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空間に三次元でお絵描きできる!

VRは「楽しむ」だけじゃない 「つくる」も実現できるツールだ

2016年06月05日 10時00分更新

文● 広田 稔 編集●飯島恵里子/ASCII.jp

VR業界の動向に日本一詳しいと自負するエヴァンジェリスト「VRおじさん」が、今週のVR界の出来事をお知らせします!

ゲーム開発エンジン「Unreal Engine 4.12」でプレビュー実装された「VRエディター」。バーチャル空間を手で、オブジェクトを直感的に配置していける

 どもども!! VRおじさんことPANORAの広田です。月ごとにニュースがガンガン増えていっている実感のあるVR業界ですが、今週も豊作でしたよ! 海外では、台湾で開かれているPC見本市「COMPUTEX TAIPEI」に合わせてAMDが発表した新型GPUの「RX480」や、マイクロソフトがHoloLensのプラットフォームをサードパーティーに解放したこと、VRコンテンツ制作にも使われるゲーム開発エンジン「Unity 5」がライセンス形態を月定額に移行したことなどが話題になっていました。

 国内では、デジカがHTCと提携してPC向けVRヘッドマウントディスプレー「HTC Vive」の販売とサポートを始めたこと、以前もとりあげたネットカフェでVR体験を提供している「VR THEATER」が関東近県から全国に展開範囲を広めたことがなどが注目です。そんなモロモロなニュースから、今週はゲーム開発エンジン「Unreal Engine 4.12」でプレビュー実装された「VRエディター」について取り上げていきましょう。


空間に三次元でお絵描きできる!

 VRで最も注目されているのは、エンターテインメントの分野でしょう。牽引しているのはゲームで、実写の360度映像でも映画やコンサート映像、スポーツなどが目立っています。かぶると視界がすべて映像で覆われて、頭を動かして自然に見たい方向を選べるVRヘッドマウントディスプレーは、周囲を見回す必要があるタイプのエンターテインメントと相性がいいです。

 一方で、創作にも使えるツールが出てきました。一番有名なのは、何と言ってもグーグルがHTC Vive向けにリリースしている三次元お絵描きソフトの「Tilt Brush」(チルトブラシ)。まずは動画をご覧あれ。



 今までPCを使ってイラストを作成する際には、ペンタブレットなどで平面に描き重ねていきましたが、Tilt Brushを使えばViveをかぶりモーションコントローラーを使って空間にイラストを描いていけます。同じ木を書くにしても、Tilt Brushなら幹から四方八方に伸びる枝や葉を表現できるわけです。

 VRならより直感的に描けるというのも大きなメリットです。Tilt Brushでは、右手のハンドコントローラーがブラシとなっており、人差し指のトリガーを引きながら動かすだけで、空中に軌跡が現れます。左手はツールパレットで、例えば、ブラシの種類を炎や星に変えたり、周囲の環境を宇宙に変えたりといったことが可能です。

 操作もカンタンで、右手で左手のパレット上にあるアイコンを指し、トリガーを引くだけ。ツールパレットは正方形の棍棒のような状態で、左手の親指部分にあるタッチパネルを左右にスワイプして、くるくる回して切り替えられます。この辺、言葉で語ると面倒なのですが、実際にやってみれば1、2分で覚えられます。この習得時間の短さと直感的にツールが選べるところは、Tilt Brushの素晴らしい点のひとつですね。

 そんなカンタンさもあって、描いてるだけで非常に楽しい。絵が下手でも手を動かすと空間に軌跡が現れること自体が心地よいのです。加えて、他のアーティストの作品を制作過程から見られる「Showroom」機能も用意されていて飽きません。筆者は、プライベートなものも含めてVR体験会を多く実施していますが、Tilt Brushの評判はかなりいいです。時間を忘れて1、2時間単位で没頭できるレベルです。

 同様の創作ツールでは、Oculus Riftでも今年下半期に発売予定のモーションコントローラー「Oculus Touch」を使った、3Dモデリングツール「Medium」(ミディアム)があります。モデルを手で回したり、自分で回り込んだりしながら、足し引きして彫刻のように3Dモデルを制作していけます。



VRで見るならVRでつくるほうが楽

 前置きが超絶長くなってしまいましたが、そんなVR向け創作ツールは、ゲーム制作でも可能になっています。

 VRゲームは、主にUnity 5、Unreal Engine 4(UE)、CryENGINEなどのゲームエンジンを利用して開発します。従来はPCモニターを見ながらマウスやキーボードを使ってデザインしていくわけですが、最終的にはVRヘッドマウントディスプレーを被らなければ、バーチャル空間での見え方を確認できません。

 というわけでVRエディターの登場です。この2月、Unity、UE4がそれぞれVRエディターを開発中の機能として発表し、Oculus RiftならTouch、HTC Viveならモーションコントローラーを使って、バーチャル空間を手でデザインしていく様子をお披露目しました。さらに今週2日、UE4がバージョン4.12をリリースし、VRエディターをプレビュー実装したというのがニュースです(PANORAの記事)。

 VRエディターの最もいいところは、オブジェクトを直感的に配置していけるという点でしょう。UE4では、左右のハンドコントローラーからレーザーポインターのような光が出ており、左手でコンテンツブラウザーを開いて、右手で必要なオブジェクトを選択し、レーザーポインターで空間を指して配置していけます。

 レーザーポインターで遠くまで指せるので、自分自身はほとんどその場から動かずに済みます。もちろん上下左右から覗き込んで仕上がりをチェックすることも可能です。全体を見たり、細部を編集したければ、左右の手を開いたり閉じたりすることで、バーチャル空間内での身長を変更できます。

 UE4のVRエディターはまだプレビュー実装なので、これで完成というわけではありません。しかし、タッチパネルを備えたスマートフォンの登場で写真に直にさわって編集できるようになったように、3DコンテンツもVRを使ったほうがより手短に少ないストレスでコンテンツをつくれるという時代の到来を予感させます。

 このVRを創作ツールとして使う流れは、ひとつの大きな潮流となっています。国内では、DVERSE(ディヴァース)が、建築・土木の分野向けに「SYMMETRY」(シンメトリー)を開発中です。CADデータや3Dモデルを読み込ませて、バーチャル空間に直感的に配置したり、日照などの環境を変更しながら、「実際に建物が建ったらどうなるのか?」をシミュレーションできます。



 繰り返しになりますが、VRはエンタメだけでなく、創作にも活用できる幅広い分野に影響を与える技術です。その可能性は計り知れず、もしかしたらAdobeやAutodeskに相当するような企業が今のVR業界から出てくるのかもしれませんね。


広田 稔(VRおじさん)

 フリーライター、VRエヴァンジェリスト。パーソナルVRのほか、アップル、niconico、初音ミクなどが専門分野。VRにハマりすぎて360度カメラを使ったVRジャーナリズムを志し、2013年に日本にVRを広めるために専門ウェブメディア「PANORA」を設立。「VRまつり」や「Tokyo VR Meetup」(Tokyo VR Startupsとの共催)などのVR系イベントも手がけている。


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