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MANABIYA #2で披露されたインフラ×IoTパネル

IoTはゲームチェンジの潮目 ソフトウェアやデータのエンジニアが時代を作る

2018年12月17日 07時00分更新

「技術と技術の衝突の先へ」というタイトルを掲げたITエンジニアの問題解決カンファレンス「MANABIYA #2 - teratail developer days」。10月19日の夜に開催されたパネルでは、インフラ×IoTをテーマにゆるふわながら骨太なトピックが語られた。

語る人、呑む人、スマホな人など自由なパネル風景

全道停電だった北海道の事例で考えた災害とIT

 インフラ × IoTのパネルでモデレータを務めたのは、IoTLTを主催している菅原のびすけさん。パネラーであるさくらインターネットの代表取締役社長の田中邦裕さん、アイレットシステムエンジニアの大石英さん、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任准教授の佐藤雅明さんと乾杯を交し、ゆるゆるパネルを始める。

 さくらインターネットの田中さんは、自己紹介からスタート。「僕はサーバーが好きで会社を立ち上げたんですが、サーバーを安全に扱うためには必要なことがいっぱいある。まず電気が来ないといけないし、ネットも来ないとダメ。ネットにつなぐためには機器も必要。サーバーをやるために気がついたら土地買ってた」と語る。このように土地、電気設備、ケーブル、建築物などの物理的なインフラもできるし、いわゆる情報処理に強い人、プログラムが書ける人などが集まっているのがさくらの強みだという。

さくらインターネットの田中邦裕さん、IoTLTののびすけさん

 のびすけさんのリクエストにより、全道の停電の中、60時間連続稼働した石狩データセンターについての話も披露。田中さんは「道内の電力の1%を吸い取るような巨大なトランスが2系統あったのですが、まさか2系統とも止まるとは思わなかった」と振り返る。とはいえ、非常発電機も複数台きちんと稼働し、優先的に燃料供給を得られたので、問題なく供給再開まで乗り切ったとのこと。田中さんは「燃料供給に関しては病院の次の優先度で放送局と同じレベル。でも、放送局の方に聞いたところ、あのときはがんばって送波したけど、視聴者は端末が使えないから視聴率はそもそもゼロだったらしいです(笑)」という話を披露した。

 一方、こうした災害という観点でインターネットと自動車をつなげる研究を20年近く担当してきた慶應大学の佐藤教授は、「そもそもなぜこのプロジェクトが始まったかというと、きっかけは阪神淡路大震災だった」と語る。1995年に阪神淡路大震災が起こったときは、インターネットよりもパソコン通信がメインだったが、最後まで情報を発信していた端末は電話線と車のバッテリを使っていたという。また、インターネットは「現実世界をセンシングすること」「現実世界をアクチュエート(駆動)すること」が苦手。こうした課題感からインターネットと車をつなぐという実験を進めてきたという。

 プロジェクトを始めた20年前は検証装置も大きく、OSやソフトウェアも全部手作り。しかし、作るのに2週間かかったシステムも、2時間動かすと振動で壊れていたという。「インターネット上の普通のノードとして扱えることが重要。なにかを欠いてしまうことで、活用したい人の創造性がそがれてはいけないと考えていました」(佐藤さん)。

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任准教授の佐藤雅明さん

モノ作りのつもりでIoTをやるのは極悪

 クラウドインテグレーターであるアイレットでIoTプロジェクトに携わってきた大石さんは、「車関連のIoTプロジェクトでラズパイ載せればいいじゃんという人いるんですが、実際は耐久性や熱の問題でもたないんですよね。通信に関しても、安定した環境であればいろいろできるのですが、車載になると低速で、遅延も出てきます」と指摘する。プラットフォームが多種多様なのも悩み所。「端末のOSがいきなりTRONとか、Windows Embeddedとか。プロトコルもMQTT載せられませんとか、いきなり難易度上がります」と大石さんは語る。こうした障壁を乗り越えるためには、二次情報に依存しない情報収集能力やセンスに近いモノが必要になるという。

 また試用だけが続き、本番に移行しないPoC貧乏について、大石さんは「作る側はビジネスになるけど、PoCだけやっても誰のためにもならない。寂しい状況」と語る。また、クライアントの方針がころころ変わるのも問題で、「PoCではクローズネットワークで作っていたのに、本番に移るときにいきなりモバイル通信したいとか、海外にも展開したいとか、将来構想がいきなり目の前に来るのは、発注側のコンセプトがしっかりしていないからだと思う」と指摘する。

アイレット(cloupack)エンジニアの大石英さん

 これについて、田中さんは「日本はものづくり側の人が強すぎる。モノ作るつもりでIoTをやるのが極悪。モノにソフトウェアが付くのではなく、ソフトウェアを動かすためにモノが必要になる。モノをサービスするのではなく、IoTはサービスの手段としてモノが必要になるだけ」と持論を展開する。コネクテッドカーも本来は移動手段のサービス化という観点が重要だが、日本ではものづくりからスタートしがちだ。

Webサービスと同じ世界がハードにもやってきた

 田中さんがもう1つ指摘したのは、ハードウェアは固定的でも、ソフトウェアは連続的という点。性能面の劣化という点でハードウェアを買い換える必要はあるが、基本的には買い換えを意識するものでもなく、ユーザー体験は連続する。「先日、新しいMacBookを買ったので、わくわくのOS設定をしようと思ったら、Apple IDを入れただけでほぼ設定終わってた(笑)」と語る田中さんは、ハードよりソフト、物売りからコトといったパラダイムシフトが必要になると説明した。

 佐藤さんは「まったく同感。愛車という言葉があるとおり、車というハードウェアに執着する気持ちを持つ人もいますが、IoTや車などは触れないものの方が強い気がします」とコメントすると、大石さんも「お客様のコンセプトがぶれるのも、モノを販売したいという気持ちが主体になってしまうから。あくまでモノがどのような価値を提供するのか、どんな生活をもたらしてくれるのかを間挙げるべき」と指摘する。

 田中さんは「ハードウェアとソフトウェアの垣根がなくなり、エンジニアの役割も変わってきた。今まではソフトウェアは従だったけど、これからはソフトウェアが主になる」と語る。また、相手のデバイスを信頼しないという「ゼロトラスト」の原則に関しても言及。「確かiPhoneって、ホームボタンとCPUの間で認証プロセスが走るんですよ。それくらいデバイスの中ですら、ゼロトラストを徹底している。でも、日本のものづくりの人って、どうもクラックされないって思っている節がある。すべてのエンジニアはゼロトラストを理解してもらいたい」と田中さんは語る。

 続いて佐藤さんは「IoTはゲームチェンジの潮目。これからはソフトウェアやデータを使うみなさんが主役になるので、ゲームが変わるところを体験してもらいたい」とエール。最後の大石さんは、「PoCから本番に行くところは大きな断絶があるので、使う側も意識する必要がある。あと、今のハードはソフトウェア更新が前提となるので、つねに改善を求められる。Webサービスと同じ世界がハードにもやってきた」とアピールした。

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