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アップル、Facebook、Twitterが利用する決済ベンチャー“Stripe”:米国のモバイル決済最新事情2014冬

 米国のモバイル決済最新事情を追う連載も4回目。最後となる今回は、ある決済サービスのスタートアップ企業に迫りたい。その名は“Stripe”――あまたあるシリコンバレーの中でも、注目株との呼び声高いベンチャー企業だ。日本未進出だが、今後その名を耳にする機会はさらに増えるだろう。

米国のモバイル決済最新事情2014冬04

 2014年、Stripeは一気に評価額を倍増させた。年初、8000万ドルの資金調達を行なった際に同社の価値は17億5000万ドルと評価されたが、12月に明らかになった最新の資金調達では評価額が35億7000万ドル(約4300億円)に跳ね上がった。さらにStripeは追加調達を行っており、これまでの調達金額総額は約2億ドルとなっている。

 アップル、Facebook、TwitterがStripeの技術を利用している、と聞けば高い評価額が付いたのも無理はない。そして、Stripeに投資するのは同じくオンライン決済でありライバルとなるペイパルを共同創業したイーロン・マスク氏、ピーター・シール氏、マックス・レヴチン氏と、“ペイパル・マフィア”の異名をとる起業家の名前がズラリ。この他にも名門ベンチャーキャピタル“Squoia Capital”などが名を連ねる。

 ウェブサイトで決済の仕組みを構築するのは簡単ではないが、Stripeは数行のJavaScriptコードを埋め込むだけという手軽かつ効率のよいソリューションを提供する。ビジネスモデルは手数料で、1回の決済につき固定の30セントと取引金額の2.9%を徴収する。これはライバルのペイパルとほぼ同率だが、Stripe人気の背景には、簡単に決済機能が提供できるうえ、顧客はサイト上で決済が完了できるという点にある。ペイパルの場合は、一度ペイパルのサイトにリダイレクトされるので、コンバージョン率や顧客への利便性を考えるとStripeに軍配が上がったとしても無理はない。

 特徴はそれだけではない。Stripeを利用した決済では、顧客が入力したクレジットカード情報をブラウザー側で取得し、ワンタイムトークンを生成する。ショップ側はこのトークンを利用して課金を行なう。そのため、クレジットカード情報がショップと共有されることはない。Stripeのトークンコンセプトは、アップルも“Apple Pay”で利用している(StripeはApple Payの決済プラットフォームパートナーに選ばれている)。

 Stripeの広報担当ケリー・シム氏は、「セキュリティーはわれわれのDNA」と語る。米国では、1億人以上が影響したといわれる大手小売りTargetの顧客情報流出など、クレジットカード情報のセキュリティーが大きな懸念となっている。「オンライン上のビジネスが繁栄するには、安全と簡単が揃う必要がある」――これがStripeの信念だと説明する。

米国のモバイル決済最新事情2014冬04

 Stripe.jsは同社の土台となる技術で、Stripeは決済フローを完備した“Checkout”などの追加サービスを提供する。そのひとつが、“Marketplaces”だ。ここでは同社の顧客であるタクシーサービス“Lyft”での利用方法がわかりやすい。Lyftは乗客からの支払いの受付、運転手への報酬支払いと2つのトランザクションを行なう。

 これには単なる決済サービスよりも複雑な作業が必要となり、Stripe導入前は週に一度オンラインバンキングで運転手への支払い作業を行なっていたという。だがビジネスが成長するにつれ、人手を利用したマニュアルでの手作業は追いつかなくなってきた。そこで、売り手と買い手のトランザクションをサポートするMarketplacesを導入した。Lyftのように、ユーザーにメリットや利便性を提供するアプリでは、さまざまなお金の動きが必要になる。「決済を容易に安全にする仕組みを提供することで、新しいサービスが可能になる」とシム氏はStripeの思いを代弁した。

