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取材こぼれ話

いいモノが売れないシンプルな理由

2016年04月14日 16時00分更新

 本題に入る前に有益な情報なんですけど、パイオニアの製造部門PDDM(パイオニアデジタルデザインアンドマニュファクチャリング)という会社が出している無料アプリ「Wireless Hi-Res Player ~Stellanova~」が面白いんですよ。本当は同じ会社が作ったStellanovaっていうオーディオ用に開発したアプリなんですけど、普通にiPhoneで音楽プレイヤーとして使えて便利です。

 パイオニア独自の「MIXTRAX楽曲解析」という技術を使い、iPhoneに入っている曲を「明るい曲」「ノリがいい曲」「静かな曲」「せつない曲」「癒される曲」の5種類に分類。15曲のプレイリストが自動的にできあがる機能がとても面白くて便利です。曲はリスト更新で変わるので何度も楽しめます。シャッフルプレイヤーとか言って出したらダウンロード伸びそうな完成度です。

Wireless Hi-Res Player ~Stellanova~

気分プレイリスト自動作成機能が便利

 おなじ技術を使い、サビだけを次々に自動再生していく「おまかせスキップ」機能も良いです。これでアルバムを再生すると、そういうメドレー曲のように聴こえて楽しい。あと、ピンと来る曲を探したいときにも便利。

 ついでに言うと、音楽ファイルのコーデック・サイズ・ビットレート・サンプルレートを表示したり、曲からGoogleやYouTubeを検索したり、細かいところの機能も充実しています。Stellanovaに興味を持たせるための宣伝アプリとしての役割があるのかもしれないですけど、これが無料ってほんとおかしい。

機能充実、かゆいところに手が届く感じ

 本論としてはですね、このアプリ、出来はいいのに広報力が弱くてぜんっぜん知られていないんです。ストアのレビューは7件しかない。知られてないものは市場に存在してないのと同じです。ちゅーやんくんが無料ゲームアプリについて同じようなこと書いてましたけど、これ本当にそうなのです。広報力は大事。

お客さんとのミスマッチがあるのでは

 あえて正直に言いますと、PDDMさんは本っ当~~~~~~~~~~に商売がうまくない。今まで光学ドライブを企業相手に売っていて、消費者相手に商売したことないからだと思うんです。それがもどかしく書きはじめてしまいました。

 製品にしたってそうなんですよ。モノはいいんです。Stellanovaは、好きな曲をiPhoneでも良い音で聞く方法を徹底的に考え抜いて、最先端の無線伝送技術をたたきこんだおもろいワイヤレスオーディオです。何がいいって音が良い。解像感も高く、うちのアンプとスピーカーを見るのがせつなくなるくらいです。

Stellanova iPhoneとWi-Fiでつながるプレイヤー。本体+無線ユニット+スピーカーで6万9800円

 デザインもがんばってる。変わった形だけど大人っぽくて、リビングに置いておきたくなる印象。オーディオでよくある面倒くさい設定もアプリでうまくカバーして、簡単に使えるようにしてます。頭いいんすよ。

 でも、売れ方がついてこない。社長に会うたび「いや~~~、なかなかね!」とか言っていて泣けます。社長、一番は客とのミスマッチだと思いますよわたしは。

 Stellanovaって雑誌『アンド プレミアム』とか買ってるようなちょっとリッチな女性層に向けた製品だと思うんです。30~40代でバリキャリ、本物志向。二子玉川 蔦屋家電とか、THE CONRAN SHOPとか、伊勢丹新宿店あたりで、Harman Kardonのスピーカーなんかと一緒に売られていてもおかしくないんです。

 なのに、うまくリーチしない。取扱店一覧を見ると、なんかPC DEPOTで売っている「ハイレゾの新しいやつ」になっている。いやPC DEPOTが悪いわけじゃないんですけど、今回はちょっと違うのでは。消費者向けを出すのが初めてでうまく販路が開拓できないってこともあるんでしょうけど、これが本当にもったいない。

完全にシャレオツな外観なのに売っているのはPCショップ(PCショップが悪いわけではない)

お店に展示して、クチコミのきっかけ作って

 PDDMの人たちって、みんな技術に詳しく、頭が良く、性格も良い、優しいおじさんたちという印象なんですよ。CDが過去のものとなりつつある今こそ、最高のiPhoneオーディオを作ろうという製品のねらいはいいと思うんです。値段はちょっと高くても、間違いなく日本最高品質のものを作ろうという潔さもわかる。技術力も間違いなく本物なんですけど、ひろげかたがうまくない。

 Stellanova最大の売りは、上質な音楽環境という体験そのものです。理想のお客さんがいる店で体験させれば勝ちのはずなんすよ。隣に似たような製品が並んでいても、音を比べたら勝てるわけだから。聞いてさえもらえたら、まあ買わなくても「あれすごい」っていうクチコミも期待できます。とくにねらいとしている女性層はクチコミがとっても強い。ここを使わない手はない。

 本質はかならず伝わります。しかし伝えかたがうまくないと、速度がどうしても遅くなってしまう。ビジネスは時間の勝負、結果として失敗とみなされてしまうのは切ないです。読者と社長とお店のみなさんに、どうか伝われこの思い!




盛田 諒(Ryo Morita)

1983年生まれ、記者自由型。好きなものは新しいもの、美しい人。腕時計「Knot」ヒットの火つけ役。一緒にいいことしましょう。Facebookでおたより募集中

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