2012年07月06日16時30分

国際電子出版EXPOの講演から見えた国内電子書籍業界の今

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 東京ビッグサイトで開催中の電子出版関連の展示会『国際電子出版EXPO』。開幕初日の7月4日には、“人々が求める書籍/出版に私たちはどう応えていくのか”と題したパネルディスカッションを開催。電子書籍端末『kobo Touch』を発表したばかりの楽天 三木谷浩史会長兼社長、電子書籍事業に力を入れている講談社の野間省伸社長、電子出版の国際標準規格“EPUB”を策定する国際電子出版フォーラム(IDPF)の事務局長ビル・マッコイ氏、丸善CHIホールディングスの小城武彦社長の4名が登場しました。

国際電子出版EXPO

 ディスカッションの冒頭、モデレーターを務める小城氏が「みなさん、なるべくフランクに、それぞれの本音に迫る話し合いをしていきましょう」と“ぶっちゃけトーク”を促す発言をしました。実は「楽天と講談社がkoboの事業で協力」というようなサプライズ発表の可能性を求めて取材に行ったのですが、ぶっちゃけネタで会場が盛り上がったのは、三木谷氏にプレゼントされたという“打倒アマゾン”Tシャツを野間氏が披露した瞬間のみ。その意味では期待外れに終わったわけですが、1時間強という短い時間でさまざまなテーマについて語られるなかで、いくつかの興味深いトピックが出てきました。

国際電子出版EXPO
↑三木谷氏にプレゼントされたという“打倒アマゾン”Tシャツを披露する野間氏。ちょっとわかりにくいですが、胸に「打倒アマゾン」という文字が入っています。

電子書籍市場の健全性

 楽天の電子書籍事業への参入に対する感想を求められた野間氏は「日本の電子書籍市場の健全性という観点から歓迎したい」と発言。「市場には競争が必要で、特定の企業による独占あるいは寡占状態になってしまうと、出版や表現の自由が制限されてしまう可能性がある」という持論を展開しました。

 確かに、アップルのアプリ審査でのリジェクト問題などでも見られるように、特定企業が力を持ちすぎると表現の自由が失われてしまう危険性は高まります。しかし、野間氏のこの発言の裏には、「ひとつの電子書籍コンテンツに対してなるべく多くの出口(販売ルート)を確保して、価格決定などの条件交渉でもイニシアティブを握りたい」という出版社の本音も隠れているのではないでしょうか。出版社はコストをかけて電子書籍を作るわけで、それをなるべく多くの場所で売れるほうがいいのは当然です。また、電子書籍ストアーどうしを競わせることで、自分たちに有利な条件を引き出すことも可能になります。「市場の健全性」が出版社にとって有利に働く、という側面もあるのだと思います。

国際電子出版EXPO
↑講談社の野間社長は、日本電子書籍出版社協会(電書協)の代表理事も務める。

紙の書籍と電子書籍の共存

 三木谷氏はkoboの事業について「既存の枠組みを壊さないやり方で進めていきたい」とかねてから強調しており、これは、ひとつにはリアル書店と“Win-Win”の関係を築くことを意味します。この持論を持つに至ったのは音楽産業のたどった道を勉強したからだそうで、ネット配信が普及したことでCDショップが減り結果的に市場規模が縮小したことを、電子書籍においては教訓として活かさなければいけないという主張です。

 この主張には小城氏も「リアル書店は書籍との出会いの場であり、販促の場。店舗数が減れば、人々の読書への興味が薄れて市場がシュリンク(縮小)してしまう」と同意しました。丸善の経営者であり、ハイブリッド書店サービス『honto』(関連サイト)を運営するトゥ・ディファクトの社長でもある小城氏は、その危機感を強く持っているのでしょう。

 また、野間氏も「紙と電子の両立は可能。両者には相乗効果があり、今後は可能な限り同時刊行をしていくつもり。同時刊行のマイナス面はなにもない」と発言。出版社にとっての採算性も、紙と電子のトータルで見ることが可能だとしました。

 一方で、一般ユーザーの意識は「紙なんて時代遅れ。デジタル最高!」とか「電子書籍なんて味気ない。死ぬまで紙の本を買いたい」などと、とかく極端で二者択一になりがち。しかし、それぞれにメリットを持つものならば、共存は可能なはずです。この共存のありかたを探ることこそが、日本の出版市場が持ち直すためのカギになるのではないかと感じました。

国際電子出版EXPO
↑「電子書籍事業はチャンス。社運を賭けてやる」と語った楽天の三木谷会長兼社長。
国際電子出版EXPO
↑パネルディスカッションモデレーターを務めた丸善CHIホールディングスの小城社長。

世界の出版社の悩み“GAFMA”

 ディスカッションの途中には、野間氏がIPA(国際出版連合)の会合で南アフリカに出張した際のエピソードを披露。世界の出版社が共通で抱える悩みは“GAFMA”(ガフマ)であると話しました。

 なんだか怖ろしげな言葉の響きを持つGAFMAですが、“Google、Amazon、Facebook、Microsoft、Apple”の略だそうです。ときに味方になり、ときに敵にもなる米国発の巨大企業たちとどう付き合い、どう立ち向かうのか。これが世界の出版社にとっての共通の関心事になっているそうで、上述した「市場の健全性」の議論とも関連しています。

日本のコンテンツの海外進出

 三木谷氏が「そもそもkoboを買収したのは、日本のコンテンツを海外に持って行きたかったから」と発言。それに対して野間氏は「koboにマンガをバンドルしては?」と“日本つながり”のプロモーションを提案しました。「おお、楽天と講談社のコラボが実現か!?」と一瞬期待しましたが、それ以上の展開はナシ。

 しかし、三木谷氏はフランスなどで日本のマンガの進出ぶりを目の当たりにしており、野間氏にとっても自社コンテンツの海外での認知度が上がるのは損にはなりません。意外と、近いうちにそんなコラボが実現するかもしれません。

国際電子出版EXPO
↑国際電子出版フォーラム(IDPF)のビル・マッコイ事務局長。他の3名とは異なる立場のためか、発言はそれほど多くなかった。

 これ以外にも、「今後の電子書籍の流れを変えるのは教科書のデジタル化」(野間氏)とか、「出版社を買収することはない」(三木谷氏)などといった発言が出ましたが、全体的に慎重な姿勢は崩されておらず、派手な発言を期待した者からするとなんだかモニョモニョする印象。パネラーもそれぞれに現実の利害を抱える身であり、会場に業界関係者が多数詰めかけていたことも影響したのでしょうか。

 なお、国際電子出版EXPOと同時開催の『東京国際ブックフェア』では、楽天が自社ブースにて発売前のkobo Touchを展示中。今週末、7月7日と8日は一般公開日ですので、興味のある人は足を運んでみてはいかがでしょうか。

●関連サイト
第16回国際電子出版EXPO
第19回東京国際ブックフェア
 

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