 このMarketplacesは、Twitterが現在米国でテスト中の“Buy”ボタンでも利用されている。ショップのサイトに行かずにTwitter上でオンラインショッピングが完了するというもので、“ソーシャルコマース”といわれる注目分野だ。もちろん、ソーシャルの雄Facebookも進出している。同社は7月に“Buy”ボタンのテストを行なうと発表したが、やはりStripeを採用している。

 Stripeで特筆すべき点は、創業者のコリソン兄弟だ。兄のパトリック・コリソン氏(26歳)を1年前、アイルランド・ダブリンで初めて見たのだが、若い起業家が珍しくないとはいえ、その出で立ちや立ち振る舞いにいい意味で驚いたことを覚えている。アイルランドの地方都市出身のコリソン氏は当時、かなりのアイルランドなまりだったが、いったん話しだすと周囲のだれよりも冷静な口ぶりだったのが印象的だった。なお、このときのテーマは“起業に場所は関係あるか”。コリソン氏は「よい人材にアクセスできるなどのメリットから、シリコンバレー以外にない」という考えを語った。当時25歳、すでにStripeは創業3年だった。

米国のモバイル決済最新事情2014冬04
ジョン・コリソン氏

 実はパトリック・コリソン氏と2歳年下の弟、ジョン・コリソン氏にとって、Stripeは初めての起業ではない。コリソン兄弟は10代でオークション関連企業の“Auctomatic”を立ち上げている。結局、Auctomaticはパトリック氏が19歳の時に売却、兄弟はいったんそれぞれの学業(パトリック氏はマサチューセッツ工科大学、弟のジョン氏はハーバード大学)に戻った。その時に、パトリック氏は弟にひとつのアイデアを持ちかけた――オンラインで簡単に決済できる仕組みをつくれないものか。というのも、10代のころに端末から情報を検索できるデータサービスを開発したのだが、対価を払って買いたいというユーザーがいたにも関わらず、どのようにしてクレジットカード決済を受け付ければよいのかわからなかったという経験があったのだ。結局、そのまま無料で提供し続けたが、ニーズはあるのではないか、とパトリック氏は思っていた。そしてコリソン兄弟は、この仕組みをつくってみようと開発に着手した。

 当初サイドプロジェクトとして取り組んだものが、Stripeの原型だ。「ほとんどのオンラインサービスは、決済を念頭にサービスを構築しているのではない。何かのアイディアがあり、決済機能は最後に必要となるにすぎない。だが、これが制限になっている」とSims氏は語る。単にクレジットカードの受け付けだけではなく、課金、税、請求書、通貨の対応など付随する作業も多い。Stripeを使うことで、この部分の障害を取払い、サービスの構築と提供、そして改善に徹することができる、と続ける。

 Stripeにとって、今年は飛躍の年となった。アップル、Facebook、Twitterのほか、大きなニュースとなったのは中国のAlipay(Alibaba Group)との提携だ。数億人というAlipayユーザーは、国外のStripe利用ショップで買い物ができるようになる。また、国際展開も積極的だ。欧州と米国が中心だったのが、夏にオーストラリアに進出。合計で18ヵ国対応となった。

 Stripeは非上場企業であり、売り上げ、顧客数、トランザクション数などは一切公開していないが、シム氏によると利用は数万社、取引高は数十億ドル単位に達しているとのことだ。日本市場については、「具体的な予定は明かせない」と言うが、「重要な市場であり、絶対に進出したいと思っている国のひとつ」とのことだった。ビジネス戦略としては、「フォーカスはBtoB」とシム氏は説明する。ネット通販やオークションを手掛ける米大手eBayが保有する決済プラットホームのペイパルとBraintreeとは一線を画すとポジショニングを語った。

 「パトリック(・コリソン)のビジョンは、“インターネットのGDPを増やす”。つまり、インターネット上のコマースをもっと活発にすることで、インターネット経済を成長させる」とシム氏は述べる。Stripeのさらなる挑戦に注目したい。

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