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「ドワンゴはケンカしたら弱い会社」川上会長がデータセンターを作りたい理由 Developers Summit 2015 基調講演

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 「ドワンゴは強くない。ケンカしたら弱い会社」

 来場者からドワンゴの強みを聞かれ、同社代表取締役の川上量生会長兼CTOはあっけなくそう答えた。19日、開発者イベント「デベロッパーズサミット2015」基調講演の一幕だ。

競争力を強めようというのが動機じゃなかった

 ドワンゴの成り立ちがそもそも、アップルのようにCEOがエンジニアをかつぎあげて作った会社ではなく、エンジニアが幸せになれる会社を作ろうとしたのが始まりだったというのも理由の1つだ。

 「会社を立ち上げたのは競争力を強めようと言うのが動機じゃなかった。居心地のいい場所を作ろうとしたら、そういう場所になったという話」(川上会長)

 競争を避けるのは意図的な側面もある。「ぼくは競争が嫌いなので、同じようなところでビジネスをするのは嫌い」と川上会長。ゲームのインフラ開発から創業したドワンゴだが、現在はグリーやDeNAのようにゲームを主軸にした経営はしていない。

 ただし厳しい競争は避けられても、淘汰されずに生き残っていく必要はある。川上会長が生き残りをかけて進めているのは、サービスの性能を底上げするための計画だ。

 外部のサービスを使ってすばやく事業を成長させる、クラウド経営とは正反対の方向を目指すことになる。

ウェブ業界と半導体業界は似ている

 現在、ウェブエンジニアの技術競争は過渡期にある。

 月額いくらで使えるクラウドサーバーも、無料で使えるオープンソース開発基盤も、基本性能は毎年上がる。技術革新を追いかけるよりサービスに乗っかる方がビジネスとしては効率がいい。

 だが、本当にそれでいいのかと川上会長は疑問を持っている。

 川上会長が引いたのは、半導体業界の関係者から聞いた話。ムーアの法則にしたがって半導体が毎年進化した結果、「膨大な数の二流の回路設計エンジニア」(関係者)が生まれたというのだ。

 いよいよ進化が限界に近づいてくると、そうしたエンジニアは市場で競争力を持てなくなってしまう。これはウェブ業界も同じではないかと考えた。

 「努力しなくても新しい半導体工場で生産すれば勝手に性能が向上した。優れた回路設計によって性能をチューニングするより、新しい工場でさっさと作ったほうがいい。これってどっかの業界の未来じゃないかと」(川上会長)

 アマゾンウェブサービスのようなクラウド企業の動きに左右されることなくサービスの品質を保つにはどうすべきか。

あえて制約を設けて開発した方がいい

 「自社専用ハードウェアや自社専用データセンターを将来的にやろうと考えている」と川上会長は話す。

 グーグルやフェイスブックなどグローバル大手はデータセンターに入れるサーバー、半導体単位での設計に乗り出しているが、日本のウェブ企業で設備投資を計画する企業はまだ少ない。

 サービスの性能を向上させるには、原理的により「深い」方に掘る必要がある。自社の理論的限界からサービス設計をする会社を目指したいというのが川上会長の考えだ。

 「普通の工業デザインは、(ウェブ企業のように)デザインやユーザー体験優先(から開発する流れ)とは違う。『できることの中でベストを尽くす』というのが工業デザインの本質。できることとは何なのかを突き詰めて、制約の中で新しいものを作って勝負していく方に舵を切りたい」(川上会長)

 物理的な制約を設けるのは、また別の背景もありそうだ。

コンピューターの動作原理を知らずに開発する人が増えている

 川上会長は最近、物理的な制約を意識しないウェブエンジニアが増えてきたと感じていたそうだ。

 「コンピューターの動作原理を知らずに開発してる人が増えている。どれくらいスケール(規模が膨らむ)するかを計算するとき(ネットワークの)帯域幅だったり(サーバーの)CPUの性能から理論的に限界が出てくると思うが、みんな実験で計測する。もはや『自然』になっている」(川上会長)

 川上会長は46歳。子供時代にはインターネットもなく、パソコンショップのコンピューターひとつから機械語を独学で覚えた。

 クラウドは青天井のシステムに見えるが、実際は出来ることに限りがある。原理的に何が出来て、逆に出来ないのかを理解させ、サービスに強靭さを持たせようという狙いもあるのだろう。

 生き残るための競争力を確保する一方、開発の質を高めるための投資も必要ではないかと川上会長は考えている。

自社専用シェアハウスを作りたい

 流行のサービスをマネるだけなら企画者が傭兵のように開発者を集めればいいが、オリジナルのサービスを開発するためには、企画と開発の距離は縮めていく必要がある。

 「新しいものを作るときは企画と開発の距離が近いほうがいい。開発者が起業するのが一番いいが、能力には偏りがある。ユーザー向けのサービスが作れるかどうかは別問題」(川上会長)

 そんな川上会長が現在いちばん作りたい「自社専用」は、自社専用のシェアハウスなんだとか。エンジニアが社員寮のように住み、気軽に交流できる場所が欲しいという。

 「10Gbpsの専用線が引かれ、野菜室兼用のサーバールームがあり、食堂ではボードゲーム大会が開催できる。そんなところがあればコミュニケーションが進むんじゃないか」(川上会長)

 利用者同士のコミュニケーションを財産とするドワンゴが、社員同士のコミュニケーションに投資するというのは納得。クラウドは持たざるものの文化だが、逆に設備を自社で抱える経営をしようというのも競争原理から言えば納得の行く話ではないか。

写真:編集部

■関連サイト
Developers Summit 2015

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