でも強化版であるNeoの存在が明らかになっているとはいえ、最新のグラフィックスを利用したより高品位な表示や、いくつもの周辺機器をからめた新しいVR体験などは、パーツの交換や追加が楽なPCのほうがよりアップデートしていきやすいでしょう。
2.モーションコントローラーが別売
これはOculus Riftにも言える話ですが、PS VRでは見た目の価格を下げるためか標準キットに「PlayStation Moveモーションコントローラー」が含まれていません。そして、Rift、Vive、PS VRと据え置き型のVRHMDが出揃って、従来の平面のディスプレーでは得られない「よりVRらしい体験とは?」という話になったときに、そのひとつとして手を使った触れる感覚が挙げられるでしょう。
モーションコントローラーが別売では、つくる側もゲームコントローラーとモーションコントローラーの両方になるべく対応する方がいいわけで、ゲームデザインにも影響してきます。遊ぶ側としても、海外では販売しているPS Moveを含むバンドルキットが日本にはないので、その辺は用意してほしいところです。
3.座った状態での利用がオススメ
これも「よりVRらしい体験」という話につながるところです。Viveでは、2つの外部センサーを対角線上に置くことで、「ルームスケール」という約4.5×4.5mの空間を歩けるようにしていますが、RiftやPS VRでは基本、座っての体験を推奨しています。VRHMDをかぶってヘッドホンをすると、周囲の状況がまったくわからなくなってしまうので、プレイヤーの安全を考えて……という配慮なのですが、意外とこの考え方もゲームデザインに影響してきそうです。
例えばモーションコントローラーを使ったスポーツやアクションのゲームは立って自由に動きたいでしょうし、少しでも自分の体で動くからこそ、現実とバーチャル空間の体感が一致してVR酔いしにくくなるところもあります。
もちろん座るタイプのVRコンテンツで面白いものも多く、人によっては体全体プレーすると疲れて長時間遊べないという声もあります。VRが一般化していないがゆえ、プレイヤーを自由に動かして事故が起こったら、ドローンのように過剰反応が起こって変に規制が入るという未来も考えられるでしょう。
ただ、現時点でHTC Viveが国内で快進撃を続けている背景には、バーチャル空間で手や足を再現して動ける気持ちよさもあるので、VRの概念が一般に広まってきたら、PS VRでももう少し自由に動けるようになるのかもしれませんね。
以上の懸念は、いろいろなVRHMDとコンテンツを体験した上での意見なので、現状ではあまり多くの人に影響せずに、PS VRが発売されて「御三家」のコンテンツがある程度出揃ってきてから差がつく話かもしれません。
実際、PS VRの体験会で見られるコンテンツも素晴らしく、初めての人にとっては大きな衝撃を受けるでしょう。そしてクリエイティブな人ほど、その可能性を語り始めます。買おうかどうか迷っている人は、「迷わずかぶれよ、かぶればわかるさ」の精神でぜひ体験会に行ってみてください。
広田 稔(VRおじさん)
フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。
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