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Windows情報局ななふぉ出張所

Nokia Xは新興市場におけるノキアの“即戦力”になるか

2014年02月26日 17時00分更新

 いよいよスペイン・バルセロナでMobile World Congress 2014(MWC2014)が開幕しました。その初日となる2月24日朝にプレスカンファレンスを開催したノキアが、かねてから噂となっていた“Androidベース”の端末を発表し、話題となっています。

Nokia Xは新興市場におけるノキアの“即戦力”になるか
↑新プラットフォーム『Nokia X』シリーズを発表したノキア元CEOのステファン・エロップ氏。

 ノキアといえば、2013年に米マイクロソフトによる買収が発表され、2014年第1四半期中にも同社の一部となることが決まっています。そんな状況にあるノキアが、なぜ最大のライバルともいえるAndroid端末を手がけるのか、疑問に感じる人も少なくないでしょう。

 しかしその中身を見ていけば、一般的なAndroid端末とは大きく異なるものになっていることに気付くはずです(関連記事)。

■Nokia Xはグーグルを排除したAndroid

 MWC2014でノキアが発表した『Nokia X』シリーズは、単なるAndroid端末というわけではありません。グーグルのAndroidではなく、オープンソース版のAndroidをベースとしています。その違いとして、Nokia Xでは大半のAndroidアプリがそのまま動作する代わりに、グーグルの検索やメール、地図といったサービスを利用することができません。さらに、Androidアプリやコンテンツが流通するアプリストアであるGoogle Playを利用することもできません。

Nokia Xは新興市場におけるノキアの“即戦力”になるか
↑OSはAndroidベースだが、ユーザーインターフェイスはLumiaシリーズに似せて作られており、グーグルのサービスも利用できない。

 グーグルの各種サービスが使えない代わりに、Nokia XではマイクロソフトのBingやOutlook.com、OneDrive、Skypeといったサービスを利用することができます。また、アプリストアはノキアの独自ストアとなります。これにより一部のAndroidアプリは、Nokia Xで動作させるための対応が必要となってしまうものの、多くのアプリはそのまま動作するものと期待されます。ステファン・エロップ氏は「グーグルのサービスを使わない、ノキアとマイクロソフト独自のプラットフォーム」という位置付けを強調。Androidをベースとしながら、グーグルのサービスは利用しないという“対グーグル”色を打ち出した点が特徴といえます。

 実際、Nokia Xはスマートフォンの製品シリーズ名であるのと同時に、OSの名前自体も“Nokia X software platform”となっており、バージョン番号も“1.0.1”などとAndroidとは異なる体系で割り振られています。

■LumiaでもAshaでもカバーできないカテゴリーの“即戦力”

 これまでノキアは、Windows Phoneが失敗した場合に備えた“プランB”として、Androidの開発を続けているという噂が絶えませんでした。そのため、今回のノキアによる“Android”の採用をもって、ノキアがプランBに走ったと感じる人もいるでしょう。

 たしかに、その半分くらいは真実であると言わざるを得ません。これまでWindows Phoneは継続的に低価格端末に対する取り組みを続けており、Lumia 520がヒットするなど一定の効果はあったものの、まだ“思い切り”が足りなかったといえます。そこで2月23日には、Snapdragon 200や400への対応、512MBメモリ/4GBストレージへの対応、ソフトキーの導入、カメラボタンのオプション化などを発表し、Qualcomm Reference DesignのサポートによるAndroid端末とのハードウエア共通化への道を踏み出しました。

 これらが今後数年間を見据えたプラットフォーム戦略であるのに対し、ノキアは新興市場で激化するミドルレンジ端末競争に投入できる、“即戦力”のデバイスを必要としていました。それに近い端末としてAshaシリーズがありましたが、すでにノキアはSymbianを手放しており、今後の展開は限定的です。エロップ氏がLumiaとAshaの中間に位置する端末としてNokia Xを発表したように、Nokia Xはその両者がカバーできない領域に向けたプラットフォームといえます。

Nokia Xは新興市場におけるノキアの“即戦力”になるか
↑Nokia Xシリーズの端末は89ユーロ(約1万2500円)から。5インチの大画面モデル『Nokia XL』でも109ユーロ(1万5300円)と、価格競争力は高い。
Nokia Xは新興市場におけるノキアの“即戦力”になるか
↑MWC2014ではNokia Ashaシリーズの新機種も発表したものの、今後の展開は限定的か。

 Androidアプリの開発者としても、Nokia Xプラットフォームへの参入にあたって何かを大きく“賭ける”必要はありません。既存のアプリをNokia X向けにリリースするだけで、キャリア課金やアプリ内課金によりマネタイズのチャンスを得ることができます。これはAndroidアプリをWindows Phoneに移植することに比べれば、はるかに容易です。

Nokia Xは新興市場におけるノキアの“即戦力”になるか
↑ノキアが運営するアプリストアではアプリ内課金や購入前のトライアル、160以上のキャリアに対応したキャリア課金をサポートする。

■グーグル的な要素を取り除いたAndroidに魅力はあるか

 Nokia Xはオープンソース版のAndroidを利用することで、大部分のAndroidアプリやハードウェア、それらの開発者・開発ベンダーといったエコシステムを活用しつつ、グーグルの影響力を限定的なものにとどめることができます。これはマイクロソフトの戦略とも大きく矛盾するものではありません。

 その一方で気になるのは、グーグル的な要素を取り除いたAndroidに、果たしてどれほどの魅力が残っているのかという点です。

 もし、Androidの魅力の大部分がグーグルのサービスに由来するものであれば、ノキアの挑戦は困難なものとなります。その度合いによっては、小細工なしのAndroid端末を投入したほうがまだマシ、ということもあり得ます。

 特に大きな問題は、Google Playに未対応という点です。中国ではGoogle Playより独立系のアプリストアが主流となっているなど、Google PlayはAndroidに必須の要素とはいえません。しかしどれくらい多くのアプリがノキアのストアに揃うのか、そしてどれくらい多くのAndroidアプリがNokia X上でそのまま動作するのかは、非常に気になるところです。

 ノキアを買収したマイクロソフトは、Windowsコアをモバイルにもクラウドにも、スマートフォンからサーバーまで、幅広いデバイスに展開していくというビジョンを示しています。そんなマイクロソフトの長期的な視点に対して、目の前で起きている競争に向けて投入されるNokia Xからは、近視眼的な印象を受けるのも事実です。

 このノキアとマイクロソフトによるグーグル対抗策が、果たして新興市場でどのように受け入れられるのか、注目したいところです。

山口健太さんのオフィシャルサイト
ななふぉ

MWC2014まとめ

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